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赤木雅子さんの覚悟「夫婦そろって日本に殺された。でも、私はまだ生きている」 森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/305822
2022/05/27 日刊ゲンダイ
布川事件勝利集会であいさつする桜井昌司さん(撮影・相澤冬樹)
「これが日本だよ。司法は正義の体現が目的ではないのさ。司法を使って治安を守り、体制を守る。そのためには正義や真実は二の次なんだよね」
国と闘い続けたベテランからメール
そんなメールが赤木雅子さんに届いた。財務省の公文書改ざん事件で夫の赤木俊夫さんを亡くし、真実を知りたいと裁判を起こした雅子さん。ところが去年12月、国との裁判が“認諾”という異例の手続きで強制的に終わらせられた上、5月25日、元財務省理財局長・佐川宣寿氏との裁判でも、佐川氏や財務官僚ら5人の証人尋問の申請がすべて大阪地裁で退けられた。この裁判で真実を解明する道は事実上閉ざされてしまった。
その翌朝、事態を知ってメールを送ってきたその人は、桜井昌司さん(75)。強盗殺人の濡れ衣を着せられ、無実の罪で獄中29年間の末、再審(=裁判のやり直し)で無罪を勝ち取り、国などの責任を問う国家賠償訴訟でも勝訴。地名をとって「布川事件」として知られる。
赤木雅子さんとは共通の知人を介して知り合い、意気投合して信頼関係を深めてきた。国を相手に闘い続けてきたベテランだからこそ、重みのある言葉が続く。
「でも、雅子さんの闘いは無じゃないからね。その司法のウロンさを社会に知らしめ、日本を覚醒させる声になっているし、これで声を上げるのを止めないでしょ? ならば、その正義と真実を求める行動は、必ず人に届き、目的を実現させるはず。これに屈しないでやってね」
雅子さんはすぐに返事を返した。
「ありがとうございます。『これが日本だよ』って。そうなんだなあって、その日本に殺されたんだなあって、夫婦そろって日本に殺されたんだなあって思います」
夫の俊夫さんは、財務省近畿財務局で森友学園との土地取引をめぐる公文書の改ざんに反対して組織内で孤立し、見放された状況で命を絶った。いわば「日本」にそっぽを向かれて殺されたようなものだ。
そして雅子さんは、なぜ夫が命を絶つところまで追い込まれたのか、真実を知りたいと裁判を起こしたけれども、国も佐川氏も裁判でほとんど何も語らず、裁判所も証人尋問を認めなかった。雅子さんは、今度は自分が日本に相手にしてもらえなくなったと痛感した。「私はいま、日本に殺されかけています」と。だけど、希望は捨てていない。桜井さんへの返事につづった。
「でも、私はまだ生きています。朝からご飯をモリモリいただきました。この裁判は終わりますが、何ができるか(弁護士の)先生方と相談して闘い続けます」
これに桜井さんがすかさず返事を送ってきた。伝えたかったのは「社会に訴える」ことの大切さだ。布川事件を最終的に勝利に導いた恩人と桜井さんが感謝する柴田五郎弁護士(故人)は、初めて面会で会った時、「この事件は裁判だけでは勝てない。社会に訴えろ」と告げたという。
実際その通りだったと桜井さんは感じている。裁判は法廷内で闘うのはもちろんだが、それだけではない。最後は社会的な支援も得たから裁判にも勝てた、というのが実感だという。
「雅子さんも同じだよ。最後は世論だからね。正義と真実の声は強いから、その力を信じて闘うようにね」
その通りだと雅子さんも感じる。夫、俊夫さんが改ざん指示のメールなどを記録に残していた、いわゆる「赤木ファイル」が裁判で開示されたのも、世論の後押しがあったからだろう。これからも真実を知りたいと闘い続けるためには、ますます世間の共感と支援が必要になる。
もちろん、25日の法廷で起きたこと、証人尋問がすべて却下されたのは悔しいし、クヨクヨする気持ちがないと言えばウソになる。でも、この事態を前向きにとらえるようにしたい。自分を変えて何かを始めなければ。雅子さんは、これから何ができるかを考えている。そして今、強く願っていることは……。
「あの裁判官が、尋問しときゃよかったって後悔するような世の中にならないかなあ」
相澤冬樹 ジャーナリスト・元NHK記者
1962年宮崎県生まれ。東京大学法学部卒業。1987年NHKに記者職で入局。東京社会部、大阪府警キャップ・ニュースデスクなどを歴任。著書『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)がベストセラーとなった。
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