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コロナとどう向き合うべきか 同調圧力に与することは恥である 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/300937
2022/02/05 日刊ゲンダイ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
このコロナの騒ぎを見ていると、日本人の精神性は戦前と変わっていないのではないかと思う。
江戸時代、領主の命令で庶民が組織させられた「五人組」は、役人が彼らを監督しやすいよう、相互監視と連帯責任を課すことを目的としたものだった。軍国主義下の日本人は、五人組を彷彿とさせる「隣組」の名のもとに隣人を密告し、“お上”の命令に従うよう、お互いに強制しあった。
それが国民同士に疑心暗鬼を生み、少しでも落ち度のあった人や個人の自由を求めて意思を表明する人たちを村八分にした。“自粛警察”が一時はやったように、戦争から80年経っても、まだ日本人は「国が決めたことだから、国民は誰もが従わなければならない」という狭量な思考に陥りがちだ。
友人の医師・和田秀樹さんによれば、肺炎で亡くなる人は、厚労省の統計では例年約10万人にも上るという。それに対して、コロナのこの2年間の累積死亡者数は1万8784人(1月31日現在)。対してアメリカは約88万8700人だ。次いでブラジルが62万7000人、インドが49万5000人。2017(平成29)年の全国の死亡者数は厚労省調べで134万人超。そのうちもっとも多い約37万3000人の死因は「悪性新生物」、がんだ。約20万5000人の心疾患、約11万人の脳血管疾患、約10万1000人の老衰がそれに続く。つまり、日本ではコロナ以外の病気で亡くなる人のほうが圧倒的に多いということだ。
ひとかどの民主主義国家であれば、国が少しでも個人の自由や権利を侵そうものなら、人々はたちまちデモを起こして政治に対してアピールする。それによって政権が覆ることだってある。
それに比べて日本人はどうだろう。よく言えば真面目、従順、素直。悪く言えば、自立心がなく、物事をしゃくし定規にとらえる傾向がある。そうした人は、ともすれば同調圧力に与(くみ)しがちだ。
体制の側につき、弱い人や「普通と違う人」をのけ者にし、自分が仲間はずれにされないことで安心する。しかしそれは見方を変えれば、自分の意思を持たないのと同じだ。
私の周りでも、クラシックコンサートを自粛して延期してしまう主催者が多い。その一方、「SEKAI NO OWARI」や「Official髭男dism」といった若い人に人気のロックバンドは感染対策を施して大規模なライブを行っている。行くか行かないかはお客さんが判断すればいいことで、主催者は“お上”に忖度(そんたく)して公演を自粛しなくてもいいと思う。たとえ“お上”のいうことでも、それが間違っている、行き過ぎだと思えば、堂々と異議を申し立てればいい。個人の自由を追求し、意思を表明することは、人間の権利である。それを放棄することは、世界的な観点からみれば、その人が存在しないのと同義になってしまう。
以前にも当欄で紹介した16世紀フランスの裁判官エティエンヌ・ド・ラ・ボエシは、著書「自発的隷従論」において、「悪い政治が成り立つのは、国民が進んでそれを受け入れているからだ」と書いている。国民が自らの意思を持たねば、悪政はたやすくはびこるということだ。
独立した民主主義国家の国民として、同調圧力に与することは恥なのだと、日本人は早く気づくべきなのだ。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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