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2023年2月26日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/233255
福島第一原発では、処理水の海洋放出に向けた準備が着々と進み、設備工事は大詰めを迎えている。政府は放出開始を「今春から夏ごろ」とする方針だ。政府と東電は福島県漁連に対し「関係者の理解なしに海洋放出はしない」と約束しているが、理解を得たかどうかをどのように判断するのかは今もはっきりしない。「放出ありき」のまま、なし崩し的に手続きが進んでいる。(小野沢健太)
◆東京電力は6月までに工事を終える工程を描く
「工事は順調。春ごろの設備完了を目指し、安全最優先で進めていく」。22日の記者会見で、東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明・最高責任者は淡々とそう説明した。
東電は昨年8月に設備工事を開始。沖合約1キロの放出地点の海底に穴を掘り、鉄筋コンクリート製の放出口を設置して埋め戻す作業が14日に完了した。放出口に接続する海底トンネルは、5、6号機海側の敷地内から掘り始め、約830メートルまで掘削が終わった。海沿いに設置する放出前の処理水を一時的にためる水槽や、タンクエリアから海側まで処理水を運ぶ配管の敷設工事も進む。東電は、6月までにすべての工事が終わる工程を描く。
14日には、放出前の放射能濃度測定の詳細などをまとめた放出計画の改訂版を原子力規制委員会に申請。放出までの手順も固まりつつある。
◆政府、800億円の漁業者対策やテレビCM
政府も準備を急ぐ。2022年度補正予算で、漁業者向けに500億円の基金を創設した。漁業の継続支援が趣旨で、対象は全国の漁業者。新たな漁場の開拓や漁船の燃料コスト削減などにかかる経費にあてる。21年度補正予算では、風評被害が起きたときに水産物を買い取る費用などを盛り込んだ300億円の基金も用意しており、計800億円を漁業者対策に投じる。
昨年12月からは、海洋放出される処理水のトリチウム濃度が、国の排水基準よりも低いことなどを示すテレビCMを開始。今年1月の海洋放出に向けた関係閣僚会議では「安全確保と風評対策に必要なメニューは出そろってきている」として、春から夏の放出開始目標を明示した。
◆必要な「関係者の理解」得られる見通しは立たず
ただ、実際に放出できるかは見通せない。政府と東電は15年、福島県漁連に対して「関係者の理解なしにいかなる処分(海洋放出)もしない」と文書で約束。全国漁業協同組合連合会は昨年11月、500億円の基金創設を受けた会長声明で「信頼関係の構築に向けての姿勢と重く受けとめた」と評価した一方、「このことのみで漁業者の理解を得られるものではない」とけん制した。
放出時期の目安を示した今年1月の関係閣僚会議の直後には「海洋放出に反対であることはいささかも変わらない」との会長声明を出し、反対の姿勢を貫いている。
政府や東電の担当者は「理解醸成に向けて説明を続ける」などと述べるだけ。25日の意見交換会でも、それ以上の答えはなかった。漁業者の「理解」があるとはとても言えないのに、放出しようとする姿勢は変えようとしない。
福島第一原発の処理水 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業に伴って発生する汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理した水。放射性物質のトリチウムが除去できずに残っている。原子炉への冷却水がデブリに触れて汚染水が発生し、建屋に流入してくる地下水や雨水と混ざって増加。現在は1日約100トンが発生し、処理水の貯蔵量は16日時点で約132万トン。処理途上の水も含めると、タンク容量の96%が埋まっている。
政府や東電の計画では、処理水に大量の海水を混ぜ、トリチウム濃度を国の排水基準の40分の1未満にした上で、沖合約1キロの海底から放出する。
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