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※紙面抜粋
※文字起こし
ロシアの侵攻が続くウクライナの現状は、本当のところどうなのか。
東部ルガンスク州の攻防は、ロシア軍が圧倒的に有利な戦況にあるようだ。ガイダイ州知事は25日、「州の95%がロシアに制圧された」と通信アプリ「テレグラム」に投稿。ウクライナのクレバ外相も、東部の戦闘について「人々が言う以上に状況はかなり悪い」と認めている。
ロイター通信によると、親ロ派武装勢力は27日、東部ドネツク州のリマンを完全制圧したと表明。ウクライナのアレストビッチ大統領府長官顧問もリマン陥落を認めた。リマンは東部の主要都市に通じる陸の要衝で、ウクライナ軍の輸送拠点のひとつだ。
一時、ロシア軍を国境近くまで押し戻したとされる北東部のハルキウも、再びロシア軍の攻撃にさらされている。ハルキウはウクライナ第2の都市だ。26日には市内の住宅地が砲撃され、少なくとも9人が死亡、19人が負傷したという。
東部以外でも、ロシア軍は攻勢を強めている。ウクライナ側の発表によれば、ロシアの支配下にある南部でも部隊の増強がみられるという。また、短距離弾道ミサイルシステム「イスカンデル」がウクライナの北側に位置するベラルーシに配備されつつあり、首都キーウやウクライナ西部への攻撃に対する警戒が強まっている。
これまで、われわれがテレビで見聞きしてきた戦況とずいぶん違う。ロシア軍は消耗し、プーチン大統領は苦境に立たされているのではなかったのか?
つい最近まで、ウクライナ南東部マリウポリの攻防が連日、日本のテレビで伝えられていた。最後の砦となったアゾフスタル製鉄所に立てこもって抗戦していた兵士が17日に投降。そこに至るまでの洪水のような戦況報道では、投降でマリウポリは陥落したが、ロシア軍を南東部に引き付け、足止めさせるのに十分な働きをしたと専門家が解説していた。この攻防でロシア軍は戦力を大きくそがれ、今後は東部戦線に集中することになるが、ウクライナ軍が6月ごろから本格的な反転攻勢に出てロシア軍を撃退することも可能だと言っていたはずだ。
ところが、ここ数日で聞こえてくる戦況は、聞かされていた話とまったく様子が違う。ロシア軍は侵攻を進め、ウクライナはどんどん占領されている。一体、どうなっているのか。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、奪われた国土を「奪還する」と力強く宣言していた。日本の国民世論もそれを支持し、プーチン苦境の報道には心の中で快哉を叫び、早期の戦争終結とウクライナ勝利を願ってきたはずだ。
戦争の長期化は果たして米国のシナリオ通りなのか
「まず、日本での戦況報道は西側の情報を基にしているということは考慮しなければいけません。西側メディアは基本的にウクライナ側に有利な情報を流し、ロシアやプーチン大統領の劣勢を強調する。5月16〜22日に行われたロシア国内の世論調査センターでプーチン支持率が81.3%に達し、プーチンの行動も78.4%が支持しているという実態は日本では報じられないのです。もちろん、ロシアの世論調査にバイアスがかかっている可能性はありますが、それは西側の情報も同じ。ロシア軍が攻勢を強めているのは事実でしょう。ただし、ウクライナでの戦争の長期化を米国が望んでいるのも確実です。領土を簡単に奪い返すよりも、東部戦線で膠着状態が続いてくれた方がありがたいという米国側の事情もある。本当はどちらが勝っているのかを見極めるのは難しく、間違いないのはこの戦争が長期化することだけです」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)
ロシアによる東部占領は米国のシナリオ通りなのか、あるいは誤算なのか。今はまだ判然としない。
誤算で言えば、米国のバイデン大統領がシャカリキな「中国包囲網」も不発に終わりそうだ。ウクライナに武器を供給して戦闘を任せることでロシアを弱体化させ、その間に潜在的な敵国である中国に注力する。そういう思惑で22日に来日したバイデンは、あからさまに「中国包囲網」を推し進める姿勢を見せた。
日本でIPEF(インド太平洋における経済枠組み)の設立を宣言し、クアッド(日、米、インド、オーストラリアの4カ国による外交・安全保障の協力体制)の首脳会談を開催したのだ。
「バイデン大統領に言われるがまま、日本の岸田首相は中ロに対抗する枠組みにインドを引き込もうと必死にアプローチしましたが、かわされてしまった。インドが包囲網に加わらなければ、クアッドは包囲網の意味がありません。そこで、バイデンはアジア諸国を巻き込んだIPEFを提唱したのですが、やはりアジア諸国に距離を置かれている。米国に盲目的に追随しているのは、バイデンから『国連常任理事国入りを支持する』と持ち上げられて舞い上がっている岸田首相だけです。ウクライナ支援に関しては、欧州も米国から距離を置き始めているように見える。失言が多く、判断能力に懸念があるバイデンに付き従っているだけの日本は国際社会からどう見られているか、考えた方がいい。日本国憲法より上位にある日米地位協定に唯々諾々と従っている米国の属国が常任理事国入りなんて、アジア諸国も支持するわけがないのです」(政治評論家の本澤二郎氏)
アジア諸国で「アメリカ離れ」が進み孤立する日本
バイデンの訪日と同時期にタイ・バンコクで開かれていたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)貿易相会合でも、日米両国は共同声明案にロシアを強く非難する文言を盛り込もうとしたが、参加国の立場は一致せず、共同声明は発表できなかった。
26日には、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への制裁強化が国連安全保障理事会で採決にかけられ、初めて否決された。2006年以降、全会一致で制裁強化を決議してきたが、常任理事国のロシアと中国が拒否権を行使したため廃案になったのだ。
「米国が世界を分断しようと動いていると、中国は懸念を表明している。それに追随しているのが日本で、このままではアジア諸国と日本の間に分断の線が引かれることになりかねません。“脱アメリカ”が進むアジア地域で日本が孤立化すれば、経済的なマイナスが大きすぎる。外務省が25日に発表した東南アジア諸国連合(ASEAN)の世論調査でも、主要20カ国・地域(G20)で『今後重要なパートナーとなる国』は中国がトップでした。米国だって中国との貿易を増やしているのが実態です。どの国も、自国の国益を第一に考えて行動しているのに、日本だけは米国の国益のために動いているのです」(孫崎享氏=前出)
訪日したマレーシアのマハティール元首相も27日、都内で講演し、IPEFの中国排除に懸念を示した。「中国は他国の経済成長に貢献している」「中国との共存が重要だと米国は気付くべきだ」というのだ。IPEF創始メンバーに名を連ねているマレーシアも、米国の政治的な企みに疑念を抱いているのだ。ウクライナ情勢に関しても、NATO(北大西洋条約機構)の兵器供与が戦争拡大につながっていると指摘。
「軍事行動で平和は訪れない」と、米国に対する不信感をあらわにしていた。確実に、アジアの米国離れは進んでいるのだ。
米国との一体化をありがたがり、西側の情報だけをうのみにしていたら見えないものがある。日本は世界の潮流から取り残されかねない。
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