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※2022年3月15日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年3月15日 日刊ゲンダイ2面
【戦争が起こるとこうなるのか】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) March 15, 2022
よく覚えておこう NHKの偏向報道
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/NeJ71vHFUP
※文字起こし
ちょっと首をかしげたくなるような内容だった。
14日のNHKの正午のニュース。いつものように冒頭からロシアによるウクライナ侵攻の最新状況を伝えていたのだが、ウクライナからの避難民が269万人を超えたことや、ロシア国内での反戦活動で1万4900人以上が拘束されたことなどが報じられた後、ブラジルからの映像が流された。
それはサンパウロの教会でのミサの様子。同地にはウクライナからの移民と子孫が60万人いるとして、ウクライナの平和への祈りが捧げられたということだった。
なぜ唐突にブラジルなのか。世界中がウクライナへの連帯を示している、という空気感を過剰に醸成してはいまいか。そんな疑念を抱いてしまうのは、連日のNHKニュースがある種のパターン化しているからだ。
まずはロシアが新たにどんな攻撃を加えたのかの戦況。次に市民の避難などウクライナ国内の様子。ゼレンスキー大統領の発言。ロシアの反応。そしてバイデン大統領など米国の対応。その辺りで国際部デスクなどが解説し、その後は世界各国での祈りや反戦運動。ラストは、ロシアで抗議活動に参加した人たちが拘束され、連れ去られる映像だ。
客観的な報道に見えるが、本当にそうなのか。ウクライナ当局や欧米政府の発表の垂れ流しがほとんどで、同じ映像の使い回しも目立つ。南東部マリウポリの産科小児科病院への空爆は、子どもを含む死者が出る惨状だったが、ベビー服の赤ちゃんを抱えた女性が大泣きする映像が幾度となく流されている。国境付近へ避難してきた子どもが白いポリ袋に入った荷物を両脇に抱えて歩いている映像も何度も目にした。
いずれも「かわいそう」「ひどすぎる」という感情を呼び起こさずにはいられない映像だ。プーチン大統領への怒りが一層込み上げる。
もちろんそれはNHKに限らず、民放各局も似たり寄ったりで、欧米側から見た“勧善懲悪”ニュース一色。この戦争で国際協調を崩してはいけない--そんな意識が透けて見えるのである。
ワシントンの意向に沿った報道
プーチンの極悪非道は言うまでもない。一方的な軍事侵攻が国際法違反なのは明白だ。だが、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の動きに対しては、米国の外交官や元国務長官らが「戦争に至る恐れがある」として警鐘を鳴らしてきていた。
ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州では、もともとウクライナ語を母国語とする市民が全体の3割で、ロシア語を母国語とする市民が7割を占めていたのに、ウクライナ政府はロシア語を公用語として認めず、ウクライナ語を話せない人を公的職場から排除してしまった。これが原因となり、親ロシア派の独立運動が起こり、武力衝突にまで発展したという背景もある。
この地域の歴史や問題の複雑さ。戦争に至る恐れがあることを知りながら、戦争回避に尽力しなかった米国の無責任。ウクライナ中立化の是非など、もっと多角的な見方を視聴者に提供するのがメディアの役割ではないのか。まったく報じていないとは言わないが、多くの視聴者が習慣的にチャンネルを合わせるニュース番組でこそ、「ロシアが悪、ウクライナが善」という単純な構図だけではない視点があっていいはずだ。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「それは日本メディアの最大の弱点です。国際問題、特に戦争では、常にワシントン(米政府)の意向に沿った形で報道するのが定番化しています。なぜウクライナが一般市民を犠牲にしてまでロシア軍と戦うのか。バイデン米政権が武器や弾薬をウクライナに流していることが、結果的に市民の犠牲を増やすことにならないのか。本来ならそうした見方もあっていいはずです。日本の大メディアの報道は、米政府の発表に従ったニュースの占める割合が大きいということを読者・視聴者は知っておくべきでしょう」
戦闘機はダメでスティンガーはOKの不可解 |
ロシアとウクライナの停戦交渉が14日、オンライン形式で再開された。これに先立ち、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問が「ロシアは我々の提案を注意深く聞いている」と指摘していたこともあり、停戦交渉の進展が注目されたが、交渉は一時中断。15日に再開される見通しだ。
ポドリャクは会談後のツイッターで、「追加の作業や個別事項の定義を明確化するため15日まで休止する」と表明したものの、一方で会談中には「政治体制があまりに異なるため不一致を招いている」とも投稿している。15日の協議再開で進展が得られるかは予断を許さない。
ロシア軍は13日、これまで攻撃していなかったウクライナ西部への空爆も開始した。首都キエフを3方向から取り囲む部隊の進軍も続いている。ウクライナ国民は本当に玉砕するまで戦うのか。
欧米の姿勢にも疑問だ。バイデンは12日、ウクライナへ最大2億ドル(約234億円)の追加の軍事支援を実施すると発表した。支援の中身は武器供与がメインで、2月に決めた3億5000万ドルと合わせ総額12億ドル規模となる。供与する武器には、対戦車ミサイル「ジャベリン」や携帯型地対空ミサイル「スティンガー」が含まれるというが、戦闘機の提供はロシアとの直接の軍事衝突に発展する危険性があるからダメで、ミサイルならいいという理屈がよく分からない。欧米各国はこの戦争を本気で止めたいのか、さもなくばウクライナにゲリラ戦も辞さない徹底抗戦を期待しているのか。
「ウクライナは一般市民が自宅を奪われ、負傷し、悲惨な状況に置かれています。ロシアも経済制裁でルーブルが紙くずになるのは確実、市民がATMに並ぶ“取り付け騒ぎ”の様相です。そんな中で米国だけはウハウハ。欧米がロシアを原油や天然ガス市場から締め出せば、代替先として米国のエネルギー産業が潤うわけですから。武器提供で言えば、岸田政権が自衛隊の防弾チョッキやヘルメットをウクライナに送ったことも結果的に戦争を長引かせることにつながるのではないのか。メディアは戦争の情緒的な側面を報じるばかりで、背景の分析が欠落しているように思えてなりません」(本澤二郎氏=前出)
過去の戦争でも米政府発表に騙された
ロシアへの経済制裁については、その効果を疑問視する金融関係者も少なくない。
金融機関同士を結ぶネットワークである「SWIFT」からロシアの銀行7行が締め出された。だが、中国が独自に構築した同様のシステム「CIPS」があるため、ロシアがそれを使う可能性があるのだ。
「SWIFT」から切り離されれば、ロシア経済は致命的、という報道が散々なされたが、それは“大本営発表”みたいなものだったのではないのか。
70年前の戦争時、この国には民主主義もなく自由な言論も許されていなかった。軍による統制下で治安維持法もあり、大本営に都合のいい偏向報道がまかり通った。しかし、いまは違う。言論統制などないはずなのに、いったん戦争が起き、いずれかの陣営に組み込まれれば、報道は70年前に逆戻りだ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。
「だからこそ、戦争報道に触れる際には情緒的なものにのみ込まれず、理性的に判断する力が必要なのです。この間、米政府の発表に騙された戦争報道がたくさんあった。ベトナム戦争しかり、イラク戦争しかりです。いまは米国が間違っていたことが明らかになっています」
戦争報道はプロパガンダであるということを、改めて覚えておきたい。
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