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2024年3月11日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/314356
<連載・能登から見る 3.11後の原発防災>
ひび割れた道路にできた長い車列。バスの中で息絶えた高齢者たち。2011年3月11日、激しい揺れと大津波に襲われて起きた東京電力福島第1原発事故。住民避難は混乱を極め、多くの人が被ばくを強いられた。そして見直された避難と事故対策のあり方に、13年をへて致命的な問題が露呈した。能登半島地震。自然の脅威が再び問いかける。原発と共存できるのか—。半島の被災地で答えを探した。(片山夏子)
ごっそりとえぐられ、むき出しになった山肌。根こそぎ倒された杉の木が、目の前に剣のように迫る。大量の土と木が80メートルもの斜面を滑り落ち、集落入り口の道に覆いかぶさっていた。
北陸電力志賀(しか)原発(石川県志賀町)から北約20キロ、町内の切留(きりどめ)地区。雪が降った今月2日、道の奥に家がある堂下(どうした)健一町議(69)と、斜面を見上げた。襲ってきたのは恐怖。「原発事故が起きていたらとても避難できなかった」。堂下さんが白い息を吐いた。
原発で過酷事故が起きていたら…。避難計画では、切留地区の住民は半島北側の能登町へ逃げる。最大震度7の揺れは、北への道を土砂崩れでふさいだ。1月10日には南への道も寸断され地区は孤立したが、住民はその前に避難していた。
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石川県の避難計画 北陸電力志賀原発から30キロ圏内の石川県内の自治体は4市4町。輪島市と七尾市、穴水町、志賀町の原発北側の住民は、能登半島の先端方向へ、ほかは金沢方面への避難を想定している。基本的な避難ルートは能越自動車道、のと里山海道、国道249号など11路線あり、地震で崩落などの被害が出た。
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堂下さんと避難ルートをたどった。地震発生2カ月でも、北へ行くほど道路状況は悪化した。大きな陥没、30センチ近くある段差、土砂崩れや岩が崩落した斜面のすぐ脇の道を通る。
地震直後はパンクしたり、道の割れ目にはまったりして動けない車が多発。家と一緒に車がつぶれ、避難できない被災者もいた。県が頼んだ大型バスは細い道を入れず、北部の病院にたどり着けず引き返した。
原発から30キロほどの穴水町の清滝美津子さん(70)が住む下唐川(しもからかわ)地区も、孤立した。住民らが倒木を片付け、道の亀裂や段差を砂利で埋めて3日間かけて開通した。原発事故時は珠洲(すず)市に避難する計画だが、震源に近づくことになる。「車でたどり着けたのか。逃げ道なんてないと分かった」。珠洲への道は何カ所も通行止めになっていた。
珠洲市内の避難所は、地震直後の大津波警報で人があふれていた。旧本(ほん)小学校の避難所をまとめる地元区長の新池(しんいけ)時夫さん(73)は説明する。「地震から3日間は車中泊の車が約1キロつながっていた。この先は海。逃げるところはない」
県は、船やバスでの避難も計画する。今回、県内の漁港69カ所のうち60カ所が被災。海底の隆起で、半島北岸全域が壊滅的な被害を受けた。県漁連幹部は「津波の到達が早く船すら守れなかった。原発事故時の避難に船を出せるか分からない」。県バス協会は「我々は民間。放射能が問題になる場所には行けない」。悪天候ではヘリも出ない。
南への避難ルートもたどった。地震直後は通行止めがあり、原発から45キロの内灘町では液状化で道路が激しく損壊した。堂下さんは言う。「震源が南側にあれば、能登半島は孤立する。冬の大雪や吹雪など悪天候でも、船やヘリは動かない。避難計画なんて作れない」
◆混乱の記憶 福島事故も
福島第1原発事故時、住民の避難計画の策定が義務づけられていた自治体の範囲は原発から8〜10キロにとどまり、避難時の具体的な行動も明確には決まっていなかった。13年前までは、過酷事故を想定していなかった、とも言える。
能登半島地震のような多数の道路寸断はなかったものの、事故直後の避難では多くの場所で大渋滞が起き、避難用のバスの確保も難航。住民が避難先に受け入れてもらえず、転々と移動を繰り返さざるを得ないなど大きな混乱も起きた。
政府は事故後、30キロ圏の自治体に避難計画の策定を義務づけ、避難先の施設や避難ルート、移動手段などをあらかじめ設定するよう改めた。ただ、30キロ圏に約92万人が暮らす日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)周辺では、避難計画作りが難航している。
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