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2023年12月22日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/297440
東京電力福島第1原発事故で全域避難となった福島県浪江町津島地区の住民らが、東電や国を訴えた控訴審。今年5月、裁判長らの現地訪問の際、東電の弁護団が原告個人の個別賠償額をマイクで読み上げるという非常識な行動があり、深く傷ついた原告らが11月、東電側に抗議文を出していたことが分かった。(片山夏子)
◆避難先の間取りや家や土地の面積、値段まで事細かに
津島地区の住民約630人が起こした「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」では、東電や国に同地区の原状回復などを求めている。
今年5月、仙台高裁の石栗正子裁判長らが現地を見ながら原告の被害状況を聞くため、津島地区を訪れた。山間部で大半が帰還困難区域のままのため、防護服を着ての視察となった。
地区でも線量の高い赤宇木(あこうぎ)に家がある原告の石井絹江さん(71)は「帰りたいと願いながら亡くなった仲間の無念の思いを受け、津島を地図から消さないために復興住宅にいち早く戻ろうと思った」などと涙ながらに訴えた。
現地視察は津島地区内の10カ所で行われた。ただ、こうした原告の訴えに対し、東電の弁護士はいずれも、原告個人の詳細な賠償額などの支払い情報をマイクを使って述べるという挙に出た。例えば、「原告は〇〇市に(避難し)〇〇平方メートルの土地を取得した。東電は〇軒の家の住居獲得費用として〇〇円を支払った。土地建物の賠償など総額〇〇円を支払っている」など避難先の間取りや家や土地の面積、値段まで事細かに読み上げた。さらに事故前からの人口減少傾向を指摘し、「冬の積雪は深く、夏の酷暑は耐え難かった」とも述べた。
◆「悔しくて悔しくて…」
賠償の額は重大な個人情報で、その額の違いは住民の分断を呼ぶこともある。石井さんが説明した場所では、復興住宅の住民や役場職員、そして他の原告や報道陣もいた。近くにいた人に「そんなにもらったの」とも言われたという。石井さんは「悔しくて悔しくて東電に腸(はらわた)が煮えくり返った。そんなことを言う権利があるのか。元に戻してくれるなら賠償金なんていらないのに」と振り返った。
崩れて住めなくなった家を見せ、帰りたくても山の線量は高く孫を連れて帰れないという思いを語った三瓶春江さん(63)も当日を思い起こし憤る。「故郷を含め、どれだけのものを失ったか。なぜ被害者が加害者に責め立てられ、傷口に何度も刃物を突き刺されるような苦しい思いをしなくてはならないのか」
◆「プライバシーの暴露でありあまりにもひどい」
原告団長の今野秀則さん(76)も「あの場で言う必要はまったくなかった。プライバシーの暴露でありあまりにもひどい」と憤慨。裁判所にも、原告弁護団にも止めてもらいたかったという。このまま放置できないと役員で話し合い、弁護団と協議し、11月に裁判所への上申書と東電社長や代理人に抗議文を送った。
原告弁護団の山田勝彦弁護士は、裁判所に東電は賠償額を口頭で述べるのではなく、文書で示すべきだと事前に申し入れていたという。「原告を守り切れず傷つけた。回避できるよう対応すべきだった」と反省。
その上で「今回のように原告が傷つき、裁判を続ければ嫌な思いをすると不安になれば、訴訟にも支障が出る」とする。抗議文では「原告への嫌がらせと受け止めるしかない」とし、原告の反対尋問でも、具体的な金額を口頭で読み上げないように強く申し入れた。
◆東京電力「引き続き適切に対応していく」
本紙の取材に東電は「引き続き訴訟手続きにのっとり適切に対応していく」とコメントするのみだった。
今野さんは「賠償の話は、避難先でも住民の間でも分断や対立の火種(だね)になりかねない。これまでもそれで苦しんできた原告を、これ以上苦しめる権利はないはずだ」と語る。
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