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※紙面抜粋
※2022年6月2日 日刊ゲンダイ2面
【とんでもなかった「新しい資本主義」】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) June 2, 2022
1億総投資で国民が日銀の尻拭い
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/qZF8WXkFQp
※文字起こし
ア然を通り越して怒りすら覚える。
来週の閣議決定に向け原案が明らかになった岸田首相肝いりの「新しい資本主義」と、それを盛り込んだ経済財政運営の基本指針「骨太の方針」のことだ。「新しい」とうたいながら、目新しさはゼロ。それどころか、国民の虎の子をアベノミクスの失政の尻拭いに使うという悪辣まで透けて見えるのだ。
原案によれば「新しい資本主義」の実行計画は「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ(新興企業)への投資」「脱炭素・デジタル化への投資」の4本柱。<徹底して成長を追求していく>と記し、安倍政権以来変わらぬ「成長」「投資」一辺倒なのである。
中でも“目玉”とされるのが、年末までにまとめる「資産所得倍増プラン」だ。日本の個人金融資産2000兆円のうち、半分以上が預金・現金。これらを株や投資信託などへ移してもらうよう「貯蓄から投資」へのシフトを促す。そうして投資から得られる利益を増やし、資産を倍増させるのだという。具体的にはNISA(少額投資非課税制度)や個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の拡充。NISAは非課税枠などの拡大、イデコは現在、64歳以下の加入対象年齢を65歳以上に引き上げる方針だ。
しかし、である。
<家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある>という文言はアベノミクスで散々喧伝され、実現しなかった「トリクルダウン」を思い出させる。岸田政権は、本気で家計を豊かにするつもりがあるのだろうか。いや、その実態は、巨額のETF(上場投資信託)を買い込んで売るに売れなくなっている日銀の救済策ではないのか。
貯蓄1000兆円で株価買い支え
アベノミクスの異次元緩和の一環で、日銀は2013年からETFを購入している。
10年近く続くジャブジャブ緩和の結果、今年3月末時点で日銀が保有するETFは時価で51兆3109億円。日銀は東証の時価総額の7%を占める、日本株の最大株主になってしまっている。
資金の運用規模が大きくなるほど相場に影響を与えるため、日銀が動けば、売り方次第で株式市場は大暴落。投資家が狼狽して投げ売り状態になりかねず大混乱だ。「日銀はもはやETFを売れない」が金融関係者の常識になっている。
そこで、岸田政権は1000兆円の個人の貯蓄に目をつけた。「1億総投資」で株価を買い支えてもらおうというわけだ。個人年金のイデコについて、原案に<預貯金の過半を保有している高齢者に向けて>という記述がある。対象年齢引き上げはズバリ、高齢者のカネを狙っているということだ。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「『骨太』どころか『小骨』みたいな政策ばかりですね。まずは株価が上がる経済にすることが先決なのに、NISAやイデコの拡充などという単純な発想しか出てこないようでは、国民の預貯金を使って株価対策をしようとしていると疑われても仕方ありません。これから世界中で金融引き締めに向かう可能性があり、リスク資産は嫌われる。株価が下がるかもしれないタイミングで、国民の資産を株価の防衛に使おうとは危険な考えです。かつてNTT株で、政府の売り出し価格より株価が下がって、購入した個人が『どうしてくれるんだ』と悲鳴を上げたことがありました。投資は自己責任とはいえ、『NISAやイデコへの投資を促したのは政府でしょう』ということになる。非課税だからと個人にリスクを取らせて、損をしたら知りませんで済むのか。日本経済の成長率を上げることができないのに、『株を買ってくれ』とはちょっと都合が良すぎるのではないですか」
思想も哲学もないアベノミクス回帰
岸田の「骨太の方針」でさらに呆れるのが、日銀の尻拭いをさせてアベノミクス失政のツケを国民に押し付けようとしながら、他方で、経済政策の枠組みは「アベノミクス」そのままという矛盾だ。
<今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持>と宣言。アベノミクスの「3本の矢」を踏襲するというのだからお笑いである。
昨年9月の自民党総裁選で岸田が訴えたのは、「新自由主義からの転換」であり、「令和の所得倍増計画」であり、「分厚い中間層の復活」だった。新自由主義により中間層が細り、格差が広がった。企業は利益をため込み、従業員には果実が回らない。そうした歪みを是正するのが「分配政策の重視」だった。
ところが、賃上げはたいして進まず、富裕層から中間層へ富を再分配する具体策として訴えた「金融所得課税」も、投資家からの不評を気にして封印。結局「分配」は消え、「成長」と「投資」を重視する政策へと転換した。安倍・菅路線と変わらぬ「成長戦略」の焼き直しと、古ぼけた政策が総花的に羅列されただけの「掛け声倒れ」となったのである。
「当初は、アベノミクスとは違う経済政策だと主張していたのに、だんだん何をやりたいのか分からなくなり、ついにアベノミクスに回帰した印象です。株式についても『金融所得課税』と言っていたのが、個人の預貯金を投資へ促す、に変わった。やっていることがまるで逆。これでは日本をどういう国にしたいのか、思想や哲学が全く見えません。岸田首相は『聞く力』をアピールしていましたが、人の話に乗っかっているだけなのでしょうか。だとしたら情けない限りです」(斎藤満氏=前出)
安倍や菅より危険
「骨太」案には防衛力の抜本的強化も盛り込まれた。岸田はバイデン米大統領に防衛費の「相当な増額」を口約束し、自民党は現状のGDP比1%枠を取っ払って「5年以内にGDP比2%以上」を提言。防衛省の研究機関である防衛研究所は、先月31日に公表した2022年版「東アジア戦略概観」で、中国に対処する防衛費の水準は現状の倍近い「10兆円規模」だと示した。
ところが、大幅増額が現実味を帯びてきているのに、岸田はその財源については絶対に答えない。31日の参院予算委員会で、共産党の小池書記局長が「『相当な増額』と言うのであれば、相当な社会保障費削減か相当な増税、国債発行しか選択肢がない」と追及したが、岸田は「具体的な(防衛力強化の)内容が決まらなければ予算について申し上げることはできない」と逃げの一手だった。
挙げ句は財政規律も平然と放棄。「骨太」にほぼ毎年記載されてきた財政黒字化目標の「2025年度」が、今回の原案では削除されているのだ。安倍元首相を筆頭とする自民党内の「積極財政派」に配慮して玉虫色になったとされるが、防衛費倍増で国債を増発するための布石でもあるのではないか。
岸田が財源を明確にしないのは、参院選対策で国民に不評な増税を隠し、選挙に勝てば「白紙委任」としたいからだろう。スウェーデンは国防費のGDP比2%に向け、酒税とたばこ税の増税を明示している。岸田も参院選前に財源を有権者に示さなきゃおかしい。
岸田内閣は支持率が高いが、騙されちゃいけない。善人そうに見える岸田の正体は、庶民の財布に手をつっこんで虎の子まで奪おうとするのだから、むしろ悪魔だ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。
「リベラルでハト派の宏池会の看板を全面的に利用しているのが岸田首相です。しかし、分配重視と言っておきながら投資を優先したり、米国に言われるがままに軍拡路線を進めたり。甘い口当たりでコーティングしながらやるので、安倍元首相や菅前首相より危険です。参院選後は危うさが前面に出てくるでしょう。有権者は選挙前にそれをきちんと見極められるかが問われています」
とんでもない首相にお灸を据えないと、「黄金の3年間」に庶民は身ぐるみ剥がされてしまう。
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