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※紙面抜粋
※2022年7月17日 日刊ゲンダイ2面
【いよいよ国全体が狂ってきた】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) July 16, 2022
安倍国葬 一番の問題は気味悪さ
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/MxmKgBXbhg
※文字起こし
安倍元首相が凶弾に倒れてから1週間足らずの決断だった。岸田首相が14日、首相官邸での記者会見で安倍の「国葬」を今秋に行うと表明した。国会で何ら議論もせず、国民に諮ることもなく、そそくさと決めたことには、ただただ驚く。
首相経験者の国葬は1967年の吉田茂元首相以来、戦後2例目となる。実に55年ぶりの極めて異例な形式だ。法的根拠となっていた「国葬令」は47年に廃止され、吉田の場合は国会で議論した上で、生前の功績を考慮して例外的に行われた。以降、首相経験者の国葬は一度もなく、80年に死去した大平正芳元首相以降は「内閣・自民党合同葬」がほぼ定着していた。
その慣例を明確な基準もなく、打ち破った理由として、岸田が勝手に持ち出したのは言うに事欠いて「民主主義」だ。
「安倍元首相を追悼するとともに、わが国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示していく」
岸田はそう強調したが、戦後の歴代首相の中でも安倍ほど民主主義をないがしろにし、民主主義に挑戦し続けた総理はいない。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「『戦後レジームからの脱却』を標榜し、一貫して民主主義と平和を掲げる日本国憲法を歪め続けたのが、安倍元首相です。数の力に頼った強引な国会運営に走り、少数意見に耳を傾けず、解釈改憲で集団的自衛権を容認。安保法制を押し通し、米国と一緒に戦争できる国へと邁進。憲法53条に基づく野党の臨時国会の召集要請を無視し、国政私物化のモリカケ問題に頬かむりしたこともあれば、桜を見る会問題では118回も国会で虚偽答弁を繰り返しました。安倍元首相のどこに『民主主義を守り抜く』姿勢があったのでしょうか」
外交も経済も「負の遺産」ばかり
自民党の高市政調会長は「国際社会で大きな存在感を示し、実績を残された。国葬は当然だ」と豪語。大マスコミや専門家の間でも「日本の国際的地位を一定程度築いた」などと“外交の安倍”を評価する声が上がっているが、冗談じゃない。トランプ米大統領を必死にヨイショし、米国製の高額兵器を買い漁り、尻尾を振りまくっただけではないか。
内閣の最重要課題に掲げた北朝鮮の拉致問題は在任中は1ミリも進展せず、ロシアとの北方領土問題はレガシーづくりに焦るあまり、2島返還まで後退させてもプーチン大統領に足元を見られて大失敗。“ならず者”に巨額の経済協力費をむしり取られたことも含めて、成果はマイナスである。
「新型コロナ対策はアベノマスクと一斉休校だけ。経済政策もアベノミクスは大失敗です。岸田首相が『大胆な金融緩和』という負の遺産を継承した弊害で円高が加速し、国民生活は今、物価高に苦しめられています。安倍政権の実績を時間をかけて検証すればボロボロなのに、岸田首相は『国葬』決定で冷静な検証にフタをしているように映ります」(法大名誉教授・五十嵐仁氏)
岸田は国葬の理由について、「国内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられている」とも説明した。11日に増上寺で営まれた安倍の通夜には2500人が参列。敷地外にも多くの人が詰めかけ、自民党本部に設けられた献花台にも連日、大行列が成したことも岸田を後押ししたようだ。
多くの人々が突然の蛮行に襲われた安倍を悼む気持ちは理解できる。しかし、そんな世論の盛り上がりに乗じて、何ら法的根拠のない国葬の実施に踏み切った岸田の発想はあまりにも陳腐だ。
死してなお国論を分裂させ、憲法を否定する
安倍ほど功罪の評価が真っ二つに割れ、国民の分断を招いた総理は過去にいなかったのも、また事実である。
岸田が国葬を決める前から、SNS上では賛成派が「#安倍さんを国葬に」、反対派が「#安倍晋三の国葬に反対します」とそれぞれハッシュタグを付け、激しい議論が起きている。死してなお、国論を分裂させるとはある意味、安倍は大した政治家ではある。
ましてや「国葬」は費用の全額を国が負担する。その原資は言うまでもなく、国民の税金だ。会場は吉田の国葬と同じ日本武道館で調整しており、海外要人を招待し、大規模な形式で営む想定で準備を進める。
当然、税金の使い道として国民から疑義をもたれ、政府内では「行政訴訟を起こされるリスクもある」との懸念もあった。そんな慎重論を退けてまで、岸田が安倍の国葬を押し切った背景には「元首相の非業の死」を政治利用して、政権基盤を固めようとする思惑が透けて見える。
まず自民党の国会議員の約4分の1にあたる93人所属の最大派閥・安倍派への配慮だ。特に安倍の急死直後から保守系議員や支持層は国葬を求める声を強めていたため、党内結束の維持や、いわゆる「岩盤支持層」の自民離れを回避する狙いもあるだろう。前出の五十嵐仁氏はこう言った。
「吉田元首相には戦後日本の礎を築いたという国民的な評価があり、『吉田学校』と称されるほど戦後日本を牽引した多くの後継者を育てました。安倍元首相にそれだけの功績がありますか。今の安倍派の混乱は派閥領袖の不慮の死があったとはいえ、安倍氏が後継者を育ててこなかったのが大きな要因です。かような政治家の国葬を実施することで、吉田元首相に肩を並べる大政治家として顕彰し、政治的評価を度外視して『志半ばに非業の死を遂げた偉大な政治家』のごとく祭り上げる。国家指導者の個人崇拝強化は北朝鮮と同じ全体主義国の発想です。岸田政権は悲劇の元首相の神格化を図って、この先は『安倍さんの遺志』を錦の御旗にし、防衛費倍増や改憲に邁進するのは間違いありません」
凶弾に倒れた7月8日は「民主主義の日」に
岸田は「憲政史上最長の8年8カ月」という在職期間の長さも安倍国葬の理由に挙げたが、「山高きが故に貴からず」という故事もある。「総理長きが故に貴からず」で、ましてや長くやってきたことが最大の罪である安倍には前出の通り、数えきれない罪がある。
後世の歴史家の評価を待つ前に、安倍は「歴代最長・最低総理」との評価は揺るがない。歴代ワースト首相が非業の死を遂げただけで、天皇の葬儀にも匹敵するような国葬を執り行わなければいけないのか。前出の金子勝氏も疑義を唱える一人だ。こう語る。
「1926年に制定された『国葬令』は勅令(天皇が直接発する命令)だったこともあり、敗戦後に日本国憲法が施行されると憲法20条3項の『国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない』という『政教分離』の観点から廃止となった経緯があるのです。内閣が税金で安倍元首相の葬儀費を賄い、国民に弔意を強要させるような国葬は明確な憲法違反であり、戦前回帰そのものです。安倍氏に死後も憲法を否定させることにもなります。それなのに、野党からは『税金の使い道』に関する批判こそ上がるものの、憲法違反や戦前回帰への観点は鈍い。国が個人を弔うことに違和感を覚えないムードには、薄気味悪さを感じます」
安倍銃撃事件は反社会的な宗教団体「統一協会」と自民党政治の密接な関係が招いた悲劇とも言える。今こそ政教分離を徹底させるべきなのに、国全体がいよいよ、狂ってきたのか。安倍国葬の一番の問題は戦前回帰を喜ぶような世論の気味悪さだ。このおぞましい空気が続けば、安倍が亡くなった7月8日を、国が来年には安倍の死を悼む「民主主義の日」に制定しても、何ら不思議ではない。
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