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2024年3月17日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/315624
ドイツが国内全ての原発の運転を止める「脱原発」を達成し4月15日で1年になる。2011年3月の東京電力福島第1原発事故からは13年。今年1月の能登半島地震で安全・防災面に不安が生じても、日本は原発を最大限活用する方針を変えないが、ドイツでは廃炉作業が粛々と進行。稼働に向けた新たな動きもみられない。(佐久間博康)
◆解体したがれきの98%を再利用
昨年11月、廃炉作業が進むドイツ北東部ルブミンのグライフスバルト原発を訪ねた。記者も防護服の着用を求められ、コンクリートや金属など「原発がれき」の解体・除染作業場の中へ。場内には「ガーガー」「ギーギー」という金属の切断音が響き渡っていた。
従事するのは約20人の作業員。部品を電動のこぎりで切断したり、除染のため部品に高圧の水を吹き付けて表面を洗浄したりしていた。
「(部品などは)できる限り再利用することが重要だ」。ドイツ連邦政府が100%出資する廃炉会社「EWN」の広報担当者、カート・ラドロフさん(32)が説明した。連邦政府の廃棄物管理委員会によると、原発がれきのうち約98%は、放射性廃棄物でないか、基準値より放射能レベルが低いもので、再利用が可能。約2%が処分場への搬出が必要な放射性廃棄物という。
再利用にこだわるのは、脱原発といっても高レベル放射性廃棄物の最終処分場の場所は未定で、建設できても処分容量には限りがあるから。1995年に始まった同原発の解体作業は、2030年代後半までかかる見通しだ。
◆中間貯蔵施設16カ所、最終処分場はゼロ
同原発の敷地内には、放射性廃棄物を一時的に保管する中間貯蔵施設もあった。複数のホールに仕切られた静かな空間には、放射性廃棄物のがれきを収めたコンテナが並び、長さ数十メートルの蒸気発生器や核燃料を収納していた圧力容器が横たわっていた。
「見学はここまで!」。広報担当者に止められた。圧力容器などが並ぶホール横のコンクリート壁の先は立ち入り禁止区域だ。同原発や別の原発から出た高レベル放射性廃棄物584トンが74個の容器に入れられて保管されていた。
ドイツには、こうした中間貯蔵施設が16カ所ある一方、最終処分場の建設のめどは立っていない。一時は北部のゴアレーベンが候補地になったが、住民の反対運動で13年に撤回された。
20年には「連邦放射性廃棄物機関(BGE)」が最終処分場の基準を満たす90の地域を発表。対象地は国土の54%分の土地で、27年後半までに地上探査をする地域の絞り込みを目指す。
BGEは当初、31年の候補地決定を目指した。だが地上と地下の探査作業の手続きなどに時間がかかるとみられ、その後、決定は「46〜68年の間になる可能性がある」と表明した。
◆ウクライナ侵攻後も「再稼働」の動きはない
日本は福島第1原発の事故後、原発への依存度を下げた。だが22年のロシアのウクライナ侵攻でエネルギーの供給不安が起こると方針を転換。運転の開始から60年超の原発の運転を可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」を成立させた。
能登半島地震では、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)で変圧器が破損して油が漏れ、外部電源の一部が使えなくなるなどの被害が発生。道路の寸断や建物の倒壊も相次ぎ「地震と原発事故による複合災害時に避難や屋内退避ができない」との不安が広がった。
一方、ドイツで原発再稼働の動きは見られない。ベルリン自由大のルッツ・メッツ准教授(エネルギー政策)は「電気事業者は再生可能エネルギーに投資する経営戦略に転換しており、再稼働を望んでいない」と説明する。北西部リンゲンのエムスランド原発の運転を昨年4月に停止した企業「RWE」は昨年11月に「再エネや蓄電、水素の分野に今年から30年までに550億ユーロ(約8兆9000億円)を投資する」と発表した。
同じ時期に南西部のネッカーウェストハイム原発の運転を止めた「EnBW」の広報担当者も「ドイツの原子力法は『原発による電力生産は認められていない』と明記している」と指摘。その上で「原子力のさらなる利用に関するわれわれの議論は終わっている」と強調した。
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ドイツの脱原発 1986年のチェルノブイリ原発事故後、98年に発足した中道左派「社会民主党」と環境政党「緑の党」による連立政権下で国の基本方針になった。2002年の原子力法改正で法制化。中道右派のメルケル政権は達成時期の目標をいったん先延ばししたが、11年の東京電力福島第1原発事故を受け22年までの完了を目指す方針に転換。この年のロシアのウクライナ侵攻の影響により、全原発の運転停止の実現は23年4月15日となった。23年11月時点で28基が廃炉作業中。5基の廃炉はまだ認可が出ていない。
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◆日本はまだ「文献調査」 その先は?
脱原発を完了したドイツも国内で原発が稼働中の日本も、原発から出た高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場については、用地の選定すらできていないのが実情だ。世界を見渡しても用地選びを終えたのはフィンランド、スウェーデン、フランスの3カ国だけで、稼働している最終処分場は一つもない。
国内では北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、最終処分場の用地選定の「第一段階」となる「文献調査」(論文やデータなどでの調査)が行われている。
だがその先の展望は開けていない。用地の選定を担う「原子力発電環境整備機構」は先月、寿都町と神恵内村が次の段階の「概要調査」(地面を掘って地層を調査)に進むことが可能になったとする報告書案を国に示した。ただ概要調査への移行には知事の同意が必要で、北海道の鈴木直道知事は移行に反対している。
これに対し同機構によると、最終処分場の用地選定を終えたのは欧州の3カ国。フィンランドは南西部オルキルオト島で建設を進め、2020年代半ばに世界で初めて操業を始める見通し。スウェーデンは南東部フォルスマルクで30年代の操業開始を目指している。フランスでは昨年、パリの東にあるビュール地下研究所近くでの設置に許可申請が出された。このほか米国では西部ネバダ州のユッカマウンテンが候補地になっているが、現在は安全審査が中断している。
◆中間貯蔵施設も再処理工場もない
高レベル放射性廃棄物の定義は日本とドイツなどで異なっており、核燃料サイクルを禁じるドイツでは使用済み核燃料そのものを指す。一方、核燃料サイクルを継続する日本は、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出した後に残る廃液をガラスと混ぜて固めた「ガラス固化体」を高レベル放射性廃棄物と定義する。ガラス固化体は金属の容器に入れ、地下300メートル以上の深さの岩盤に埋めることが法律で定められている。
日本では最終処分場に加えて使用済み核燃料を再処理工場(青森県六ケ所村、24年度上期完成予定)に搬出するまでの間、一時的に保管する中間貯蔵施設の整備も課題になっている。
東京電力と日本原子力発電が出資する「リサイクル燃料貯蔵」(青森県むつ市)は24年度上期の事業開始を目指して昨年8月に必要な認可を取得。津波による浸水対策の工事が今月末に完了する見込み。中国電力と関西電力は山口県上関町に中間貯蔵施設を共同開発する計画を持ち、建設に向けた調査を始めている。
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