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処理水の海洋放出が続く福島第一原発 廃炉への険しい道のり/水野倫之・nhk
2023年11月09日 (木)
水野 倫之 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/489424.html
先週、3回目の処理水の放出が始まった福島第一原発。放出自体は計画通り進む。
しかし、処理過程で作業員の被ばくが発生。東京電力の作業マニュアルや情報発信に問題があり地元の不信が高まっているほか、廃炉の本丸、燃料デブリの試験取り出しでも計画見直しの可能性。
処理水放出開始後の福島第一の廃炉の課題について水野倫之解説委員が解説。
今月2日、東電は3回目となる処理水の海洋放出を始めた。放出はあくまで本格的な廃炉への準備のための作業。タンク1000基分の処理水のうち今年度中に10基分減らす計画。
周辺の海水のトリチウム濃度は最大で1Lあたり22㏃と、東電の放出停止基準を下回っているほか、水産庁による魚の検査も検出限界値未満と、放出自体はほぼ計画通り。
しかし中国による日本の海産物の輸入停止で、今年9月の中国向け輸出額は、ホタテやナマコがゼロとなるなど影響が続く。
ただ地元福島の漁業はヒラメなど常磐モノの価格に変動はなく、風評被害はみられていない。
今後も風評を抑制するには、東電がトラブル無く計画通りに作業をすすめ、濃度などの正確な情報をすみやかに発信することが大前提。
しかし、それに疑問符がつく問題も。
先月25日、処理水のもとの汚染水を浄化するALPSで、タンクから放射性の廃液が飛び散り、協力会社の作業員5人が浴びて、2人に汚染が確認され一時入院。
放射線による急性障害はなく、すでに退院できた点は幸いだが、今回の被ばく、東電の作業管理や情報発信に問題があり、地元では不信が高まっている。
東電はALPSでの作業について、液体を通さないカッパを着る作業マニュアルをつくり、元受けの協力会社に示していた。
しかし2人はカッパを着ておらず、汚染された。
東電はマニュアルに従えば2人もカッパを着用すべきだったと。しかしマニュアルには例外規定が。「 液体を扱う作業でない場合はカッパを着なくてもよい」とされていた。パトロールや視察が想定されるというが規定はあいまいで、協力会社側は2人は監視役なので例外にあたりカッパは必要ないと判断したとみられる。
また作業員の装備について、東電が元受けから書類を受け取ってチェックする仕組みで、カッパ着用と書いてあったものの、一人一人の装備まで示す様式となっておらず、カッパを着ていない作業員をチェックできず。
このように今回の被ばくは東電の作業マニュアルのあいまいさが招いた部分もある。
まずは処理水関連のマニュアルの例外規定をより具体的にし、作業員の装備も一人一人チェックできるよう書類の様式を見直すと同時に、ほかの作業現場のマニュアルも点検し、安全を最優先にする体制にしていかなければ。
さらに今回は情報発信でも課題が。
東電は発生5日後に、100mLとしていた廃液の飛散量を数十倍の数リットルに。
また作業員も「 1次請け」ではなく「 3次請け」企業だったと訂正。
廃液の量は協力企業による作業員への聞き取りの結果から訂正したというが、実際より少ない量の発表は、たいした事故ではないという印象を与えかねない。
またどの企業の作業員がどんな被害にあったのか情報がすみやかに出てこないのは安全管理上問題。
地元からも批判が相次ぎ、福島県は正確な情報発信に責任を持って取り組むことを求めた。
地元が不信を強めるのは、仮に処理水の放出でトラブルや情報発信の遅れや訂正があれば風評被害につながりかねないから。
東電はこの点をしっかり認識しなければ。でもこうした問題、度々繰り返されているのはなぜなのか。
東電は多くの場合、作業を元請け企業に発注し契約。元請けからはさらに1次、2次請けの協力企業に依頼がいき現場作業が行われる。東電が日々やり取りするのは契約関係がある元請け。このためトラブルの際、1次2次3次の協力企業の情報が遅れる傾向にある。
ただ現場の安全管理の最終責任は東電にある。
例えばトラブルの際には東電がすぐに現場の作業員から聞き取りできる体制をとるなど、この際トラブルの確認方法や情報発信の見直しをすることが求められる。
このように処理水関連に焦点が当たる一方で、今年度中に試験的に着手する廃炉の本丸、燃料デブリの取り出しも、計画の見直しが余儀なくされる可能性。
事故では3基で核燃料が溶けて燃料デブリとなって880トン残されている。
放射線が強く人が近づけないため、東電は長さ22mのロボットアームを6年がかりで開発。調整に手間取り2年遅れとなったものの、今年度後半に2号機で数gの試験取り出しに着手する計画で、若手社員が操作訓練を繰り返し、準備を進めてきた。
ところが先月、ロボットアームを通す格納容器の直径50pの貫通孔のフタを遠隔で開けたところ、堆積物で埋め尽くされ、アームが入らないことがわかった。
事前の内視鏡による調査から、電気ケーブルの被覆が事故の高熱で溶けて堆積したとみられる。
東電は事態をある程度予想していたが、当初、高圧の水で除去できると楽観的だった。
しかし今になって別の取り出し方法を検討。フタのボルトが事故の高熱で固着して遠隔でなかなか外せず、4か月もかかったことから、堆積物の方も固着してとりきれず、ロボットアームが入らないかもしれないと気づいたから。
しかし事故で容器内が高温になったことはわかりきっていたことで、もっと早く堆積物の固着の可能性を想定して対応できたはずで、見通しの甘さは否めない。
東電は工程表に掲げる今年度中の着手に間に合わせようと、少しの隙間でも入る釣り竿のような装置で取り出す方式の検討を開始。
ただこれだと、採取はできてもロボットアームのようにカメラで内部を撮影してデブリの様子を確認したり、放射線量を測定するなど詳細な調査ができない。
この先デブリにどう対応するか判断するには、内部状況を詳しく把握することが不可欠。
政府東電は最長40年ですべてのデブリを取り出し、廃炉を完了させる目標を変えていないが、デブリがどこにどれだけどんな状態であるのか、詳しくわかっていないから。
こうした状況のもと、試験的に数g取り出そうというだけでもすでに6年がかり。
デブリの取り出しは早くても50年、場合によっては100年を見込むべきという専門家も。
今後デブリにどう対応していくのか、検討に必要な情報を得るためにも、工程ありきで機器の開発で力を分散するよりは、堆積物の効果的な除去方法をしっかり検討しロボットアームをいかす道を探ることにより力を入れてほしい。
事故発生から12年半余り、処理水の放出はあくまで本格的な廃炉の準備段階。この先の本格的な廃炉を効率的に進めるためにも、この際内部調査をしっかり行って、より現実的な廃炉計画を示していかなければ。
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