今月だけで死者8000人…そんな中でのコロナ「5類化」で社会はどうなるのか(東京新聞) 2023年1月26日 06時00分https://www.tokyo-np.co.jp/article/227417/1 https://www.tokyo-np.co.jp/article/227417/2 岸田文雄政権は、新型コロナウイルスの感染症法上の区分を今春から、現在の「2類相当」から普通のインフルエンザなどと同じ「5類」にする方針だ。コロナ禍が始まって3年、ようやくインフル並みの対応でよくなると思えば、歓迎の声が上がるのも分かるが、死者数は今月だけで8000人にも上り、決して流行が終わったとは言えない状況だ。5類化された後、どんな社会になるのか。(宮畑譲、木原育子) ◆自己負担が増えれば、受診を控える人が増える可能性 「3万円? いや、それならいいです。我慢すれば治るかなとか、自分で判断すると思う」 コロナに感染後、回復した都内の女性(86)の家族が、往診に訪れた田代和馬医師にこう話した。3万円というのは、女性に投与した抗ウイルス薬の自己負担が通常と同じ3割になった場合、支払うことになるおおよその額だ。 現在、コロナに関わる医療費は全額公費で賄われている。経過措置として、当面は公費負担が継続される見込みだが、5類になれば原則的には自己負担が生じる。この女性の場合、入院できずに自宅で療養して往診を受けていたが、往診の加算分も今後は自己負担となる可能性がある。 田代氏は「コロナの感染自体を防ぐのは難しい。重症化する人を減らすことが大切。そのためには、早期に診断し、治療する必要がある。しかし、自己負担が増えれば、受診を控えて悪化する人が増える可能性がある」と懸念する。 コロナが5類になると、インフルエンザや他の風邪と同じように、一般のクリニックでも診察できるようになるとの見方もあるが、現場で診療する医師たちの間では、否定的な意見が少なくない。 「発熱外来をやめる病院はあっても、始める病院が急増するとは思えない。全体では、むしろ減るかもしれない」。首都圏で在宅医療に携わる木村知医師はそう指摘する。これまで発熱外来を受け付けていなかった病院は、患者の動線を分けられないといった施設の問題もある。診療の蓄積も少なく、5類になったから参入するという可能性は高くないというのだ。 ◆診療報酬の加算や入院調整がなくなることも 一方、5類になれば、これまでコロナで加算されていた診療報酬や、保健所などが行っている入院調整がなくなることもありうる。木村氏は「入院調整など病院の負担は増えるのに収益が減る状況が予測される。病院にとっては発熱外来を続けることでデメリットが生じうる」と付け加える。 5類になって想定される変化は他にもある。検査やワクチン接種に自己負担が生じ、自宅療養や緊急事態宣言といった行動制限はなくなる。マスクは屋内でも原則不要とするなど着用のあり方の見直しが検討されている。 インターパーク倉持呼吸器内科(宇都宮市)の倉持仁院長は「2類だからあった特別なサポートがなくなる。インフルエンザのように薬が行き渡っている状況でもない。医療供給体制は改善しないまま、法的な側面が緩和される」と言い、5類とするに至った議論は不十分だと批判する。 国民の間にはコロナ疲れや経済活動を活発化する観点から、規制緩和を求める声も少なくない。 それでも、倉持氏は訴える。「診療報酬の加算などがなければ、コロナ患者の診療、入院をやめざるを得ない病院が出る可能性はある。そうなると、コロナにかかった人は家で亡くなっても仕方がない、という社会がやってくる。結局、損をするのは国民なのだが…」 ◆今までがすでにニセ2類 医療系メディアで最近、「5類の後の世界」と題したコラムを寄稿した神戸大の岩田健太郎教授(感染症)は「今までがすでにニセ2類」と喝破する。 「感染症法上の2類の現在であっても、感染者の報告義務はなく全数報告でもなく、行動制限もかなり緩和。まさにニセ2類の状態で、実質的にはすでに5類に近い状況ではないか」 「5類」になれば普通のインフルエンザと同じように、指定医療機関だけではなく、全ての医療機関でコロナ患者を診察できるようになるとされるが、岩田教授は「それは恐らく幻想だろう」と首をひねる。 医師法には、診察治療の求めがあった場合は、正当な事由がなければ拒んではならないと定めた「応召義務」があるが、「例えば、同じ5類のエイズウイルス(HIV)感染者について、受け入れの余裕がなくて診察できないとする医療機関は山ほどある」と指摘。「コロナでも同じように、結局これまで診察した病院が引き続き診察し、医療現場では2類と5類の差はほとんど出ないだろう」 ただ、その中でも「一番困るのは救急隊や指定医療機関の救急担当医だ」と岩田氏は推測する。保健所の入院調整機能がなくなる中で、相変わらず医療機関は限られる。「どこに搬送すればいいか、分からない事態も考えられる。そういった事態を踏まえ、千葉県のように5類でも保健所の入院調整機能を残す自治体は出始めているし、今後も増えるだろう」 ◆経済再生、医療費抑制に伴う財源転用の狙いも 現状がニセ2類で、5類となってもそれほど状況が変わらないなら、なぜ岸田首相はまだ「第8波」が続くこの時期に5類化を決断したのか。 政治ジャーナリストの泉宏さんは「ウィズコロナ時代に経済を回すためには、通常の医療体制に戻すことが最重要課題だった」と話す。「安倍政権や菅政権をみても、コロナ対策と政権支持率は比例する」とし、「統一地方選前に感染症の区分を変えることは危険な賭けだが、その後の5月のG7広島サミット成功を含め、政権危機を脱出するためには、逆にこの時期しかなかった」と内情を語る。 危険な賭けには、医療費抑制に伴う財源転用の狙いもある。「少子化や防衛費増に余裕が出るという考えももちろんあった」 コロナ対策を議論する政府分科会委員で慶応大の小林慶一郎教授(経済学)は、「岸田首相は、十分慎重に検討したのではないか」と話す。「コロナが直接の死因になるより、基礎疾患のある人が、感染で元々の疾患が悪化して亡くなるケースも多い。今後は一般病院にもコロナ患者が基礎疾患の治療のために訪れるということを、社会も許容していかないといけない」 ◆亡くなっても自己責任というメッセージ だが、ニセとはいえ2類だったがゆえの手厚さをなくした時、受診控えせざるを得ない生活困窮者や高齢者、基礎疾患のある人などが犠牲になる恐れはある。それも許容せよということになっていくのか。 思想家で神戸女学院大の内田樹・名誉教授は「自己防衛できない人が亡くなってもそれは自己責任だというメッセージを政治が先導していると解釈される。この政策転換は、生産性がない人、行政コストに負荷をかける人は公的支援を期待すべきではないと公然と口にする人たちが世論形成にかかわってきたことと符合する」と嘆く。 「5類後の医療環境がどう変化するかを私のような門外漢は科学的な根拠に基づいて予測することはできない。ただ『人としてどうなのか』という主観的・感情的な訴えしかできない」。だが、やはり黙っていられない。「弱者こそ優先的に配慮されるべきだという人としての情を失ってはならない」 ◆デスクメモ 最初から、高齢者や基礎疾患のある人はコロナに弱いことは分かっていた。最先端治療が必要なコロナで、医療費が3割負担だったなら、受診できない人も多かっただろう。もし5類化がこうした人たちを守ることを放棄するというなら、これはニセのコロナ終息宣言としか言えない。(歩) ーーー以上引用 末尾の「関連記事」を省略しました。
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