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大統領選挙後のトルコと国際関係/出川展恒・nhk
2023年05月30日 (火)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/484131.html
トルコで行われた大統領選挙は、決選投票の結果、現職のエルドアン氏が再選されました。トルコの政治を20年にわたってリードし、ウクライナ情勢でも仲介役を果たしてきたエルドアン氏ですが、今回は強い逆風を跳ね返しての勝利でした。選挙後のトルコの内政と国際関係の課題や影響を考えます。
解説のポイントは、▼エルドアン氏が苦戦の末、再選された背景。▼トルコの内政の今後の課題。▼トルコの外交と国際関係への影響。以上3点です。
■最初のポイントから見てゆきます。
トルコは、アジアとヨーロッパの架け橋となる国で、NATO=北大西洋条約機構にも加盟していることから、今回の大統領選挙、国際的な関心を集めました。
イスラム主義の政党である「公正発展党」を率い、首相時代から通算で20年にわたり、トルコ政治のかじ取りをしてきたエルドアン氏と、国家と宗教を厳しく分ける「世俗主義」を重視する「共和人民党」の党首で、6つの野党の統一候補となったクルチダルオール氏の一騎打ちとなりました。
エルドアン氏が、これまでになく厳しい戦いを強いられたのは、まず、経済問題、とくに激しいインフレです。去年10月にはインフレ率が85%に達し、先月も44%で、食料品など必需品の価格も軒並み跳ね上がって、人々の暮らしが非常に苦しくなっています。追い打ちをかけるように、今年2月、大地震が発生し、5万人を超える犠牲者と、日本円で4兆6000億円を超えると推計される経済的被害が出ました。政府の初動対応の遅れや、建物の耐震対策の杜撰さが被害を拡大させたという批判にさらされました。
選挙戦は大接戦となり、決選投票に持ち込まれましたが、得票率約52.2%のエルドアン氏が、得票率約47.8%のクルチダルオール氏をおよそ4ポイント上回って再選を決めました。
さまざまな批判や逆風にもかかわらず、エルドアン氏が勝利した要因は、選挙戦で20年の実績を繰り返しアピールしたこと。最低賃金の引き上げや、公共料金の一部無料化を実施し、大地震の被災者には、現金を支給し、住宅を速やかに用意すると約束するなど、予算とメディアを駆使して、猛烈な巻き返しを図ったこと。そして、保守的なイスラム教徒やトルコ民族主義の有権者の支持をつなぎとめたことが挙げられます。
これに対し、野党の統一候補クルチダルオール氏の陣営は、エルドアン氏の再選阻止の1点だけでまとまったもので、6つの政党の主張や方向性がバラバラで、国を統治する能力を国民にアピールできなかったと指摘されています。
■ここから、2つ目のポイント、トルコの内政の課題を見てゆきます。
まず、経済政策です。エルドアン氏は、インフレ率を一桁台に戻すと公約しましたが、問題はどう実現するかです。これまで、「高い金利は景気を冷やす」などと主張して、利下げを続けてきたことが、自国通貨リラの下落と、激しいインフレを招いたと指摘されています。新政権を発足させるエルドアン氏が、専門家の指摘に耳を傾け、これまでの金融政策を修正するかどうかが注目されます。そして、経済を立て直し、震災からの復興を進めてゆくには、外国との関係をいっそう改善し、外資を呼び込むことが必要です。
次に、今回の選挙では、エルドアン氏の強権的な政治手法、とくに、6年前に導入された、いわゆる「実権型の大統領制」の是非も争点となりました。クルチダルオール氏の野党陣営は、大統領を国民の直接選挙で選び、絶大な権限を与えるこの制度が、エルドアン氏の独裁化と、政府の機能不全を招いたとして、もとの「議院内閣制」に戻し、三権分立を確立すると公約しました。エルドアン氏が再選されたことで、「実権型大統領制」は存続しますが、国民の半数近くが野党側の主張を支持したことをどう受け止めるか。エルドアン氏が、国民の不満や批判にどう答え、この20年で広がった経済的な格差や社会の分断をどう解消するかが大きな課題となります。
■ここから、3つ目のポイント、トルコの外交と国際関係への影響について考えます。
まず、ウクライナ情勢です。エルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領とも、ウクライナのゼレンスキー大統領とも直接対話できる関係を築いてきました。両国とも、黒海を挟み、経済と安全保障の両面で重要な関係にあり、これまで両国の停戦に向けた協議や、農産物の輸出再開の仲介にあたってきました。今後も、首脳どうしの対話や交渉を続け、存在感を示してゆく考えと見られます。
トルコは、NATOを通じて、アメリカやヨーロッパ諸国と同盟関係にありますが、ロシアは、天然ガスや小麦の最大の輸入元で、多額の観光収入も得ています。ロシアとの関係を悪化させる選択肢はなく、両者のバランスをとりながら、国益を最大にする外交を模索すると見られます。
NATOへの加盟を申請した北欧のスウェーデンに対しては、テロ組織とみなす少数民族のクルド人の武装組織への支援をやめない限り、加盟を決して認めないと主張してきました。エルドアン氏の続投が決まり、7月のNATO首脳会議までにスウェーデンの加盟が認められる可能性は低くなりました。
さらに、トルコが、NATOの一員でありながら、ロシアから最新鋭の地対空ミサイルシステム、S−400を導入したことや、トルコ国内の人権問題をめぐって、アメリカやヨーロッパ諸国との間で、ぎくしゃくした関係が続いてきました。エルドアン氏が、再選を機に、関係の修復に動きだすのかどうかも注目されます。
もうひとつ重要なのが、隣国シリアの内戦と、トルコ国内におよそ330万人いるシリア難民への対応です。エルドアン政権は、同じイスラム教徒という立場から、シリア難民を客人として受け入れてきましたが、経済の悪化にともなって、難民の存在を負担に感じる国民が増えています。難民への支援が財政を圧迫し、トルコ人の雇用機会を奪っていると見られているのです。このため、今回の選挙では、難民問題がクローズアップされました。クルチダルオール氏は、決選投票に向けて、民族主義の政党の支持を得ようと、すべてのシリア難民を1年以内に帰国させると公約しました。エルドアン氏も、これに呼応するように、難民の帰還を促進する方針を打ち出しました。国境を接するシリアの北部の反政府勢力の支配地域に住宅をつくり、第1段階として、100万人を帰還させるとしています。あわせて、内戦で国交を断絶していたシリアのアサド政権との関係改善に向け、協議を開始しています。トルコ国内で生活してきた難民たちは、アサド政権が支配しているシリアには絶対に戻りたくないと、大きな不安を抱えています。以前、大勢の難民がトルコを経由して、ヨーロッパに移動したこともあり、エルドアン政権の対応が注目されます。
■今年は、第1次世界大戦での敗戦後、近代国家として生まれ変わったトルコ共和国の建国100周年にあたります。エルドアン大統領としては、10月に予定される記念式典を、自らの手で主催することを、長年の悲願としてきました。再選が決まり、新たな気持ちで、山積する内外の難問に取り組むことになります。長年にわたってトルコと深い友好関係を築いてきた日本としても、この国が、国際社会からの期待に応えるかたちで、名実ともに、民主主義国家として発展して行けるよう、大地震からの復興と合わせて、協力と助言を惜しまないことが大切だと考えます。
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