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※紙面抜粋
※2022年5月24日 日刊ゲンダイ
【ハト派の仮面で進める「戦争準備」】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) May 24, 2022
こうして国はアッという間に変わっていく
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/I1JcleVHHN
※文字起こし
「広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない。核兵器の惨禍を二度と起こさないとの誓いを世界に示す」
イメージだけ「ハト派」の面目躍如だ。23日の日米首脳会談後、バイデン大統領との共同会見で岸田首相が来年のG7サミットの開催地を広島市にすると表明した。来年は、日本が議長国。戦争被爆地では初開催となる。
岸田はロシアのウクライナ侵攻を受け、核兵器の脅威と軍縮・平和の重要性を提起する必要があると判断したと明かしたが、同じ会見で米国の「核の傘」を含めた日米同盟の「拡大抑止」の維持・強化に言及。日本の防衛力強化に向け「防衛費の相当な増額を確保する決意」をバイデンに伝えたのだから、もうムチャクチャだ。
多くの国民にとって「拡大抑止」は聞きなじみのない言葉だろうが、同盟国への攻撃を「自国への攻撃」と見なし、核兵器や通常兵器で報復する意思を示しておくことで、敵国に攻撃をためらわせようとする安全保障上の概念である。ある意味、“核の脅し”とも言えよう。
日本は非核保有国だが、同盟国である米国の「核の傘」に入っている。そのことが唯一の被爆国でありながら、世界61カ国が批准した核兵器禁止条約に日本が参加しない原因でもある。被爆地の広島選出を売りにした岸田による地元でのサミット開催決定の裏側で“核の脅し”を強化するとは、「核兵器のない世界」に向けた動きから大きく矛盾している。
トランプ前大統領ら米国首脳が来日するたび、ハシャギまくっていた安倍元首相と違って、地味な岸田の方が「よりマシ」に見えるが、やっていることは大差ない。ややこしい「拡大抑止」なる言葉で国民をけむに巻き、米国隷従路線で「戦争準備」に着々である。
「平和」を連呼し米国に尻尾フリフリ
「国際社会の平和と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」
「今回のロシアによるウクライナ侵略のような力による一方的な現状変更の試みをインド太平洋、とりわけ、東アジアで許さぬよう日米同盟のさらなる強化が不可欠」
共同会見で、岸田はやたらと「平和」を繰り返し、ハト派イメージを前面に押し出していたが、そんな茶番で首脳会談のきな臭いテーマを隠し通せるわけがない。
台湾有事を念頭に中国軍事包囲網を張る──。それこそがバイデンの日韓歴訪の目的だ。その背景には今年11月の中間選挙を控え、長引くインフレで40%台に低迷する支持率の回復に向け、米国内の「嫌中」ムードを利用するという、あざとい狙いも透けてみえる。
そんな思惑を知っていながら、「日本の防衛力を抜本的に強化する」「いわゆる反撃能力も含めて選択肢を排除しない」などとバイデンに唯々諾々と従って、シッポを振りまくったのが、今回の岸田の外交姿勢だ。
誰が首相だろうと変わらない米国隷従路線が、ウクライナ戦争を口実に一気に加速。それも国会などでロクに議論もしないまま、バイデンに対する岸田の“口約束”だけで、防衛力増強など戦後日本の政治的価値観を根本から揺るがす大きな変化が国際公約となり、いつの間にか既成事実化されてしまうのだ。
恐ろしい話である。
国民無視で自民党安保調査会提案を「国是」に
岸田がバイデンに誓った「防衛費の相当な増額」も「反撃能力」も、自民党安全保障調査会が先月下旬、政府に渡した「5年以内に防衛費をGDP比2%を目標に大幅増額」「指揮統制機能等も含む反撃能力の保有」を求める提言内容とリンクしている。
提言書を受け取った岸田は「しっかり受け止めた上で議論を進めていきたい」と応じていたが、その後、議論や閣議決定などの手続きを進めた形跡はない。それなのに、あくまで政権与党内からの提案に過ぎない軍備増強の内容が、日米首脳会談の場で、さも「国是」のように格上げされてしまったのだ。国会どころか、国民軽視にも程がある。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「与党の一部で決まった軍備増強の提案を、いきなり国民に押しつけるなんて許せません。これまでも米国からはNATOの目標である『GDP比2%の防衛費』を日本は要求されてきましたが、曲がりなりにも憲法9条があるので躊躇してきた。それがロシアのウクライナ侵攻によってタガが外れ、国民の不安に乗じて堂々と軍備増強を訴えられるようになった印象です。防衛省所有の軍事転用可能なドローンなども、なし崩しでウクライナに提供。紛争当事国への供与を禁じた『防衛装備移転三原則』の運用指針を議論もないまま、政府が大急ぎで改め、ウクライナを特例にしたためです。同じようにハッと気づいたら、この国が『戦争国家』になっていてもおかしくないのです」
ニコニコしながら国民を戦争に導く首相
あからさまに対中強硬姿勢を打ち出した日米首脳に、中国政府は猛反発。中国外務省の汪文斌副報道局長は23日の会見で「分裂や対抗を挑発する企てはアジア太平洋で歓迎されず、思った通りにはならない」と警告した。
「共同会見での岸田首相の発言は東アジアの警察官気取りでしたが、〈武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する〉を掲げた憲法9条の定めに反しています。武力に武力で対抗する限り、国民の被害は大きくなる。その事実はウクライナ侵攻でも火を見るより明らか。平和国家の日本は武力を使わずに紛争を解決する道を目指すべきです」(金子勝氏=前出)
日本にとって中国は最大の貿易国。いざ、中国と事を構えたら、まず日本経済は成り立たない。世界の穀倉地帯で勃発した戦争の影響で、割安のロシア・ウクライナ産小麦などの輸入が途絶えた中東・アフリカ諸国は食料危機に喘いでいる。中国との対立がエスカレートしていけば日本も他人事ではなくなる。
昨年1年間で日本が輸入した農林水産物のうち13%を中国に頼っており、輸入相手国として米国に次いで2位。品目でみると、冷凍野菜は48.6%を、鶏肉調製品は34.2%を中国に依存している。
食料自給率がたった37%の国が紛争に巻き込まれれば、ひとたまりもない。庶民は貧しい食卓にも苦しめられる。それなのに、冷静な議論も手続きもないまま、なし崩し的に「戦争国家」へとひた走っていいのか。
どの世論調査でも軒並み、岸田内閣の支持率が発足以来最高。参院選での比例区投票も自民党が40%超で断トツの圧勝ムードと、国民が無警戒のタイミングだからこそ、よく考えるべきだ。政治評論家の森田実氏はこう言った。
「戦争ムードが高まると、世論は一気に振れます。先の大戦前もそうでした。23日の岸田首相の会見は、日本が米国の手先、軍国主義国家になる宣言に等しい。中国と対立すれば経済はもたない。岸田氏はこの国の破壊に向かって駆け始めたのです。メディアは岸田氏のゴマカシ、曖昧戦術を擁護していますが、本質は安倍元首相以上の軍国路線にまっしぐら。安倍氏はしかめっ面で嫌われましたが、ニコニコしながら国民を戦争に導いていくのが岸田氏です。参院選の投開票まで50日弱。この期間に真実に目を開かないと、国民には77年前と同じ戦争の悲劇が待ち受けることになります」
表面だけ“平和推し”のハト派の仮面をかぶった軍国首相に、国民はだまされてはいけない。
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