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※紙面抜粋
※文字起こし
ゴールデンウイークに東南アジア(インドネシア、ベトナム、タイ)と欧州(イタリア、バチカン、英国)の計6カ国を訪問した岸田首相が6日、8日間の外遊を終えて帰国した。
「いずれの首脳とも本音で大変有意義な議論ができた」と胸を張っていたが、どんな成果があったというのか。この外遊での岸田の言動を見ていると、本当に日本の国益にかなうものだったかは疑わしい。
東南アジアでは「対ロシア包囲網」を説いて回り、その働きかけを“手柄”としてG7の一角であるイタリアと英国に報告。そして、行く先々で軍事的な連携強化を約束してくる。そんな外遊だったからだ。
「東南アジアにはロシアや中国と関係が深く、ロシア制裁に加わらずに距離を置いている国も多い。そんな中で、アジアで唯一のG7構成国である日本に期待されているのは、西側の対ロシア包囲網に東南アジア諸国を引き込む役割です。今回の岸田首相の働きかけは、G7内で高く評価されたことと思います」(外務省関係者)
それで、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と危機を煽って回ったのだが、岸田本人に強い信念があってのことならともかく、米国のパシリをやらされているだけに見える。
「もちろん、米国に言われてやっているのでしょう。岸田首相が最初に訪問したインドネシアは今年のG20議長国ですが、G20内には、制裁強化一辺倒で対立を先鋭化させる米国やNATOのやり方に疑問を持っている国が少なくありません。4日に公開された米タイム誌のインタビューでも、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領が『ロシアのプーチン大統領に罪があるなら(戦争を避けようとしなかった)ウクライナのゼレンスキー大統領も同等だ』『米国のバイデン大統領が飛行機でモスクワに行き、プーチンと話すこともできたはずだ。指導者にはこうした姿勢が求められる』と痛烈に批判していました。そういう意見もある中で、岸田首相が『NATO側に立って一緒にロシアを非難しよう』と東南アジアの国々を説得しに行っても、米国の使い走りだと嘲笑されるだけでしょう」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏)
2003年から10年まで大統領を務めたブラジルのダシルバ氏は、今年10月の大統領選での返り咲きが有力視されている。国民からの支持が高いのだ。
アジアを戦争に巻き込む米国NATOの手先
ロシアへの制裁、ウクライナ支援が絶対的な正義で、悪のロシアをやっつけるための戦争続行をいとわないという姿勢は、G7内でしか通用しない論理なのかもしれない。
4月7日に開かれた国連総会の緊急特別会合では、国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止をめぐってG7は一致して賛成したが、G20構成国はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)を含む8カ国が反対や棄権に回った。
今年のG20議長国を務めるインドネシアは米国の反対を押し切ってロシアを招待し、「ホスト国としては、どちらか一方につく権利もない」「ロシアの出席を拒否すれば、われわれも紛争に巻き込まれ、より事態を悪化させる」と言って距離を置いている。
社会主義体制のベトナムはソ連時代からロシアと関係が深く、武器購入など軍事面でもロシアに依存。今回、岸田が対ロシア包囲網への参加を呼びかけても乗ってこなかった。ロシアの名指しは避けて、「力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許されない」と、ごく当たり前の国際法や国連憲章を確認しただけに終わった。
東南アジアや南米、アフリカ諸国から見れば、ウクライナ危機はロシアとNATOのいさかいであり、積極的に関わりに行くメリットがない。NATOの一員でもないのに、アジアの代表者ヅラして西側の戦争に巻き込もうとシャカリキな日本の外交姿勢は、理解に苦しむのではないか。
「岸田首相にとっては、参院選前に国内向けの外交パフォーマンスという意味もあったのでしょうが、成果に乏しく、“やってるふり”だけの外遊でした。アジアとしてまとまって欧米に意見するという独自外交の立場も取れるはずなのに、米国の代弁者としてアリバイ的に動いただけだった。例えば欧州訪問ならドイツや、スズキの自動車工場があるハンガリーに行って、ロシアからのエネルギー輸入を止めるよう説得する役割を果たしてもよさそうなものですが、日本自身がロシア産エネルギーを禁輸できないというジレンマがある。バチカンでローマ教皇と会い、“核なき世界”を訴えたと思ったら、翌日には英国の金融街シティーで演説して原発再稼働に言及するという一貫性のなさで、まったく戦略が見えません。こういう戦時下だからこそ、非核三原則と平和憲法の重要性を国際社会に訴える意義が被爆地選出の首相にはあるのに、残念です」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
このタイミングでクアッド初の対面首脳会合
いまの岸田は、被爆地選出とは思えないほど戦争に前のめりだ。タイ訪問では、日本から防衛装備品の輸出を可能にする協定に署名。英国では、自衛隊と英国軍が互いの国を訪問する際の「円滑化協定(RAA)」について大枠で合意を得た。これは同盟国の米国と同様に共同訓練の機会を格段に増やすことになり、署名に至ればオーストラリアに続いて英国が2カ国目となる。
英国とは、次期戦闘機開発に関して「同盟国などとも連携しつつ、2022年末までに協力の全体像について合意する」ことでも一致した。
その流れで、訪問先の英ロンドンで記者会見した岸田は、ロシアに対する4項目の追加制裁を発表したのだ。資産凍結の対象となる個人を約140人追加するほか、量子コンピューターなどの先端物品輸出を禁じることなどが柱。「自由で開かれたインド太平洋」の実現へ同盟国・同志国と緊密に連携すると強調した。
岸田が外遊先で反ロシアを鮮明にし、非難と制裁を説いて回ったら、ロシア外務省は日本人63人の入国禁止リストを公表。きのうは日本海で最新の対潜水艦ミサイル「オトベト」の発射演習が行われた。ロシアは明らかに日本を敵視、牽制している。
米国の手先になって対立を煽り、自国が危険にさらされる。そんな中、今月下旬には日本で米国、オーストラリア、インドとの「Quad(クアッド)」首脳会合が開かれることは、実にキナ臭い。
インド洋と太平洋を囲むように位置する4カ国による中国包囲網を念頭に置いたクアッドの構想は、第2次安倍政権で進められ、17年の局長級会合、19年の外相会議などを経て、今回初めて対面での首脳会議が東京で開かれる。折しも、ウクライナを舞台にした戦争が第3次世界大戦、あるいは核戦争に発展しかねないタイミングだ。
「クアッドはインド・太平洋地域における軍事同盟の色合いがますます濃くなる。将来的には韓国も参加する可能性があり、ロシア・中国との緊張感が高まりかねません」(孫崎享氏=前出)
ロシアとウクライナの戦争をアジア太平洋に拡大させればどうなるか、想像しただけで恐ろしい。ハト派の仮面をかぶっているだけで、岸田もやはり戦争に前のめりなのか。それとも米国に言われるがままでナーンも考えていないのか。いずれにしても、米国追従の自民党に任せていたら、日本が戦争に巻き込まれるリスクは高まる一方だ。
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