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※紙面抜粋
※2022年5月18日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
岸田内閣の支持率が気味が悪いほど上がっている。直近のNHKの世論調査では前月比2ポイント増の55%。読売新聞の調査では前月比4ポイント増の63%に達した。ロシアによるウクライナ侵攻に岸田首相が適切に対応していると「思う」との回答が62%に上り、2カ月連続上昇というのにも驚く。ロシアにもウクライナにも主体的に関わらず、「G7と緊密に連携」しか言わないくせに、プーチン大統領のおかげで支持率は上がり、野党の不甲斐なさも手伝って岸田政権は左うちわだ。
その一方で、公約の賃上げは実質マイナス。連合がまとめた春闘の賃上げ率(6日時点)は定期昇給込みで2.10%。実態は0.3%に過ぎず、足元の値上げラッシュを考えれば事実上の賃下げだ。
庶民を苦しめる円安地獄は出口が見えない。円は年初から15円も安くなった。アベノミクスに拘泥する日銀の黒田総裁がゼロ金利政策をやめようとせず、日米の金利差拡大やウクライナ戦争などの影響による資源高騰が輸入物価高に拍車を掛けている。
全国の物価動向の先行指標である4月の東京都区部の消費者物価指数(2020年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除いた総合指数が101.3で、前年同月と比べて1.9%も上がった。上昇は8カ月連続で、上昇率は消費増税の影響があった15年3月以来、7年1カ月ぶりの高水準となった。
資源高の影響で、電気代は前年同月比25.8%、ガス代26.8%、ガソリン代14.3%も上昇。これらを含むエネルギー品目の上昇によって全体の指数が1.13ポイント押し上げられ、生鮮食品を除く食料も2.3%上がった。
日本経済をズタズタにしたアベノミクスの生みの親である安倍元首相は「右往左往する必要は全くない」「円安が進行するのを抑えるために金利を上げるべきだという考え方は明らかに間違っている」と居直り、「円安なら企業の収益が増えるメリットもある」と言っていたが、その通りになった。
想像を超えるインフレ加速
輸出大企業やエネルギー関連企業は円安や石油高騰でボロ儲け。22年3月期決算で過去最高の純利益を叩き出す企業が続々だ。輸出で稼ぐトヨタ自動車は前年比26.9%増の2兆8501億円。1月下旬からガソリン補助金も受給する石油元売りの出光興産は約8倍の2794億円、コスモエネルギーホールディングスは61.7%増の1388億円。商社も絶好調で、三菱商事が約5.4倍の9375億円、三井物産は約2.7倍の9147億円といった具合だ。自民党の応援団はこぞってニンマリ。SMBC日興証券が11日までに決算発表した上場企業577社(全体の43.6%)の結果と未発表企業の業績予想などをもとに試算したところ、純利益は前年比35.6%増の33.5兆円に膨張。こちらも過去最高を更新する見通し。決算発表済み企業の23年3月期の業績予想でも売上高は前年比7.9%、営業利益11.8%、純利益5.7%の増加を見込むという。
経済評論家の斎藤満氏はこう指摘する。
「輸入インフレは所得の海外流出を意味します。その負担を企業が負うのか、消費者が負うのか。川の上流にあたる大企業は価格転嫁で円安物価高によるコスト増の抑え込みに動いていますが、中流の中小・零細企業はそうもいかない。下流の消費者とともに逃げ場を見つけられず、インフレの直撃を受けている格好です。日銀は円安そのものは『全体として日本経済にプラス』としていますが、感覚を疑います。中小・零細企業や消費者にのしかかってくる。円安に歯止めがかからず、想像以上のスピードでインフレが進むのは確実でしょう。すでに年率5%ほどのペースで物価は上昇しています」
「所得倍増」は「分配」から「投資」にスリ替え
消費者物価指数の先行指標となる4月の国内企業物価指数(15年=100)は前年同月比で10.0%上昇し、比較できる1981年以降で最大の伸びとなった。指数が前年同月を上回るのは14カ月連続で、指数そのものも過去最高。輸入品の物価指数は米ドルなど契約通貨建てでも29.7%も上昇したが、円換算の上昇率は44.6%にまで跳ね上がる。価格転嫁できない中小や飲食・観光は倒産危機の深刻さを増している。東京商工リサーチがまとめた4月の倒産件数は、前年同月比1.8%増の486件だった。新型コロナウイルス対策の実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が始まり、資金繰り支援による延命は限界を迎え、倒産件数は反転増の段階に移りつつある。
「海外への所得流出を減らすためには、金融緩和の縮小が必須です。市場をカネでジャブジャブにする異次元緩和が資源高を招き、円安にもつながっている。消費者の負担を軽減するために消費税の一時的凍結、トリガー条項凍結解除、小麦などの政府売り渡し価格の凍結といった対策を打つ必要があります」(斎藤満氏=前出)
大企業は過去最高益で高笑いなのに、例の「令和版所得倍増計画」は緒に就きもしない。昨年9月の自民党総裁選で、岸田は経済成長を促し、その果実を分配することでさらなる成長に結び付ける「経済の好循環」を政策の柱に据えた「新しい資本主義」を打ち出した。ところが、富裕層増税のための「金融所得課税の強化」は、産業界の反発や株価急落に焦ってすぐ棚上げ。「所得倍増」は分配ではなく、投資で実現にスリ替えた。
大型連休中の外遊で英ロンドンの金融街シティーで講演した岸田は、「私からのメッセージはひとつです。日本経済はこれからも力強く成長を続ける。安心して日本に投資をしてほしい」「Invest in Kishida(岸田に投資を)」と恥ずかしげもなく訴えた。安倍が13年秋に米ニューヨーク証券取引所での講演で「Buy my Abenomics(アベノミクスは買いだ)」とやったパクリ。銀行マンだった経歴にも触れ、「戦後の総理大臣のなかで金融業界出身は私が初めて」「最近の総理大臣の中では、最も経済や金融の実態に精通した人間だと自負している」と売り込み。「人への投資」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ投資」「グリーン、デジタルへの投資」を掲げ、貯蓄として活用されていない個人資産を投資に向かわせるという4本柱を強調した。成功には引き続き「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を一体的に進めるとも言っていた。この期に及んでもアベノミクスに終止符を打つ気はサラサラないということだ。
安倍晋三とバイデンの忠犬
つまるところ、ウクライナ戦争が岸田のデタラメを覆い隠し、国民の暮らしを苦しめる失政を見えなくしているのだ。理不尽で不公平な世の中なのに、なぜか庶民が怒らない摩訶不思議の理由はここにある。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「便乗値上げも相次ぎ、抜本的な対策を打たなければ、国民は干上がってしまう。世論が怒り狂わないのが不可解なほどの惨状ですが、新聞やテレビが政府・自民党の顔色をうかがって失点につながるような報道を避けているからです。ネットでさまざまなニュースに触れる高齢者は多くはないし、若者は好みのニュースしかチェックしようとしない。あろうことか、岸田首相はウクライナ戦争に乗じて防衛費のGDP比2%超を画策し、反撃能力と称して敵の拠点を叩く能力保有に動き、平和憲法を骨抜きにしようとしている。国内では安倍元首相の忠犬、海外ではバイデン米大統領の忠犬ですよ」
自民党の最大派閥である安倍派が17日開いたパーティーに駆け付けた岸田は、「戦闘能力の高い清和会に引き続き政権を支えてほしい」とおべんちゃらを言っていた。
不見識な野党が目を覚まさなければ、岸田自民党は参院選も楽勝。そうなれば、国民生活は経験したことのないドン底に突き落とされる。
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