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※2022年3月2日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年3月2日 日刊ゲンダイ2面
【苦しむのは市井の人々】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) March 2, 2022
ゼレンスキーは英雄なのか 経済制裁しか道はないのか
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/Fgj4yZhN5g
※文字起こし
ロシアのプーチン大統領が仕掛けた無謀なウクライナ侵攻は2日で1週間となる。圧倒的な戦力の違いから、当初は2日ほどで首都キエフは陥落するとみられていた。2月末までにウクライナ軍の一部を武装解除させ、3月初めにはロシア軍の支援を受けた勢力が主要都市を制圧、数カ月以内に傀儡の新政権が発足──。プーチン政権寄りの政治学者はこうした見立てを披露していたほどだ。
ところが、ウクライナ軍の徹底抗戦によってロシア軍の進軍は減速。攻防は長期化の様相だ。無慈悲な大国を相手に一歩も引かないゼレンスキー大統領は英雄なのか。プーチンの野望を断つには経済制裁しか道はないのか。わかっているのは、戦禍に苦しむのはいつだって市井の人々だということだ。
プーチンの影響下にあるベラルーシで28日に行われたロシアとウクライナ代表団による停戦協議は、平行線のまま終了。ロシアは併合したクリミア半島に対する主権の承認、ウクライナの非武装中立化を主張。「中立の確約」によってウクライナのNATO(北大西洋条約機構)入りを阻むためだ。
しかし、ウクライナがそんな勝手な要求をのむはずもない。即時停戦とロシア軍の撤退を求めて譲らず、決着はつかなかった。2日にも2回目の協議が行われる見通しだが、ロシアは攻撃の手を緩めていない。
米国防総省などによると、ロシア軍は国境付近に集結させた戦闘部隊のうち8割強をウクライナに投入。一部はキエフから25キロほどの地点まで前進し、装甲車や戦車などからなる車列は全長60キロ超に及ぶという。数日中にキエフを包囲する狙いとみられ、1日はテレビ塔が攻撃されて大きな爆発が起きた。第2の都市ハリコフ中心部の広場も爆撃され、巻き込まれた州庁舎は3分の1が崩壊。各地で多数の死傷者が出ているという。
マルカロワ駐米ウクライナ大使は、戦術核兵器に次ぐ威力を持つ、燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)が使用されたと訴えている。ゼレンスキーはSNSにアップしたビデオメッセージで「ロシアはテロ国家だ。誰も許さない。誰も忘れない」と怒りを爆発させたが、ロシアのショイグ国防相は「目標が達成されるまで特別軍事作戦を続ける」と揺さぶりをかけている。
元自衛官も「義勇兵」に志願
「パパは、軍隊の人、英雄たちに物を売ったりして助けるんだって。もしかしたら戦うこともあるかも」
少年が涙をぬぐいながらこう話す映像をロイター通信が配信し、世界の悲しみを深めている。少年の父親はロシア軍と戦うウクライナ軍を支援するため、戦火を逃れて国境を目指す家族と別れ、キエフに残ったという。ロシア軍の侵攻が始まった24日、ゼレンスキーは90日間有効の総動員令に署名。18〜60歳の男性の出国を禁じたため、少年の父親は国外脱出を断念したのだろうか。ウクライナ政府は全土の兵士と予備役を招集したほか、希望する市民に武器を配布し、総力戦で首都を防衛する構えだ。元プロボクシング世界ヘビー級王者のクリチコ兄弟(兄ビタリはキエフ市長)や元世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコをはじめ、国民的スターが「国を守るために戦う」などと訴える動画がメディアを通じて世界中に拡散している。一部の女性たちが銃を手にし、軍の呼びかけに応じて火炎瓶を作る様子も伝えられる。
たとえ家族が離散しても、国のために命をかけて戦う市民の姿から目を背ける人は少ない。形容しがたい感情が見る者を刺激するからこそ、在日ウクライナ大使館には20億円もの寄付が集まっているのだろう。しかし、狂った独裁者プーチンは論外として、大メディアには戦争で苦しむのは常に庶民だという視点が欠け、煽る一方なのではないか。ゼレンスキーはこの事態を外交努力で避けられなかったのか。「戦時指導者」として求心力を高め、支持率は95%に達したというが、60歳以下の男性の出国を禁じ、国民に武器を取れというのが褒められるのか。NATO加盟国は次々にウクライナに武器を供与し、泥沼化にいざなっているようにも見える。在日ウクライナ大使館によると、外国人の「義勇兵」の募集に元自衛官を含む約70人の日本人が志願しているという。
腰引けたバイデン、ノーベル賞狙いのマクロン |
筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「ゼレンスキー大統領はもはや引くに引けず、とことんやるつもりなのでしょうが、ロシア側の要求は3点セットのパッケージで取引はできない。ウクライナ側の選択肢はのむか、のまないか。交渉の余地はありません。ロシア中央銀行の取引制限や『金融上の核兵器』といわれるSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除は効果がテキメンで、ルーブルは大暴落して過去最安値を更新しています。制裁強化で追い込まれるプーチン大統領はさらにかたくなになり、より大きな軍事的報復に向かわせてしまうのではないか。人生最後の賭けに出たプーチン大統領を西側の論理で止めることが果たしてできるのか」
対ロ制裁はエスカレートの一途だ。ロシア中銀の外貨準備の半分は資産凍結を行った国で管理されているため、ルーブル買い支えの手は尽きつつある。欧米企業のロシア離れも加速。世界の主要金融機関が加盟するIIF(国際金融協会)はロシア経済がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が「極めて高い」としており、現実になれば世界経済も「返り血」を浴びることになる。そうでなくても、ロシアは原油やガスの産出国であることから、需給逼迫不安でエネルギー価格は高騰し、物価高を深刻化させている。経済制裁の前に欧米の首脳のうち誰が本気でプーチンと直談判したのか。
「停戦合意の仲介者を自任するフランスのマクロン大統領は、侵攻前からプーチン大統領と会談を重ね、米ロ首脳会談のセットにこぎつけたものの、ちゃぶ台をひっくり返された。プーチン大統領と非常に近しいベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役を担っていることから見ても、手玉に取られているのは明らかです。再選を目指す大統領選を来月に控えるマクロン大統領はノーベル平和賞を狙っているともいわれますから、足元を見透かされたのでしょう。天然ガス消費量の6割以上をロシアに頼るドイツのショルツ首相も国内事情を抱え、メルケル前首相のような重しの役割は果たせませんでした」(中村逸郎氏=前出)
アフガン撤退の失敗や物価高などから逆風にあえぐ米国のバイデン大統領の腰が引けていたのは、言うまでもない。
武器供与は残弾処理のためか
米国の退役軍人らでつくる平和団体「ベテランズ・フォー・ピース」(VFP)はウクライナ侵攻への抗議のみならず、対ロ制裁にも反対を表明。「戦争ではなく外交を」と題した声明はこう指摘している。
〈米国とロシアにとって、現在の唯一の正気の行動は、真摯な交渉を伴う、真の外交です。さもなくば、事態は制御不能になり、世界が核戦争に陥ることにもなりかねません〉
〈制裁は、戦争の責任者に打撃を与えるものでなく、生活に最低限必要なものが手に入りにくくなってしまうことにより、弱い市民に打撃を与える〉
VFPジャパン共同代表で、元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏は言う。
「米国をはじめとするNATO加盟国がウクライナへの武器供与に積極的なのは、プーチン大統領の暴挙を止める目的だけではなく、各国軍が抱える残弾処理の思惑も見え隠れします。武器弾薬は一定の期限を迎えたら入れ替える必要があり、何らかの形で処分しなければなりません。ウクライナに提供すれば手間暇もコストも省ける。戦争は一部の国にとって公共事業のようなもので、長引くほど軍需産業は儲かり、投資する金融機関も潤う。しかし、プーチン大統領の焦りが示しているように、戦端が開いてしまえば主体的にコントロールすることはできません。だからこそ真摯な外交が求められるのです」
ウクライナでは無辜の市民が戦闘に駆り出され、命を奪われている。国連は、今後数カ月で500万人近い難民が発生するとみている。世界の指導者の怠慢と無能で、全世界の人々が未曽有の危機に直面しつつある。
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