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※紙面抜粋
※2022年7月26日 日刊ゲンダイ
【つくづくバカなことをしたものだ】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) July 26, 2022
安倍国葬は岸田政権の命取り
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/CjHOHprvKp
※文字起こし
55年前の1967年に行われた吉田茂の葬儀。首相経験者として戦後、唯一の国葬として実施されたが、街頭や駅のホームでサイレンが鳴らされ、各地で黙祷が捧げられた一方、東京・渋谷のハチ公前では反対演説やビラ配りが行われていたという。
9月27日の実施が閣議決定された安倍元首相の国葬も、その是非をめぐり国論が二分されつつある。「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫び、社会の分断をあおった人物を弔うのに“ふさわしい”ということなのだろうか。岸田首相はつくづくバカなことをしたものである。
自民党の茂木幹事長は「国民から『いかがなものか』との声が起こっているとは認識していない」と強気で切り捨てたが、安倍の国葬について「いかがなものか」という反対の声が日に日に増している。
21日には市民団体が閣議決定と予算執行の差し止めを求める訴えを東京地裁に起こした。22日は、首相官邸前で市民数百人が反対デモ。「国会でしっかり議論すべし」「岸田首相は政権維持のために政治利用している」などの批判が上がった。南日本新聞(鹿児島県)が22〜23日に実施したアンケートでは、「反対」72.2%で「賛成」の23.1%を大きく上回ったという。
実際、世論は賛否が割れている。それは“安倍シンパ”メディアの世論調査でも実証された。23〜24日に行われた産経新聞社とFNNの合同世論調査で、政府の国葬決定について「よかった」「どちらかと言えばよかった」が50.1%、「よくなかった」「どちらかと言えばよくなかった」が46.9%と賛否拮抗だったのだ。
勇み足で政争の具に
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「外国からの弔電がたくさん届き、献花に行列もできた。これなら国葬をやれる、自民党内の右派のご機嫌も取れる、と踏んだ岸田首相は勇み足でした。時間が経てば、国葬には問題がたくさんあることに世論が気づくのは当然です。まず“特別な人”として国が旗を振って弔意を示すのは戦前の制度であり、法の下の平等の今の時代にはそぐわない。次に、法的根拠が曖昧なのに、国会で議論することなく内閣が勝手に決めるのはおかしい。極め付きが、誰あろう、功罪の「罪」が多い安倍氏ですよ。ただ歴代最長だからでは納得できません。結局、国葬にしたから政治問題化した。遺族はいたたまれないでしょう。慣例通り『内閣・自民党合同葬』にして、静かに故人の冥福を祈る方が、遺族にとってはよかったのではないですか。岸田首相が国葬を政治的に利用しようとしたから、政争の具になってしまったのです」
戦前の1926年に制定された「国葬令」は政教分離を定めた現行憲法の施行により失効した。そのため、安倍の国葬の閣議決定は、2001年施行の「内閣府設置法」を理由とした。だが、この決定は憲法違反の疑いがある。
憲法学者の小林節氏が本紙コラムでこう指摘している。
<憲法上、日本国の意思を決定する機関は、「国会」であり内閣ではない。内閣は、国会が決めた国家の意思を執行する機関である>
<岸田首相は、法制局の官僚に、内閣府設置法の内閣の掌握事務の中に「国の儀式」があることを「安倍国葬」の根拠だと言わせている。しかし、それは、憲法と皇室典範で既に国会により国家の意思が決まっている大喪の礼(天皇の国葬)などを執行するための規定であり、元首相の国葬の根拠になる法律は存在しない>
そして小林氏は、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認した安倍政権の悪行を挙げながら、こう喝破するのだ。
<思えば、安倍首相(当時)が内閣法制局長官人事に介入して以来、事前の違憲審査機関としての法制局が死んでしまったようである>
<まるで、憲法尊重擁護義務のある内閣が憲法の上にある構図である。この安倍政権の負の遺産である手法により、今回は「安倍国葬」が決定されてしまった。しかし、違憲はどうしたって違憲である>
この事実だけでも、ご都合主義の儀式の強行は許されないのだ。
安倍元首相は「政権安定」に統一教会を利用した
凶弾に倒れるという衝撃的な死を前に感情を揺さぶられた多くの国民も、時間とともに冷静さを取り戻す。いまだ真実が藪の中の「モリカケ桜」疑惑に国会で118回もの虚偽答弁。行政の私物化を極めた。そんな元首相は、国を挙げて弔う対象なのかどうか。そこへ、統一教会(現在は世界平和統一家庭連合)問題である。母親が信者で、巨額の献金により家庭崩壊させられたという銃撃犯は、安倍が統一教会の関連団体のイベントにリモート出席した動画を見て、殺害を決意したと供述。そこから、自民党と統一教会の長年の関係がクローズアップされることになったが、早々に安倍国葬を決めた岸田にとって、これは誤算だったのではないか。
本紙も報じたジャーナリスト・鈴木エイト氏が調査したリストによれば、国会議員112人がイベント出席や献金を受け取るなどで統一教会と関係し、自民党では安倍派(清和会)が35人と圧倒的に多い。祖父の岸信介が草創期の教団の後ろ盾という背景があったとしても、霊感商法が摘発されるなど社会問題化した後も、安倍が親密な関係を続けていたことに、多くの国民は驚愕している。
安倍の前任の清和会会長だった細田博之衆院議長が、2019年に統一教会が名古屋で開いたイベントに出席していたことが複数のメディアで報じられた。イベントには韓鶴子総裁が来日。細田は最前列の中央に着席し、韓総裁の入場時に他の参加者とともに起立して拍手していた。スピーチでは「きょうの盛会、会議の内容を安倍総理にさっそく報告したい」と発言。これでは、安倍と教団の癒着に、国民の不信感は高まるばかりなのである。
「内閣・自民党合同葬」に戻すべき
22日放送のBSーTBSの報道番組に出演したジャーナリストの後藤謙次氏は、安倍と教団の“蜜月”を「選挙」というキーワードでひもといた。番組では、2013年の参院選時の教団の内部文書に「(安倍)首相からじきじきにこの候補を応援して欲しいとの依頼がある」と書かれていたと紹介(教団は文書の存在を否定)。これについて後藤氏は、「2012年に自民党が(民主党から)政権を取り戻した。13年参院選は、(安倍氏が)政権を安定的なものにできるかの分岐点だった。勝利のために統一教会にお願いしたのだと思う」と解説した。
「7年8カ月にわたった政権維持の最大の武器が、6度の選挙での全勝だった」と後藤氏は語った。つまり、安倍は統一教会の支援で長期政権の礎を築いたと言える。そんな元首相を全額国費の葬儀で称えようという神経が今、問われているのである。
政治評論家の森田実氏が言う。
「『成功した時が一番危うい』のは歴史の常です。岸田首相は1年近く無難に政権運営をしてきて、参院選で大勝した。安倍氏の国葬で突っ走ったのは、『いよいよ俺の時代』と思ったからでしょう。しかし、法的根拠がない国葬の実施は説明がつきません。吉田茂の時ですら議論があった。法の支配と民主主義を自分たちで叫んでいるのに、国会で議論できず、説明のできないことをやってはいけない。今からでも撤回して『内閣・自民党合同葬』に戻したらどうですか。これから反対派が増える。国民が納得できず、支持されない国葬を押し通せば、政権にとって致命傷になりますよ。自業自得ですがね」
これから2カ月。安倍国葬が近づくにつれ、岸田政権は「黄金の3年間」どころか、窮地に追い込まれていくのではないか。岸田は「丁寧に説明し、多くの国民に納得してもらいたい」と言うが、来月3〜5日を予定する臨時国会の期間を延ばすなどして説明する気もない。
だが、国民は見ている。国葬強行は政権の命取りになる恐れがある。
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