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山口広弁護士が明かす旧統一教会と政治の闇「警察庁出身の政治家の横やりで撃ち方やめ」に 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/308958
2022/08/01 日刊ゲンダイ
山口広(「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人)
「全国霊感商法対策弁護士連絡会」代表世話人の山口広弁護士(C)日刊ゲンダイ
安倍元首相銃撃事件によって「政治と宗教」が再びクローズアップされている。その中心は、言うまでもなく統一教会(現・世界平和統一家庭連合)だ。全国の約300人の弁護士によって1987年に結成された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)は、元首相をはじめとする全国会議員に対し、教団と関わりを持たないよう要請してきた。問題のない集団だと「お墨付き」を与えかねないからだ。80〜90年代に霊感商法や合同結婚式などで社会問題化した統一教会は、なぜ野放しにされてきたのか。政治家はなぜいわくつきの教団に肩入れするのか。35年以上にわたり、被害者の救済に奔走してきた弁護士に聞いた。
◇ ◇ ◇
──霊感商法をめぐっては、教団の組織的関与が認定された民事事件がおよそ30件に上るほか、2007年から10年にかけて警察による摘発も相次ぎました。ジャーナリストの有田芳生前参院議員は「95年秋に警察庁幹部らが〈オウム真理教の次は統一教会を摘発する〉と言っていた」と発言。動きがなかった理由は「政治の力」とも言っています。なぜ教団に大きなメスが入らなかったのでしょうか。
警察の対応が始まったのは05年。09年には刑事裁判で統一教会の組織的犯行が認定された新世事件(特定商取引法違反)に至りました。一連の摘発によって統一教会の動きが少しは収まるかと考え、正直言って喜んでいた。私自身、警察の捜査に協力していたんですが、現場は相当苦労していました。信者の身柄を取っても、彼らは自白しないからです。組織活動の一環であるという実態を隠し、一般的な商売だと供述する。全く口を割らない。現場のフラストレーションがたまる中、新世事件以降の政治の横やりも影響したのか、10年ごろに撃ち方やめとなってしまったんです。警視庁は当初、統一教会の松濤本部までガサ入れする方針だったのに、警察庁出身の自民党有力議員から圧力がかかり、強制捜査は渋谷教会などにとどまった。この話はいろんなところから何回も聞きました。
一連の摘発に「政治家との絆が弱かった」と総括
──教団は正体を隠して霊感商法を続けています。
13件30人余りに上る一連の刑事摘発を受け、統一教会はどう総括したか。「政治家との絆が弱かったから摘発された」「今後は政治家と一生懸命につながっていかなければいけない」だった。表向きは「コンプライアンスの徹底」なんて言っていますが、本音は「もっとうまくやれ」ですよ。
文化庁に繰り返し解散請求を要請
──政治家へのアプローチをさらに強めていくわけですね。全国弁連は宗教法人を所轄する文化庁に対しても、さまざまな要請を行ってきました。
東京地裁の決定によって96年にオウムに解散命令が出されたのを受け、「統一教会にも解散請求をしてください」と何度も申し入れをしました。しかし、文化部宗務課は「組織活動が認められた刑事事件はないから、宗教法人の解散請求まではできない」と。当時、民事訴訟では組織的活動や統一教会の使用者責任が認定されていました。関連する証拠は山ほどある。「いくらでも資料提供しますから、ぜひお願いします」と繰り返し要請しましたが、民事だけではダメだと。ただ、オウムの現状を見れば分かる通り、宗教法人としての統一教会を解散させれば被害がなくなるかと言えば、必ずしもそうではない。宗教団体として活動を続ける余地は残る。霊感商法対策で最も効果を発揮するのは、刑事摘発なんです。統一教会はそれを恐れ、言葉巧みに不特定多数の通行人を呼び止めてビデオセンターに連れて行ったり、高額な商品をいきなり売りつけるようなやり方はできなくなっています。
──それでも、いまだ被害は甚大です。全国弁連のまとめでは、21年だけで相談17件、3.3億円余りの被害が判明。この34年間では相談は約3.4万件、1237億円超の被害が確認されたそうですね。
全国弁連や消費者センターに持ち込まれた相談の集計に過ぎません。氷山の一角です。霊感商法の入り口はいまも3つある。FF伝道、戸別訪問、それに街頭アンケート。FFはファミリー・フレンドの略で、仲間内の誘い込み。戸別訪問は形を変え、無料運勢鑑定なんかをきっかけにしている。かつてのように幅広く網をかけて献金を集める手法はとれなくなっているので、既存の信者を深掘りし、資金源にしています。差し出す財産がなくなれば借金に走らせ、さらには自己破産に追い込み、それでも献金させるのが統一教会のやり口なんです。
──銃撃犯の山上徹也容疑者は動機のひとつとして、教団のフロント団体「天宙平和連合」(UPF)のイベント(21年9月12日開催)に元首相が寄せたビデオメッセージを挙げています。教祖の妻である韓鶴子総裁に元首相が「敬意を表します」などと基調演説する衝撃的な内容でした。
全国弁連は抗議文とともに、メッセージ提供の経緯について説明を求める内容証明郵便を安倍さん宛てに送付しました。しかし、衆院議員会館の安倍事務所は受け取り拒否。地元事務所は受け取ったものの、回答はありません。第2次安倍政権以降、自民党が統一教会との関わりを隠さなくなったことに強い懸念を抱いていました。自民党の変化には2つの理由がある。安倍さん自身が統一教会との親和性に気づき、統一教会とつながりのある議員を積極的に登用するようになったことです。
──教団は関連団体などを通じて憲法改正を求め、同性婚や夫婦別姓に反対すると主張しています。
若手議員は統一教会のイベントに参加したり、祝電を送ったり、それらをホームページなどで発信するようになった。ひと昔前は統一教会の求めには応じるものの、議員たちには問題がある教団だという意識があり、「顔は出すけど、名前は出さないで」と言っていたものです。それがガラッと変わったのは、統一教会と関わりを持てば安倍さんの覚えがめでたくなり、政府の一員になるチャンスになったから。政務官や副大臣、場合によっては大臣に取り立てられることもあった。統一教会が刑事摘発されるケースが少なくなり、マスコミ報道が減り、教団の実態を知らない議員が増えたことも背景にあります。
名称変更に「なぜ!」と抗議、宗務課担当者は「言えません」
事件当日、テレビ各局は特番に切り替えた(C)共同通信社
──97年以降、教団が求め続けてきた名称変更を文化庁が15年に認証しました。第2次安倍政権下でした。
安倍政権が統一教会に協力的なスタンスであったことは間違いない。私どもは宗務課に「名称変更を認証しないでください」と何度も申し入れましたし、担当者も「そんなことはしませんよ」と応じていた。そうした中での突然の認証でしたから、非常にビックリして「なぜ認証したんですか!」と抗議に行ったんです。すると、担当者は「言えません」と。
──それが精いっぱいの対応?
本当にそうでした。当時の担当大臣は下村文科相。文化庁に具体的な働きかけがあったのか、あるいは忖度したのか。そこは分かりません。一方で、「幸福の科学大学」の新設は14年に不認可とした。そっちができて、こっちはなぜできないのか。そう言いたくはなりますよね。
──文科省の大学設置・学校法人審議会の答申を受ける形ではありましたが、幸福の科学総裁の「霊言」の必修科目教材採用や、認可審査中に下村文科相の「守護霊インタビュー」を出版したことが問題視された。岸田自民党は銃撃事件を「民主主義への挑戦」と強調し、事件の本質から目をそらさせようとしているように見えます。
事件そのものは決して許されるものではありませんが、政治倫理が問われている。そう思います。特定の宗教による長年の苦しみが容疑者を行動に駆り立ててしまったということ。右とか左とか、政治がどうこうというレベルではありません。
──銃撃事件の発生からまもなく1カ月。送検された容疑者への法律面の支援は十分なのでしょうか。
奈良弁護士会の方でいろいろ検討し、動いていると聞いています。私は東京なので勘弁してよ、と言いたいですが、統一教会の実情を理解した弁護人がつく必要はあると思っています。
▽山口宏(やまぐち・ひろし) 1949年、福岡県久留米市生まれ。東大法学部を卒業後、78年に弁護士登録。第二東京弁護士会所属。87年に設立された「全国霊感商法対策弁護士連絡会」で21年秋まで事務局長。山一抵当証券被害弁護団、ジーオーグループ被害弁護団、カルテのないC型肝炎被害弁護団、スルガ銀行不正融資被害弁護団などの弁護団長を務めたほか、日航機墜落事故と中華航空機墜落事故の被害者団の代理人などを担当。「検証・統一教会=家庭連合」「宗教トラブル110番」「消費者トラブルQ&A」など著書多数。
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