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【特別対談】赤木雅子×マーティン・ファクラー それでも森友事件に蓋をしてはいけない。日本の民主主義を守るためにも
https://courrier.jp/news/archives/296549/
2022.8.14 クーリエ・ジャポン
事件について抗議する声も大きかったが、真実は明らかにされなかった Photo: Carl Court / Getty Images
金香清
Text by Kim Hyang-chung
今年7月8日、安倍晋三元首相が奈良市内で参議院選の選挙演説中に暗殺された。安倍政権は7年8ヵ月という戦後、最も長い政権だったが、森友学園事件など多くの疑惑が、いまだ曖昧のままにされている。森友学園事件の財務省による文書の改ざん問題で、自殺に追い込まれた近畿財務局の赤木俊夫さんの妻・赤木雅子氏に、米国人ジャーナリストのマーティン・ファクラーが話を聞いた。
マーティン・ファクラー(以下、MF) この座談会が決まった直後に、驚くべき事件がありました。7月8日、安倍晋三元首相が選挙演説中、暗殺された事件です。自分の意志を暴力で実現させようとするのは、民主主義を脅かすことで、容認してはいけません。日本では、戦前の二・二六事件や大正デモクラシーの崩壊など、テロや暗殺によって民主主義が危機に陥ったことがあります。二度と起こすべきではないと思います。
赤木雅子(以下、赤木) 安倍元首相は私にとって大事な人でした。夫の死に関わる真実を知っている人ですから。夫が死に追い込まれた財務省の文書改ざん問題が起きたのは、安倍元首相が国会で「(森友事件に)私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員もやめる」と発言したのがきっかけになったと思っています。本当のことを話してもらわないといけない人だった。にもかかわらず、この暗殺によって森友事件は蓋をされようとしています。
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赤木 雅子 あかぎ まさこ
1971年、岡山県生まれ、1995年に赤木俊夫と結婚。2018年、俊夫氏が他界。俊夫氏を追い詰めた文書改ざんの真相を解明するために、2020年に国と改ざんを指示した佐川宣寿元財務相理財局長に損害賠償を求めて提訴(21年12月に国は裁判の審議を経ずに賠償請求を受け入れる認諾という形で裁判を終わらせた)。著書に『私は真実が知りたい』(ジャーナリスト相澤冬樹氏と共著)。
マーティン・ファクラ―
米国人ジャーナリスト。AP通信、ウォール・ストリート・ジャーナルなどを経て、2005年よりニューヨーク・タイムズに入社、09〜15年には東京支局長を務めた。11年の東日本大震災の被災地を取材し、日本の原子力行政や原発利権についての調査報道で12年ピュリツァー賞ファイナリストにノミネート。著書に『データ・リテラシー フェイクニュース時代を生き抜く』『吠えない犬 安倍政権7年8カ月とメディアコントロール』。
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死亡前日に安倍元首相と対面
MF 安倍元首相が亡くなったからと言って、森友事件を終わりにしてはいけないと思います。必ず真相を明かすべきです。それは赤木俊夫さんのような犠牲者を再び出さないために、そして健全な民主主義を作り上げるためにも、必要だと思います。
赤木 実は私、安倍さんが亡くなる前日にお会いしているんです。
MF それはどちらで?
赤木 前日の7月7日に、安倍さんは神戸市で遊説をしているのですが、そこに手紙を持って行ったのです。聴衆も多かったので、手紙を渡せるタイミングがあるかどうか考えていたのですが、安倍さんが演説を終わった後、一人一人の聴衆とグータッチをしながら歩き始めて、私の前にも来たので、手紙を渡しました。
MF 受け取りましたか?
赤木 「手紙⁉」と嬉しそうに言って受け取ってくれました。おそらく私だとは気がつかずに、ファンレターだと思ったのでしょう。手紙には夫の死について「再調査してください」と書いたのですが、おそらく読んでくださったと思います。
グータッチをしたときに、咄嗟に「手が暖かいな」と思ったのですね。コロナ禍で他人に触れることが減ったので、特にそう思ったのですが、それが翌日には銃弾に倒れて、冷たくなってしまったと考えると……。なんとも言えない気持ちです。
MF 国葬について赤木さんはどうお考えですか?
赤木 誤解を恐れずに、あえて少し危険な話をします。
安倍さんを暗殺した山上徹也容疑者は、家族を理不尽な事で奪われました。その気持ちが少しはわからなくもないです。そして、山上容疑者によって、理不尽に家族を失ってしまった安倍昭恵さんの気持ちが、よくわかります。家族を失う悲しみを知った昭恵さんに、なおさら本当のことを話して欲しいと思っています。真相が明らかにならないままの国葬では、安倍さんも浮かばれないと思います。
MF 森友学園事件は、日本の戦後の民主主義の弱点がよくわかる事件だと思います。権力者の不正が発覚した場合、まず調査をするのが検察ですよね。しかし検察は日本特有の官僚体質で、自己保身のために政権与党の言いなりです。結局、森友事件にかかわった財務省幹部らを、検察は不起訴にしました。
次に、国会ですが、ここでは自民党の一党支配が続いているので、野党が頑張ってもなかなか与党の不正を最後まで追及することが難しい。裁判も一つの手段ですが、問題を直接、調査するわけではありません。結局、権力のチェック機能を持つメディアが調査しなければ、権力者のやりたい放題になってしまいます。
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森友学園事件
学校法人「森友学園」が小学校建設用地として大阪府豊中市の国有地を購入した際、国による不当な払下げがあったと疑われた事件。安倍晋三首相(当時)の妻である安倍昭恵氏が名誉校長に就任していたことや、当初、森友学園の値下げ要請に近畿財務局が難色を示していたにもかかわらず、安倍昭恵氏の現地訪問直後に話が急展開したため、口利きがあったのではないかという疑惑が浮上した。その後、土地購入の資料の改ざんがあったことが明らかになっており、上司の指示に従って資料を改ざんした財務省近畿理財局・上席国有財産管理官の赤木俊夫氏が自殺した。
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スクープはあっても調査報道がない
赤木 メディアにも頑張ってくださっている記者の方々はいると感じています。
MF この事件が明るみになったのは、朝日新聞が2017年2月に不正が疑われる土地取引があったこと、そして18年3月には取引資料の改ざんがあったことをスクープしたのがきっかけです。それは本当に素晴らしいスクープだと思います。
しかしそのスクープはスタート地点に過ぎないですよね。実際に財務省と政権の間でどんなやりとりがあったのか、なかったのかなどストーリーの追求、つまりスクープの背景に関する調査報道が必要でした。何をどう改ざんしたのか、何を隠したのか、ストーリーをきちんと明かせていないのは、日本のメディアの限界を示していると思います。
あと、日本のメディアの体質がよく表れているのが、この二つのスクープは社会部によるもので、その後、政治部による充分なフォローや追及が足りませんでした。政治部が及び腰で、地方の支局や社会部が付加価値の高い報道をするのは、日本の新聞メディアにはよくあることです。少し古いですが、1988年の贈収賄事件であるリクルート事件も朝日新聞・川崎支局のスクープでした。政治家が絡んでいる話なのに。
赤木 まさにその「背景のストーリー」の部分を知りたくて、私は裁判という方法を取ることにしました。夫が改ざんの事実を記録して残した「赤木ファイル」によって改ざんがあったことは証明されましたが、それは事件解明の糸口に過ぎません。
夫は生前、財務省に「既に意思決定した調書を修正することに疑問が残る」とメールを送っていて、文書改ざんへの疑問を示していました。そんな夫がなぜ公文書を改ざんしてしまったのか、なぜ夫がそんな目にあったのかを、どうしても知りたいと思っています。
財務局が書いた公務災害の申立書には、夫が亡くなった理由について、マスコミと野党の執拗な追及が原因だと書いていました。改ざんの「改」の字もありませんでした。
MF 改ざんに関わった財務省幹部は検察に捜査されましたが、全員不起訴になりましたね。日本の検察は官僚組織独特の問題があります。
古い話ですが、民主党が政権を握る直前の2008〜09年にあった大手ゼネコン西松建設の汚職事件がわかりやすいと思います。当時、民主党党首だった小沢一郎さんの秘書が逮捕され、検察側のリークによって、毎日のように小沢さんの話を新聞が報道しました。この問題には自民党の政治家も多く関わっていたのですが、野党の一番強い政治家を狙い撃ちしたわけです。中立であるはずの検察が、自民党を守るために動いたと言えます。
赤木 夫が生きていたら、公文書を改ざんしたことで、検察に起訴されていたかもしれないのですが、私は起訴されて有罪になって、本当のことを話すべきだったと思っています。
財務省近畿理財局・上席国有財産管理官だった赤木俊夫さん(提供・赤木雅子)
MF ところで、赤木ファイルを当初、ジャーナリストの相澤冬樹さんだけに見せたのはどうしてでしょうか?
赤木 相澤さんがNHKの記者として森友学園の取材を止めなかったことで記者職から外され、退職されたのを知り、この人なら夫の気持ちをわかってくれるのではないかと思ったのです。また。夫が他界した当初は、とにかくマスコミが怖かったのもあります。毎日のようにカメラに囲まれ、連日、記者の方が自宅に来て……。
MF パックジャーナリズム(Pack Journalism、メディアが群れとなって事件を追いかけ、読者や視聴者の好奇心をあおりたてる報道)の典型ですね。メディアが注目される問題を一斉に追いかけては、深く掘り下げることなく、次の話題へと乗り換える。
しかし事件や問題を最後まで根気よく取材するには、時間と人材、財力が必要な上に、リスクが伴います。だからこそ、大手メディアが頑張るべきなのですが……。もちろん素晴らしい記者はたくさんいます。個人より組織が問題ですね。
さらに、大手メディアにはタブーも多い。安倍さんの暗殺後も、山上容疑者が犯行の動機としている宗教の問題が、多くのメディアでタブーになっています。再発防止のためにも、容疑者の家族が崩壊した背景も伝えるべき話なのに。
結局、最終的には、相澤さんのようなフリーランスの方が書いて、週刊誌に出すという道しか残されなくなってしまう。
疑惑が報道されても選挙で勝ち続けた安倍政権
赤木 いまでも粘り強く森友学園事件について、取材を続けている記者の方もいますが、なかなか報道させてもらえないそうです。米国のメディアの状況はどうでしょうか?
MF 米国も特にテレビは刺激的な問題を好むので、取材が浅くなりがちです。
一方で、トランプ政権時は大統領とメディアが対立していたので、特に新聞社が調査報道に力を入れて、トランプ政権の問題を追及していました。
問題はメディアが頑張っても、政権を支持する有権者が気にしないと意味がないという点です。いくらトランプ大統領の不正を暴いても、絶対に支持し続ける勢力が残念なことに多かったのです。前回の大統領選挙で彼が再選していたら、米国の民主主義は危機的な状況になったと思います。
安倍さんの場合も似ていますね。彼はたいへん力のある政治家で、選挙で勝てる力があった。日本のメディアは、有権者が反応しないという壁にぶつかっているのだと思います。
森友学園事件だけでなく加計学園問題、そして公費の不正使用が疑われた「桜を見る会」の問題もありましたが、どんなにマイナスイメージとなりそうな報道があっても、選挙で勝ち続けたわけですから。
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認諾によって隠された真相
MF ところで、先ほど裁判という方法を取ったとおっしゃいましたが、提訴するまでに時間がかかった理由は何でしょう?
赤木 当初はいつか真相が明らかになると思っていたのですが、近畿財務局の人たちが、夫の遺書を外に出さないよう念を押したり、私に財務局で働かないかと懐柔しようとしたりする過程で、徐々に財務局側の人の信頼できなくなりました。
事件と関連する代理人は、財務局から紹介された、中川勘太弁護士にお願いしていましたが、国に損害賠償を求めた裁判も賠償金も100万円に設定されていたり(最初は1円)、現在の代理人の阪口徳雄弁護士に裁判方針について相談したときに、開口一番「このままでは国側はすぐに認諾してしまいますよ」と指摘されました。
MF 「認諾」というのは、裁判所の審判を受けずに、過ちを認めて賠償金を支払うことですね。
赤木 そうです。結局、弁護士を替えて、認諾されないように戦略を立ててもらい、改めて申立書を作って提訴したのですが、認諾という形で裁判はそのまま終了されました。私は証人尋問などを通じて、誰が何のためのどんな改ざんを夫にさせたのかということを明らかにして欲しかったのですが、結果、何一つ教えてもらえていません。つまりは事件の真相を隠すための認諾だったのでしょう。
国が認諾したケースは日本ではこれまで数例だと聞いています。そこまでして、財務省、そして政府が隠したいことは何だろうと思いました。
夫が財務局に勤めていたときに、法務関連を担当していた弁護士がいるのですが、通常、財務局で雇用される弁護士は2年の契約なのです。その方は問題が明るみになった後に、再雇用されています。しかも期限なしで。当時のことを何か知っていて、口封じに再雇用したとしか思えないですよね。森友事件に関わった財務局の人たちは全員、異例の出世をしています。
森友事件は、近畿財務局が忖度して改ざんしただけであって、実際にそれ以上の話はないのではないかとも言われることがあるのですが、認諾のことも含めて、国や財務省の動きを見ると、やはり隠したい何かがあるのだろうと、思わざるを得ません。
日本の民主主義のためにも真相解明を
MF 赤木俊夫さんは組織を守るために死を選んだと思いますか?
赤木 組織のことはもともと、あまり好きではありませんでしたし、いつか本当のことを語るべきだと考えていたと思います。文書の改ざんは財務省からの指示だったのに、局が勝手にやったことだというストーリーにされるのを怖がっていました。それで死を選んだのだと思います。
MF 「下が勝手にやったこと」というストーリーを財務省が描いているので、内部文書が出てくるのはなかなか難しいと思いますが、組織内で力があって良心のある人が動いてくれれば違ってきますね。
赤木 捜査の際に財務局が検察に提出した資料の開示請求の裁判もしているのですが、判決までいったい何年かかるかわかりません。
夫が文書を改ざんしたのが17年2月26日なのですけど、4日前の22日に、改ざんを指示した財務局当時の理財局長・佐川宣寿さんと当時の官房長官・菅義偉さんと何人かで話し合いをしていることがわかっています。そこで改ざんの指示があったのではないかと言われているのですが、その日の話し合いの内容の資料も出してほしいと思っています。
MF 日本は公文書の公開には消極的ですからね。2011年の福島原発事故で内閣の事故調査・検証委員会の調査を受けた、772人の関係者の調書の開示を求めたのですが、開示されたのは百数十人分だけでした。組織内の自己保身ではなく、問題を抱えたままでは国のためによくないと考える、倫理観のある人が内部告発してくれればいいのですけど。
赤木 メディアも諦めずに、内部告発を誘導するような記事を書いて欲しいです。
MF 日本は民主主義国家なのだから、いつか真相が明らかになると信じたいです。赤木さん、たいへんだと思いますが、希望を捨てないでください。
赤木 もしかしたら森友学園事件は自分とは関係ないと思う人も多いかもしれませんが、誰しも職場や組織などで不正を強いられる可能性はあります。
そんな理不尽な事が原因で、私たち夫妻の日常は、ある日突然、壊されてしまいました。日本が平和だと言うならば、二度とこんなことを起こさないために、しっかりと検証してほしいと思っています。
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【独占1万字】米紙が暴いた機密文書「アフガン・ペーパーズ」の衝撃
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PROFILE
金香清(キム・ヒャンチョン) ライター、翻訳家。「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「TeSORO」(ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はフリーランスのライター、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』、著書に『朴槿恵 心を操られた大統領』(文藝春秋)がある。
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