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対ロシア制裁の効果は? エネルギー安全保障と今後のリスクを考える/櫻井玲子・nhk
2023年02月22日 (水)
櫻井 玲子 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/479936.html
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから、まもなく1年。
ときには核兵器の使用までちらつかせるロシアに対し、日本は武力を使わずしてロシアを止めようと、欧米各国と協力し、さまざまな経済制裁に踏みきってきました。
ただ日本のエネルギー安全保障において重要な位置を占めてきたロシアに制裁を課すことは、苦渋の決断でもあり、実際、この一年、私たちの暮らしにも少なからぬ影響を及ぼしてきました。
そこで、▼ロシアに対する経済制裁の効果は出ているのか、をみるとともに、▼日本経済への影響や▼今後のリスクについて、考えたいと思います。
【対ロシア制裁とその狙い】
まずは、ロシアに対する一連の制裁についてみてみます。
日本は、G7・先進7か国の各国とともに、段階的に、かつ、これまでにない規模の制裁に、舵をきってきました。
具体的には、▼侵攻直後から、ロシアの一部の金融機関を、SWIFTと呼ばれる国際決済システムから締め出し、半導体・ハイテク製品の輸出も禁止しました。
▼また、ロシア産の石炭や原油の輸入禁止に、一定の猶予期間ののちに、踏み切ることも発表しました。▼そして、年末からはEU=ヨーロッパ連合が原油の輸入の禁止を実際にスタート。
さらには、G7でロシア産の原油や石油製品の取引価格に上限を設定し、価格を押し下げる、といった手段も打ち出しました。いずれも、ロシアが輸出で得る収入を細らせることで、軍事費が増えるのを防ぐ狙いです。
【体力を奪われるロシア経済】
では、ロシアに対する制裁はどこまで効果が出ているのでしょうか?
多くの専門家は「徐々にではあるが、効果は、出始めている」と話しています。
というのも、制裁により、ロシアのエネルギー輸出からの収入が今、目減りしはじめてきているからです。
G7が段階的に制裁に踏み切ってきた背景には、これまでヨーロッパがロシアからのエネルギー供給を前提に経済活動をし、ロシアはその収入の大半を輸出によって得ていた、という依存関係があります。
そこで、制裁を行なうにあたっては、ロシアの原油やガスの生産を一気に断ち切ってしまうのではなく、ある程度は生産を続けさせながらも、それを高値で輸出させない。
そうすることで、世界的なエネルギー価格が一気に上がるのを和らげるとともに、ロシアの収入源を効果的に、細らせていくことを狙ったものでした。
その結果、ロシア産の原油は、ほかの国のものより、3割から4割安い価格で取引されているといわれています。今は中国、インド、それにトルコなどがロシア産の原油を買っていますが、いずれも「安ければ買う」という姿勢で、ロシアを支援するために無条件に買うといった態度はとっていないとみられています。
こうした状況を背景に、ロシアの財政収支は年末ごろから一気に悪化し、12月の財政赤字は3兆8000億ルーブル、日本円にして7兆円もの、過去にない赤字になっています。そこで国民福祉基金を切り崩し、財政赤字を補てんするという異例の手段で急場をしのいでいるのが現状です。
これに対し、ロシアは原油の生産を減らすと表明し、価格を維持しようという対抗手段に出ようとしています。しかし世界的にはアメリカ、中国、ブラジルで産油量が増える見通しで、ロシアの目論見はうまくいかず、ロシア産原油の世界シェアだけが落ちていく可能性も考えられます。
【ロシアのガス市場での優位性はあと3〜4年?】
さらに、現在はロシアが世界的に大きなシェアを誇る天然ガス市場にも、変化が迫っているという指摘があります。
JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構の原田大輔調査課長は、「ここ3年から4年ぐらいのうちに、アメリカ、カタール、東アフリカで新規プロジェクトが次々にたちあがり、その生産量をあわせると、ロシアがヨーロッパに供給してきた量に匹敵するぐらいにまでなりそうだ」と話しています。このためヨーロッパは調達先の多様化によって、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を実現できるとみています。
つまり見方を変えれば、「ロシアのガス市場での優位性は、あと3年から4年ぐらいしかもたないだろう」というのです。
ロシアは中国やインドとの関係強化を模索していますが、ヨーロッパほどの値段と量で買ってくれる得意先を確保するのは難しく、限られた国との取引で収入を減らし、「弱体化」していく危険をはらんでいます。
果たしてそれは、ロシアの人々が本当に望んでいることなのか、あらためて、問いかけたいところです。
【エネルギー争奪戦、正念場は次の冬?】
さて、ここからはロシアのウクライナ侵攻がもたらした日本経済への影響についても考えていきたいと思います。
この一年で目立ったのはエネルギーや食料価格の乱高下です。
去年2月のウクライナ侵攻をきっかけに、供給不安が高まり、価格が一気に高騰したことが、国際商品価格の変化から読み取れます。
そしてこうした資源や原材料の価格高騰を背景に、日本の消費者物価指数、はおよそ40年ぶりに対前年同月比で4パーセント台にまで上がりました。
トイレットペーパーや醤油、といった生活必需品にまで値上がりが及び、政府は家庭の光熱費の負担を抑えるための財政支出を迫られました。
エネルギーや食料価格はその後、一時よりは落ち着き、世界銀行は
▼原油は年間平均で去年1バレル100ドルだったものがことしは88ドルに
▼農産品は、去年は13%上昇したのにくらべ、ことしは5%低下すると予測しています。
ただ、専門家は、先行きは予断を許さないと警告しています。
▼まずはエネルギーについてです。去年からことしにかけて、北半球は記録的な暖冬となり、各国は大きく在庫を減らさずに乗りきることができました。しかし今後、予想外の猛暑や厳しい寒さに見舞われれば、需要が膨らみ、価格が高騰することも予想されます。
また、中国がこれまでのゼロコロナ政策を手じまいしたことで、エネルギー需要が一気に増えるのではという予測もあり、各国の争奪戦が再び熱を帯びることも考えられます。
▼さらに食料についても、今は小麦やトウモロコシの価格が一時よりはおさまっているものの、肥料や飼料、輸送コストが高く、穀物や食肉の値段は高止まりする可能性が大きいということです。
そして一度、商品価格を上げたり、同じ価格でも中身の量を減らしたりして値上げを実施した企業は、原材料価格が多少落ち着いたとしても、元の値段や量に戻して値下げするのは考えにくい、とみられています。
私たちの暮らし向きという点からみると、物価はまだまだ高く、厳しい影響が続くことになります。
より、中長期的な課題もあります。
▼日本はロシアからの原油の輸入をストップする一方で、中東への依存度がますます高まっています。直近では南米やアフリカからの輸入もすすめていますが、今後、一層、多角的な資源エネルギー外交が必要になってくるとみられます。
▼また、日本はロシアの石油・天然ガスプロジェクト、サハリン2極東への参加を継続していますが、半導体やハイテク製品の輸出が禁止される中、操業や補修に必要な部品の補充が難しくなることも予想され、LNGが安定供給されるかも不透明です。
ロシア抜きのエネルギー安全保障をどう考えるか。
またエネルギーや食料の世界的争奪戦による物価高を、これ以上、招かないようにするにはどうすればよいか。
日本は2つの課題に直面しています。
日本がことし議長国をつとめるG7は、1970年代の第一次石油危機を一つのきっかけとして生まれた枠組みです。
ロシアの侵攻をやめさせ、また資源高の引き金となりかねない各国の排他的な行動を抑えるために、G7の枠組みをどう活かすのか。日本の手腕が問われています。
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