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イスラエル ネタニヤフ政権復活へ その懸念は?/出川展恒・nhk
2022年12月05日 (月)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/477111.html
中東のイスラエルでは、先月1日、議会選挙が行われました。自らの汚職問題などで、去年、政権を失ったばかりのネタニヤフ前首相が率いる右派政党が、第1党となりました。ネタニヤフ氏は、首相への返り咲きを果たし、パレスチナ人の追放などを主張する極右政党などとともに、史上最も右寄りと言われる新たな連立政権を発足させる見通しです。その背景と影響を考えます。
解説のポイントは、▼ネタニヤフ政権が復活する背景。▼大きく躍進した極右政党が政権に参加する意味。▼今後の中東情勢への影響。以上3点です。
■最初のポイントです。
先月の総選挙、最大の焦点は、ネタニヤフ氏が政権に返り咲くかどうかでした。通算で15年間、右派政権を率いたネタニヤフ氏は、収賄や背任など3つの罪で、現在、裁判中です。退陣に追い込まれた背景には、汚職問題と強引な政治運営がありました。去年6月、「反ネタニヤフ」の1点だけでまとまった8つの政党による連立政権が発足しました。極右から、右派、中道、左派、さらに、アラブ系の政党まで参加した「寄り合い所帯」で、当初から予想されていた通り、わずか1年で内部分裂し、連立政権は崩壊。過去3年半で5度目となる選挙となったのです。
■イスラエルの議会は、1院制で定数120、比例代表制です。今回の総選挙で、▼ネタニヤフ氏が率いる右派の野党「リクード」が、32議席を獲得し、第1党になりました。▼ラピド首相が率いる中道派の与党「イェシュアティド(未来がある)」は、24議席で第2党。▼そして、3つの極右政党が連合してつくった政治会派「宗教シオニズム」が、前回の6議席から、今回14議席へと大きく躍進し、第3党となりました。▼さらに、ネタニヤフ氏を支持する2つのユダヤ教の宗教政党、「シャス」(11)と「ユダヤ教連合」(7)も、あわせて18議席を獲得しました。▼一方、かつての政権与党で、中東和平を推進した「労働党」は、わずか4議席にとどまりました。
ネタニヤフ氏率いる「リクード」をはじめ、「赤」で示した政党の議席の合計は64、政権樹立に必要な過半数となりました。ネタニヤフ氏は、大統領から組閣を要請され、他の政党の党首らと、閣僚ポストや政策綱領を決める連立協議を進めています。「宗教シオニズム」との間では、すでに合意が成立し、今週から来週にかけて、ネタニヤフ氏を首相とする新たな連立政権が発足する見通しです。
■ネタニヤフ政権復活の要因はいくつかありますが、まず、イスラエル社会の右傾化が急速に進み、和平推進派の発言力が著しく弱まっていることが挙げられます。1993年の「パレスチナ暫定自治合意」を出発点に進められた和平交渉は、2000年に決裂し、その後、衝突や暴力の応酬が続いたことで、和平に反対する右派勢力が支持を拡げました。
汚職事件で裁判中のネタニヤフ氏に対しては、強い反発がある一方で、支持者の間ではカリスマ的な人気もあり、首相在任中、各国から多くの投資を呼び込んで経済成長を実現させた実績や、新型コロナウイルスのワクチン確保で発揮した経験や手腕に期待する声もあって、奇跡的とも言える首相返り咲きが実現する運びになりました。
■ここから、極右政党が政権に参加する意味について考えます。
今回、大きく躍進した極右の「宗教シオニズム」は、国際法上、「占領地」であるヨルダン川西岸地区を、ユダヤ人が神から授かった「約束の地」と信じ、そこに入植地を建設することを宗教的な義務と考える思想で結ばれています。
そして、今年の春以降、イスラエルが占領するヨルダン川西岸地区や、東エルサレムで、占領に抗議するパレスチナ人と、イスラエルの治安部隊や入植者との間で、衝突や銃撃事件が頻発し、犠牲者が急増していることが、今回、極右の「宗教シオニズム」が大きく躍進した背景にあります。「徹底的に力で抑え込め」とか、「パレスチナ人を追放せよ」と言った過激な主張が、若い世代の有権者には響いたのです。そして、ネタニヤフ氏は、極右政党と連携するのが、自らの政権復帰に不可欠と判断したと見られます。
2人の主要なリーダーが、極めて重要な閣僚ポストに就くことが内定しました。
▼ひとりは、ベングビール氏です。極端なユダヤ人至上主義者で、国内に20%ほどいるアラブ系の住民に対し、「イスラエル国家に忠誠を誓わない限り、国外に追放すべきだ」と主張したり、非合法化されたユダヤ人過激派組織への支持を公言したりするなど、
過激な言動が物議をかもしてきました。ベングビール氏は、新たに設けられる「国家安全保障相」に任命されます。イスラエル国内の警察に加えて、占領地のヨルダン川西岸地区の治安維持も統括するポストです。
▼もうひとりは、スモトリッチ氏です。国際法で禁止されている占領地での入植活動の拡大、さらには、ヨルダン川西岸地区をイスラエルに併合すべきだとまで主張してきました。「財務相」に任命され、占領政策全般、とくに入植地の建設と拡大に大きな権限を持つことになりました。
こうした極右の政治家が、治安と財政、それに占領行政を担う重要閣僚になり、イスラエル史上、最も右寄りで、パレスチナに対し強硬な政権が誕生する見通しです。これまでの政権も、入植活動は続けてきましたが、イスラエル本体と占領地は、扱いを区別してきました。ところが、新たな連立政権は、両者の区別をあいまいにし、占領地のイスラエルへの併合も視野に入れた政策を進めるのではないかと内外の専門家は危惧しています。もちろん、パレスチナ側は、こうした動きを強く警戒しています。
■最後に、今後の中東情勢への影響について考えます。
国際社会が、これまで支持と支援を続けてきた中東和平プロセスは、パレスチナ人に国家独立の機会を与え、イスラエルと平和共存させることを最終的な目標にしたものでした。しかし、もし、新たな政権によって、大規模な入植活動や、占領地の併合が行われれば、和平の実現は、事実上、不可能になります。長く中断したままの和平交渉の再開も絶望的で、パレスチナ側の広範な抗議行動、そして、双方による暴力の連鎖を招く事態は避けられないと思います。
一方、新たな連立政権は、核開発を進めるイランに対しても、これまでの政権よりも、武力攻撃や暗殺作戦などへのハードルが下がり、軍事衝突の危険性が高まることが予想されます。
国際社会も、国際法を無視し、パレスチナ人などの基本的人権を蔑ろにする政権とは、
良好な関係を築くことはできないでしょう。加えて、ネタニヤフ氏は、汚職裁判を抱えたままでの、首相返り咲きとなります。今後、有罪判決が出て、再び退陣を迫られるのを避けるため、議会を動かして、汚職に関する法律を改変する、あるいは、司法権を制限する法律を作ろうとしているのではないかと言う観測も出ています。
イスラエルの立場を常に擁護してきたアメリカのユダヤ人団体からも、イスラエルの民主主義を根底から揺るがしかねないという懸念の声があがっています。民主主義や人権を重視するバイデン政権との間で、対立や緊張が起きる可能性が、早くも指摘されています。
長年、中東和平を支援してきた日本としても、和平の将来、および、国際法の観点から、イスラエルの新たな政権が、実際にどんな政策をとるのかをしっかりと見極め、緊張緩和に向けて、適切な行動や意思表示を行う必要があると考えます。
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