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2023年3月24日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/239142
東欧を長く取材するジャーナリスト木村元彦さん(61)が本紙に寄稿した。今月でNATO(北大西洋条約機構)によるユーゴスラビア(セルビア)空爆から24年。世界が忘れかけているその傷の深さを語った。
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◆ウクライナ侵攻への対応に既視感
岸田首相がNATOとの急速な接近を図っている。昨年6月にはNATO首脳会合に出席し、今年1月には来日したストルテンベルグ事務総長と会談。安全保障分野での協力を強化するという。ロシアによるウクライナ侵攻の凄惨せいさんさから、反転するようにNATOの正当性が流通し、首相のこの動きについても批判的な言説は皆無に等しい。
デジャヴを感じずにはいられない。想起するのは1999年3月24日から78日間にわたって行われたNATOのユーゴ空爆である。ユーゴの一部だったコソボの紛争に介入する形で行われたこの軍事アクションは、彼の地でのアルバニア人の人権擁護が論拠とされ、スーザン・ソンタグをはじめとする著名な知識人たちもNATOの軍事行動を支持した。
コソボ ヨーロッパ南東部のバルカン半島に位置する。第2次世界大戦後、長く旧ユーゴスラビア連邦を構成するセルビア共和国の自治州だったが、2008年2月17日に独立を宣言。岐阜県とほぼ同じ面積の約1万1000平方キロメートルに、179万人が暮らす。民族は大半がアルバニア人(92%)で、他にセルビア人(5%)、ロマ、トルコ系など諸民族(3%)。国旗の星は国内六つの民族を表す。宗教はアルバニア人にイスラム教、セルビア人にはセルビア正教が多い。
確かにユーゴのミロシェビッチ大統領はコソボのアルバニア人から自治権を剝奪し、多くの難民を流出させた。武力でコソボ独立を目指すアルバニア人のKLA(コソボ解放軍)とセルビア治安部隊の衝突が激化し、欧米の連絡調整グループが調停案を提示するもセルビア側が拒絶し、空爆が行われた。しかし、問題は調停案の中身だった。最終段階で米国が「NATO軍のユーゴ全土における軍事作戦の展開と、犯罪の訴追や課税の免除を認めさせる」という「付属文書B」を突きつけてきたのだ。
これはNATOによる占領に等しく、当時ストイコビッチ(セルビア人サッカー選手)が「この調停案にはセルビア人なら自分の6歳の息子もサインしない」と発言したのは、かような理由にある。
空爆に屈する形でセルビア治安部隊が撤退すると、米国はコソボ南部のボンドスティールに国外最大基地を建設し、KLA幹部をトップに据えたコソボ政府の後ろ盾となり、2008年には独立を真っ先に承認した。
◆空爆後に拉致と臓器密売が
筆者は、1998年からコソボを取材し続けてきたが、空爆後に平和が訪れたとは、到底言い難い。真っ先に起きたのは、少数民族に対する新たな人道破綻であった。約3000のセルビアの民間人が拉致され、アルバニア本国に送られた後、殺害されて組織的な臓器密売ビジネスの犠牲者となった。
欧州評議会法務人権委員会のディック・マーティは「コソボでの臓器密売を証明する十分な資料がそろった。欧米諸国はこの犯罪の事実を知っていたのに、政治的な判断から口を閉ざしていた」と報告している。
犯罪にはコソボの首相となったKLA幹部の関与も指摘されているが、米国が後ろ盾のためにICTY(旧ユーゴ国際戦犯法廷)の訴追もはね返され続けている。筆者もまたサチ元大統領の関与を臓器摘出施設「黄色い家」の管理人から直接聞いている。
NATOは本来、同盟国の集団防衛の組織でありながら、中東からカスピ海を睨にらんだ米軍基地拡大のためにユーゴを空爆してコソボを親米国家として独立させた。第2次大戦後に決まった国境線を変えてしまったことになる。
独立したコソボではアルバニア民族主義が勃興し、アルバニアと合併するための他民族排除のヘイトクライムが起き続けているが、国際社会は見て見ぬふりである。ミロシェビッチやロシアのプーチン大統領の大罪はあるが、プーチンが見てきたであろうコソボでNATOが何をしてきたか、の検証も不可欠だ。ウクライナの例から、戦争被害に遭わないための観点ばかり議論されるが、軍事同盟に関わることは、オートマチックに加害の側に回ることも自覚しなくてはならない。
きむら・ゆきひこ 愛知県生まれ。「オシムの言葉」(集英社)など著書多数。1月に「コソボ 苦闘する親米国家」(同)を出版
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