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「マイナ保険証利用で負担増」は国民皆保険崩壊の序章か
https://friday.kodansha.co.jp/article/241479
2022年04月29日 FRIDAYデジタル
また値上げ!? 診療報酬の引き上げで初診料アップ
日本が誇る「国民皆保険制度」の終わりが始まろうとしている。
値上げのニュースが続く中、マイナンバーカード(マイナカード)を健康保険証として利用する「マイナ保険証」を医療機関や薬局で使うと、この4月から患者の支払いに追加負担が生じるようになった。
医療機関や薬局がマイナ保険証で患者の保険資格を確認するためには「オンライン資格確認」システムを導入する必要があり、その費用にからむ診療報酬の引き上げが4月に実施されたからだ。
オンライン資格確認システムを導入した医療機関をマイナ保険証で受診すると、医療費の自己負担が3割の場合で初診21円、再診12円、調剤9円が上乗せされる。従来の保険証を使う場合でも、オンライン資格確認導入済みの医療機関であれば、2024年の3月までは初診時に9円の追加負担が発生する。
「マイナ保険証に対応する医療機関への診療報酬が引き上げられたために、患者が支払う診療費が増えたわけです。これは事実上の価格転嫁と言えるでしょうね」
こう話すのは、歯科医師で医療行政アナリストとしても活動する中田智之さんだ。
値上げラッシュが続く中、「マイナ保険証」を医療機関や薬局で使うと、患者の支払いに追加負担が生じるようになった。写真は、26日、物価高に関する緊急対策を表明する岸田首相の会見(写真:アフロ)
マイナ保険証の本格的な運用がスタートしたのは昨年10月。政府としては、マイナカードの普及とマイナ保険証利用を一気に進めたいはずだ。それが「価格転嫁」につながる診療報酬引き上げなどという、利用促進とは裏腹の結果を招きかねない策を取るとは。
「政府は当初、2021年3月末からマイナ保険証の本格運用を開始するつもりだったようです。でも結局、約半年後の10月に延期されました。それに合わせて10月までに、全国の医療機関と薬局にオンライン資格確認システムを導入させることを目指していたんです。
そのために全国の病院、医科・歯科診療所、薬局に顔認証付きカードリーダーを無償提供しました。カードリーダーに接続する資格確認端末と関連ソフトの購入、オンラインレセプトなどの既存システムの改修、ネットワーク環境の整備にかかる費用を対象に、約21万円から105万円の補助金も給付しています。
ところが、オンライン資格確認を導入している全国の医療機関と薬局は、昨年10月の時点で10%を下回っていたんです。そこで厚労省は、医療機関に対して書面や電話で複数回アンケートを実施しました。
マイナ保険証を普及させるには利用できる場所がないと話になりません。政府はアンケートで現状を把握した結果、オンライン資格確認を導入する医療機関を増やすために、診療報酬を引き上げることにしたんでしょう」
厚労省が公開している「マイナンバーカードの健康保険証利用 参加医療機関・薬局リスト」には、4月17日時点で4万384施設が並ぶ。本格運用から半年経っても、全国に約23万ある医療機関や薬局の約17%にすぎない。
政府は2023年3月までにおおむね全ての医療機関と薬局にオンライン資格確認を導入させ、マイナ保険証が使えるようにする方針だが、そもそもマイナカードの交付率は4月1日時点で約43%。マイナ保険証の利用登録者数に至っては、4月10日時点で人口の約6.5%に留まっている。
マイナカードを取得しても、マイナ保険証を使える医療機関が少なければ利用登録をする意味がない。マイナ保険証を使う患者が限られているのでは、オンライン資格確認を導入する医療機関がなかなか増えていかないのも不思議ではない。
マイナカードの交付率は4月1日時点で約43%。マイナ保険証の利用登録者数に至っては、4月10日時点で人口の約6.5%に留まる。上記は、保険相談サービスを提供する保険マンモス株式会社の、マイナンバーカードについてのアンケート調査より
通信業者から国の補助金を大きく上回る高額な見積もりが
しかし、医療機関のシステム整備が進んでいない理由はそれだけではない。
「オンライン資格確認システムの稼働に必要な専用パソコンの導入や、オンラインレセプトと電子カルテのシステム改修などに対し、通信業者が国の補助金を大きく上回る高額な見積もりを提示してきたことが、昨年の春に四病院団体協議会から報告されました。このことから推察するに、早い時期にシステムを導入した医療機関の中には費用が持ち出しになったところがあるのではないかと思います。
さらに、この初期費用以外に、システムのランニングコストが毎月固定費としてかかってくることも判明しました。国から無償提供されるカードリーダーは4メーカーの4機種なんですが、接続するレセプトコンピュータや電子カルテとの相性もあり、選ぶ機種によってはランニングコストが変わってくるようです。
どの医療機関もオンライン資格確認のメリットは認識しているはずです。でも、費用の持ち出しが発生する上にランニングコストもかかるとなれば、導入を見合わせたくもなります」
中田さん自身、自院への導入に二の足を踏んでいる状態だという。
「実は一昨年にカードリーダーの申し込みを済ませてはいたんです。昨年の春頃には歯科医師会を介して、無償提供されたカードリーダーを稼働するようにと指示がありました。
それで稼働に向けて通信事業者に問い合わせると、システム接続料月額6000円の負担とその他に導入費用が必要と説明されて。すでに回線工事で補助金を使い切っていたので困惑しました。
その後、通信業者の対応が変わり、業界団体内で情報が錯綜した。新しいシステムや医療機器の普及段階ではよくあることなので、とりあえず待ってみることにして今に至っています」
業界内の情報や患者の動向などを様子見している医療機関や薬局が、少なからずあるというのが現状かもしれない。
「ただ、遅かれ早かれ導入しないといけないわけですから、どこかのタイミングで始めようとは考えています」
総務省は、マイナンバーカード普及促進キャンペーンの一環として、日本各地でお出かけついでに気軽にマイナンバーカードの申請及び申請の相談が出来る「マイナンバーカード出張申請受付キャンペーン」を開催しているが…
「システム導入のコストを患者に負担させるのはどうなのか……」
「この先、導入する医療機関が順調に増えていくかどうかは、ちょっと読めません。今回の診療報酬の改定に関して、SNSでは医師や医療事務から『システム導入のコストを患者に負担させるのはどうなのか』という声も上がっていますし」
診療報酬はその7〜9割を保険料や税金で賄い、残りの1〜3割を患者が自己負担分として窓口で支払う。この仕組み上、診療報酬が上がれば患者の負担も増えることになるわけだが、中田さんによると、これまでも医療機関が施設基準を満たすことで診療報酬が引き上げられてきたという。
「イギリスなどでは、新しい設備や医療器具への投資は自由診療による収入で賄うのが一般的です。日本では、新しい設備やシステムが広く普及するのが望ましいと判断された場合に、業界団体が厚労省に必要性を訴えて保険適用に持っていく。その結果が現状なわけです」
医療技術の高度化も医療設備のデジタル化も、今後ますます進んでいくことは必至。
「デジタル機器などの導入コストが発生することによって診療報酬が引き上げられ、そのたびに小幅な負担増という国民へのしわ寄せが繰り返されることになるでしょう。あれもこれもと保険制度に取り込むことに、私自身は疑問を感じています」
保険料の自己負担は年々上昇し、窓口での負担増も繰り返される。そうなると、保険料を納められない、必要な医療を受けられない国民が出てくる可能性もある。
マイナ保険証を使う場合の追加負担は、確かに少額だ。しかし、これはもしかすると、「国民皆保険制度」崩壊の一歩かもしれない……?
中田智之(なかだ・ともゆき)歯科医師、医療行政アナリスト。1984年、埼玉県生まれ。ニュースサイト「SAKISIRU」にて執筆活動中。
取材・文:斉藤さゆり
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