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※2022年2月12日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年2月12日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
驚くべき事件が立て続けに起こっている。さらに驚くのは、それらがほとんど報じられないことだ。テレビのニュース番組は朝から晩まで冬季五輪で埋め尽くされている。
8日夜、岸田政権の目玉政策である「経済安全保障」の事務方トップが突如“更迭”され、永田町・霞が関に激震が走った。10日発売の「週刊文春」が経済安全保障法制準備室長を務める藤井敏彦・国家安全保障局内閣審議官の無届け副業と、朝日新聞記者との不倫問題をスクープ。その機先を制して、古巣の経産省に出向する辞令が発表されたのだ。この政権はワクチン接種事業は遅いが、保身のためのクビ切りだけは素早かった。
松野官房長官は「処分につながる可能性がある行為を把握し、職務を続けさせることは困難と判断をした」と繰り返すばかりだが、政府は2月下旬に経済安保推進法案を閣議決定して国会に提出する方針で、直前に事務方トップが交代するのは異例の事態だ。この政権の安全保障はどうなっているのかという深刻な問題なのである。
文春報道によれば、藤井氏は「闇バイト」先で、許認可や補助金をめぐる複数の利害関係者と日常的に接していた。民間人から要望を受けて法案に盛り込んだ可能性はないのか。国家機密を漏らした可能性はあるのか。しかも、不倫相手とされる女性は政治部記者で、経済安保に関する記事も書いていた。万が一、情報漏洩があれば、「令和の西山事件」に発展しかねない大問題なのに、週刊誌の後追いはしたくないということなのか、大新聞テレビの反応は鈍い。アリバイ程度に片隅で報じただけだ。
民主主義の根幹を揺るがす問題もスルー
「安倍政権以降の大メディアは、政権のスキャンダルはなるべく報じないという忖度体質が骨の髄まで染み込んでいるように感じます。経済安保官僚のスキャンダルもそうだし、同じく10日発売の月刊『文芸春秋』では自民党京都府連の組織的な選挙買収も報じられた。広島の河井夫妻の事件と同じで、組織的にやっている方が悪質とも言えるのに、テレビメディアはまったくこの問題を騒ぎ立てず、五輪と首都圏の大雪情報に明け暮れていました。民主主義の根幹を揺るがす問題をスルーしてしまうのだから、感覚が麻痺しているとしか思えない。大メディアはもはやジャーナリズムとしての存在意義を失っています」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
10日の衆院予算委員会では、「文芸春秋」の記事が事実かどうか、かつて府連会長を務めていた二之湯国家公安委員長が質問される場面もあった。
二之湯は「府連が国会議員から寄付を受け、府議と市議に政治活動資金として配布したのは事実」と認め、しかし「個々の議員の選挙活動に使ってくださいということではない」と、買収の意図は否定。カネは配ったが買収ではないというのだ。
「幅広く募ったが募集はしていない」と強弁した首相もいたが、いやはや、広島でカネを配れば検察を指揮する法相になり、京都でカネを配れば警察元締の国家公安委員長になるなんて悪い冗談としか思えない。まったく、この国の治安維持はどうなっているのかと嘆息するしかないが、それは本来なら政治の腐敗を追及すべき大メディアについても同じ。信じられないような不祥事が多発している。
大衆の関心を政治に向けさせない「3S政治」そのもの |
9日、テレビ朝日のソリューション推進部長が国の「IT導入補助金」を騙し取った詐欺の疑いで逮捕されたことが分かった。2018年から翌年にかけて、虚偽の申請をして900万円を不正に受給した容疑だ。テレ朝の部長ならかなりの高給取りだろうに、こんなセコイ事件に手を染める理由が分からない。
そうしたら、翌10日にはテレ朝の亀山代表取締役社長が電撃辞任。部長逮捕の引責かと思ったら、社長自身の不祥事だという。私的な会食やゴルフ代などの費用約60万円を不適切に経理処理したり、私的な贈答品など約5万円の代金を会社経費で処理したことが判明。社長就任後、スポーツ局の報告会に局長を参加させず、指揮命令系統の混乱を招いたことも理由とされている。
しかし、民放キー局の社長が使い込みで辞任するにしては、ちょっと見合わない金額にも感じられる。ゴルフなどは社用か私的かの線引きが難しいし、他局の社長だって60万円くらい使っていてもおかしくない。
「この問題をライバル局が大々的に報じないのも、似たようなことはどこの会社も抱えているからでしょう。テレ朝社長の辞任は、使い込みは表向きの理由に過ぎず、実際は社内の権力抗争なのでしょうが、新聞テレビが詳報しないからさっぱり真相が分からない。経済安保の事務方トップ更迭も、京都府連の選挙買収も、政権を揺るがすような大事件なのに、五輪報道にかき消されて、テレビだけ見ていると事件を知らないまま通り過ぎてしまう。スクリーン(娯楽映画)、スポーツ、セックスの『3S』で大衆の関心を政治に向けさせないようにする愚民政策そのものです。この国の大メディアは落ちるところまで落ち、機能不全に陥っていると言わざるを得ません。民放とは一線を画す公共放送のNHKも同様だから、由々しき事態です」(政治評論家・本澤二郎氏)
捏造を「誤り」と報じるメディアは共犯
そのNHKも爆弾を抱えている。昨年末に放送された「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、匿名男性が五輪反対デモに金銭をもらって参加したとする裏付けのないテロップがつけられていたのだ。
NHKは10日、これまで「不確か」と表現してきたテロップの内容について、初めて「誤った字幕」と認める調査報告書を発表。報告書によると、問題の場面を撮影した素材には、「お金をもらって、いろいろなデモに参加している」「五輪反対デモは行かない」「コロナが増えるから五輪はやめた方がいいと思う」という趣旨の音声が残されていたという。
男性は「行かない」と言っているのに、字幕では「デモに参加した」ことにされる。これは「誤り」ではなく「捏造」ではないのか。普通、「字幕の誤り」というのは、「デモ」を「デマ」と誤記してしまうような単純ミスを指す。行ってもいないデモに男性がカネをもらって参加したかのようにテロップを流すのは、意図的なミスリードとしか思えない。
公共放送がデマを流せば影響は甚大だ。NHKの他のドキュメンタリー番組の信用性も毀損しかねない。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は10日、「放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯などについて詳しく検証する必要がある」として審議入りを決定したが、総務省は動かないのか?
NHKの言い分を垂れ流して「誤った字幕」と報じる新聞メディアもどうかしている。悪気はなかったというストーリーにみんなで加担して、波風立てないようにしているのなら、社会の公器たる矜持を投げ捨てたも同然だ。
「テロップ捏造のNHK番組は、東京五輪に反対する人は悪だという偏見からスタートしている。コロナ感染拡大による国民の不安を無視して五輪を推し進めた政権と一体化しているとも言えます。他の大メディアもこぞって五輪スポンサーになっていましたから、東京五輪の批判などできないのでしょう」(五十嵐仁氏=前出)
飼いならされたメディアは、政権の広報機関に成り下がって恥ずかしくないのか。社内の権力闘争にウツツを抜かしている場合ではないはずだ。
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