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※紙面抜粋
※2022年6月18日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
150日間の通常国会が15日に閉会し、来月10日投開票の参院選に向けて政界は選挙モード一色だ。政権選択選挙ではない参院選は、時の政権に対する「中間評価」の意味合いが強いと言われる。
だが、政権発足以来、岸田首相は何をやっただろうか。
新型コロナ対策は何もなく、オミクロン株の急激な感染拡大を招いた。看板だった「新しい資本主義」は目新しさがどこにもなく、何がしたいのかサッパリ分からない。現下の物価高にしても、ロシアのせいにするだけで、その場しのぎの付け焼き刃。参院選が中間評価といっても、何もないのだから採点のしようがない。
閉会日に行われた会見で、岸田は感染症対策として内閣官房に「感染症危機管理庁」を新設すると表明した。「平時における機能強化を図ったうえで、有事においては各省庁の職員を指揮下に置き、総理大臣のリーダーシップのもと、一元的に感染症対策を行う」というのだ。平時から医療提供体制をチェックし、有事には人員を1000人規模に増員するという。
さらに、専門家組織を一元化するため、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して、米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」も創設する。
これは、コロナ対策を検証する政府の有識者会議が15日にまとめた報告書で、司令塔組織の整備を政府に求めたことが根拠になっている。報告書を受け、夕方の首相会見で「感染症危機管理庁」の創設を表明した形だ。
だが、この有識者会議は5月に発足されたばかりで、当初アピールしていた“徹底検証”は、5月11日の初会合からわずか1カ月あまりで終了。2年間のコロナ対策についての関係者ヒアリングも2回のみで、当時の政策決定者だった安倍元首相や菅前首相、関係閣僚へのヒアリングも行われなかった。
「結論ありき」の有識者会議
「結局、アベノマスクや一斉休校、飲食店への休業要請などは政策として正しかったのか、その意思決定プロセスも何ひとつ明らかになっていない。岸田総理が『6月までに結論を』と期限を決めたこともあり、結論ありきでアリバイ的な有識者会議だったことは否めません。もっと時間をかけて徹底検証すべきだったのに、参院選でアピールするための道具にされてしまったのでは、全国民に大きな影響を与えた新型コロナの経験を今後の感染症対策に生かすことができるか疑問です」(官邸関係者)
それにしても、デジタル庁、こども家庭庁、感染症危機管理庁……と、一体いくつの組織を立ち上げれば気が済むのか。新型コロナの検証結果ひとつマトモに出せないのに、次から次へと組織を立ち上げて、仕事をした気になっているだけではないのか。
「重要政策は、担当する役所をつくったからOKというものではない。本来は、組織ができてからが重要なのですが、デジタル庁にしてもこども家庭庁にしても、権限が曖昧で、縦割り行政の打破どころか屋上屋を架すことになりかねない。組織の新設は“やってる感”を出すには手っ取り早いのですが、その結果、かえって意思決定が遅れたり、政策実行ルートが混乱したりすれば、税金の無駄遣いになってしまいます」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
デジタル庁は菅の置き土産だが、発足後に目立った成果はなく、今や話題にすらならない。事務方トップが就任1年足らずで退任するなどドタバタぶりが露呈し、他の民間出身スタッフも「アナログな会議が多すぎる」「デジタル庁なのにFAXで連絡する」などの理由で愛想を尽かして退職者が相次いでいるという。
デジタル庁は現在「グランドプリンスホテル赤坂(通称・赤プリ)」の跡地に建てられた「東京ガーデンテラス紀尾井町」に入居しているが、その家賃は年間8億8700万円だという。これだけのコストをかけて、目ぼしい効果もないのに放置したまま、新たな組織を次々と設立するのが岸田流ということか。これじゃあポストを増やすだけで、霞が関の焼け太りだ。
官僚に丸投げの「安全運転」国民は不安しかない
「コロナ対策もそうでしたが、岸田首相は基本的に官僚に丸投げです。それに、周囲から何か言われると、『検討します』と言ってすぐに変節し、当初の構想は骨抜きになってしまう。当初は『こども庁』になるはずだった構想も党内保守派から文句が出ると『こども家庭庁』になり、厚労省や文科省との子ども行政一元化やすみ分けはハッキリしない。省庁再編もいとわないような覚悟がまったく感じられず、どこまで本気で子ども政策を考えているのかも疑わしい。そもそも、首相になって“これをやりたい”という政策が本当にあったのか。昨年の総裁選で国民が期待した『分配』と『所得倍増』も尻すぼみになり、家計よりも企業を優先するアベノミクスの継続を是認するような格好になっている。一貫性がなく、方向性が定まらない首相に振り回される官僚も疲弊するでしょう。これでは、首相になることだけが目的だったと言われても仕方ありません」(山田厚俊氏=前出)
党内第4派閥で基盤が弱い岸田は、最大派閥を率いる安倍に配慮せざるを得ないという政治的な事情がある。周囲も「参院選までは安全運転」と言ってきた。
だから、通常国会でも与野党対決型の法案提出は極力避け、政府提出法案61本が全て成立。法案成立率100%は26年ぶりのことだ。
長期政権をもくろむ岸田にとっては、あらゆる対立を避けて、異論も聞くフリで「検討します」と言い続け、新組織を立ち上げて“やってるフリ”を続けることが「安全運転」なのかもしれないが、実際は何もしていないのだから、国民は不安だらけだ。
政権維持しか考えていない
15日の会見で、岸田は「物価・賃金・生活総合対策本部」を新たに政府内に設置することも表明。初回会合を21日に開催するというが、これだって対策を打つのが遅すぎるし、選挙戦で「岸田インフレ」と批判されることを気にして、参院選が公示される22日の前日に“やってる感”を演出するための方策でしかない。
だいたい、漏れ伝わってくる具体策が「節電をした家庭や企業にポイント付与」とか、国民をバカにしてるのか?
「岸田首相は選挙のことしか考えていない。やってるフリで国民の目くらましができればいいのです。あれこれブチ上げるだけの国会閉会会見で、彼には問題の本質を見極めて解決する知恵も、覚悟もないことがハッキリした。国民生活を苦しめるインフレの元凶となっている円安対策には手をつけず、日銀の黒田総裁の異次元緩和継続を許しているのが典型です。そのくせ軍拡にはシャカリキで、日本の首相として初めて、NATO首脳会議に出席することを喜々として表明しているのだから呆れます。米国に言われるままウクライナ危機に介入し、参院選の公約にも敵基地攻撃能力から名称を変えた『反撃能力』の保有や防衛費の増大をうたっている。国民生活のためには何もしないのに、軍事同盟にのめり込んでいるのです。こんな首相は百害あって一利なし。軍拡を公約にして選挙に臨む政権与党も、それを支持する国民もどうかしているとしか言いようがありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
政権維持だけが目的だから、米国に追従し、党内に目配りし、やってるフリを続けるだけ。参院選に勝てば、国政選挙がない「黄金の3年間」とか言って、こんなノラリクラリ政治が3年も続く可能性があるのだ。国民の収入は増えず、物価は上がる一方で、防衛費倍増のために税金は上がり、国力はますます衰え、日本は世界から取り残されていくだろう。
岸田のやってるフリ政治は、国民にとっては迷惑千万。本当にそれでいいのか、選挙を前に有権者はしっかり考えた方がいい。
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