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※紙面抜粋
※2022年8月2日 日刊ゲンダイ1面
【「無責任なウクライナ報道」悲劇的結末】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) August 2, 2022
プーチンの失脚などは夢のまた夢
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/6zn3qI6NQI
※文字起こし
「国益上の領域を明確にした。それは黒海であり、オホーツク海やクリル諸島周辺の海域だ。これらをあらゆる手段で確実に守る」
ロシアのプーチン大統領が7月31日、北西部サンクトペテルブルクで行われた「ロシア海軍の日」を記念する式典でこう演説して吠えた。
記念日に合わせプーチンは、海の安全保障の指針となる「海洋ドクトリン」の改訂に署名。
米国が海洋覇権主義を取ってロシアの脅威となっていると主張し、国益上、重要な海域を示したわけだが、「クリル諸島周辺の海域」とは北方領土を含む島々の周辺海域のことを指す。「あらゆる手段」とは「軍事力の行使も辞さない」ということだ。
さらにプーチンは、海上から発射できる新型の極超音速ミサイル「ツィルコン」を、数カ月以内に海軍に配備すると明かし、ツィルコンについて「世界に類似したものがない」とその威力を強調した。
「海軍の日」の式典は毎年行われる国威発揚の場とされる。軍事力を誇示する毎度の“威嚇行為”なのかもしれないが、ロシアの重要海域として北方領土周辺が明確に含まれたことは、日本に緊張が走りかねない最悪事態である。
客観的事実に基づかない報道
ロシアが始めたウクライナ戦争は泥沼化。テレビや新聞からは戦争報道がすっかり消えてしまったが、ロシアのミサイル攻撃は今も続いている。爆撃対象は、1日に穀物輸出を再開したウクライナ南部オデーサの港さえ例外ではなく、31日には大手穀物関連企業のオーナーが砲撃で死亡し、輸出正常化が危ぶまれたほどだ。
7月上旬の演説で「西側諸国がロシアを打ち負かしたいなら、試すがいい」と“挑発”したプーチンは強気そのもの。ロシアは、東部ドンバス地域のドネツクとルガンスク両州、南部のヘルソン州やザボロジエ州など制圧した地域について、9月に住民投票を計画しているとも。2014年のクリミア半島同様、ロシア編入を強行しようとしている。
こうした動きに備え、ウクライナは30日、東部の住民10万人に強制避難命令を出した。欧米からの追加兵器を得て、東部奪還作戦を本格化させるというが、ウクライナの副首相は「ロシア軍による破壊でドネツクにはガス供給ができない」と9月以降の暖房シーズンも戦闘が続くことを示唆。戦争の終わりはまったく見通せない。
侵攻以降、日本の大メディアは、明日にでもプーチンが行き詰まるかのように報じてきたが、プーチンは失脚どころかますます意気軒高。あの報道は一体なんだったのか。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏がこう言う。
「日本の大メディアの報道が、いかに客観的事実に基づかないものだったかという証左です。ロシアの中立的機関の世論調査ですら、プーチンの支持率は侵攻前から上昇し8割をキープしている。戦況にしても、キーウからは撤退しましたが、東部は大部分を制圧したので『ウクライナ東部の人々の解放』という侵攻理由に沿っており、ロシア国民には不満がない。経済制裁についても、当初の不安は消えました。原油価格が高騰したうえ、中国やインドが原油を大量に買ってくれたので、収入が増えているからです。ロシアを悪く言う専門家ばかりに頼った日本の大メディアは、先行きを読み間違えたのです」
テレビで見ない日はなかった「防衛研究所」の職員たち。防衛省のシンクタンクだけに、ロシア苦戦の解説は、岸田政権の方針に沿ったプロパガンダの意図もあったのか。
そして、日本政府のお先棒を担ぐ形でウクライナ当局の報道を垂れ流してきた大メディア。洪水のような報道がなくなったのは、長期化して視聴率が取れなくなったからか。
本来は今こそ、資金力も人手もある大メディアの出番のはずなのに、「無責任なウクライナ報道」に頬かむりするだけなのか。
異論排除の政治がオプションなき思考停止を招いた
現状を冷静に分析すれば、プーチン失脚などは夢のまた夢だ。北方領土を含む周辺海域を守るためなら「軍事力の行使も辞さない」とプーチンに凄まれ、日本政府は右往左往じゃないか。
「サハリン2」の一件でも日本政府の対応はお粗末だった。極東サハリン沖の石油・天然ガス開発事業について、プーチンが6月末、運営会社を事実上、国営化する大統領令に署名。日本の大手商社が保有する権益が、ロシアに接収される可能性が出てきたのだが、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議にまで岸田首相が出席した日本に対し、プーチンが“報復”に出る恐れは十分予想できた。しかし、日本政府は、情報収集も危機管理も全くできていなかったのだ。
萩生田経産相は「我が国の権益が損なわれることがあってはならない」と繰り返し、7月末の訪米で「サハリン2維持」を米側に説明、「理解を得た」と胸を張っていたが、当のロシア側の動きは見通せていないのだから、独り相撲みたいなもんだ。
ロシアの軍事侵攻は国際法違反であり、決して許されない。だが、欧米の経済制裁にただただ足並みを揃え、先手を打って、駐日ロシア大使館の外交官らを国外退去させた岸田政権の判断に、国益を考えた熟慮はあったのだろうか。
ロシアは「非友好国」に指定した日本に対し、「北方領土問題を含む平和条約締結交渉を続けることは不可能だ」と表明した。安倍元首相が27回も会談し、森元首相が大統領就任初期からカウンターパートとして付き合ってきたプーチンとの関係は全てパー。経済支援をふんだくられただけで、外交上の成果はたいしてなかったとはいえ、日本にいまやロシアとの交渉のパイプはない。軍事侵攻の気配でもあろうものなら、米国にすがりつくしかない状態だ。
子どもの外交で国滅ぶ
「日本の今の国際情勢についての分析や判断は偏っています。それはロシアやウクライナだけではなく、中国や台湾に関しても同様です。政府の外交判断には常にオプションが必要。『プランA』を実行したらどのような危険性や変化があるのかを見極め、別の見解を採り入れた『プランB』のオプションも用意する。中国と対抗している米国だって、ペロシ下院議長の台湾訪問計画に米軍は『行くな』と進言しました。ニューヨーク・タイムズなどのメディアも反対の論調を掲げた。米国ではそれぞれの任務において、異なる意見があることは歓迎されるのです。ところが、今の日本は異なる意見が排除される。長く続いた安倍・菅政権下で『プランA』だけになり、オプションが議論されることはなくなった。岸田政権はその延長線上にあり、思考停止が続いています」(孫崎享氏=前出)
終わらない戦争が超のつくインフレを招き、バイデン政権は支持率が下落。秋の中間選挙を前に、バイデンはウクライナどころではなくなっているという。
結局、長期的な軍事的緊張で得をするのは米国の軍需産業だけだろう。防衛費を拡大し、米国の尻馬に乗るだけの岸田政権は危険極まりない。
政治評論家の森田実氏が言う。
「『世界は民主主義対専制主義の戦いだ』というバイデン米大統領の考え方は根本的に間違っています。議会制民主主義は武力ではなく、協議による多数決で物事を解決する平和的手法ですよ。民主主義のために戦争するのは矛盾した犯罪的な過ちで、そんなバイデンに岸田政権は尻尾を振ってついていくだけ。その結果、『サハリン2』の権益が危うくなって慌てているのですから、やっていることは子どもの外交です。国民は目を覚まして岸田内閣の支持率をゼロにしないと、この国は滅びてしまいます」
今こそ大メディアは、「プランB」を提示する時ではないか。
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