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安倍晋三の「世界で最も厳しい基準」は、まっ赤なウソだった!
――広瀬隆×田中三彦対談<後篇>
週刊ダイヤモンド 2015.9.12
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第5刷となった。
本連載シリーズ記事も、累計171万ページビューを突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、元福島第一原発設計者で、現在、翻訳家・サイエンスライターの田中三彦氏と対談(最終回)。
田中氏は、福島原子力発電所国会事故調査委員会の委員をつとめた。
1960年代に設計された老朽原発を再稼働させる意味と、安倍晋三内閣総理大臣の罪を追及する。
(構成:橋本淳司)
1960年代に設計された老朽原発を再稼働させる恐怖
田中 安倍晋三総理は、2014年1月24日の第186回国会の施政方針演説において「世界で最も厳しい水準の安全規制を満たさない限り、原発の再稼働はありません」と所信表明しました。
同年10月7日の参議院予算委員会でも、原発の再稼働について「世界で最も厳しい基準」をもとに判断すると言っています。
しかし、日本の規制基準は世界一どころか世界標準にも遠く及びません。
広瀬 まったくそのとおりです。
でも「世界で最も厳しい基準」という「デタラメ基準」を次々にクリアしています。
田中 それが厳しい基準ではないことを逆に証明しているようなものです。現在43基ある日本の原発には古いものが多い。
1970年代に稼働した原発のうち、敦賀原発1号機(1970年)、美浜原発1号機(1970年)、美浜原発2号機(1972年)、島根原発1号機(1974年)、玄海原発1号機(1975年)は廃炉が決定しましたが、東海第2原発(1978年)、美浜原発3号機(1976年)、高浜原発1号機(1974年)、高浜原発2号機(1975年)、大飯原発1号機(1979年)、大飯原発2号機(1979年)、伊方原発1号機(1977年)はまだ残っています。
広瀬 いずれも設計されたのは、1960年代半ばから70年代前半でしょう。耐震性も安全設計の考え方も甘すぎる時代です。
安倍晋三の
「世界で最も厳しい基準」は、
まっ赤なウソだった!
――広瀬隆×田中三彦対談<後篇>田中 三彦
(Mitsuhiko Tanaka)
1943年、栃木県生まれ。
1968年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。同年バブコック日立入社。福島第一原子力発電所4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。1977年退社。2012年、東京電力福島原子力発電所国会事故調査委員会委員。翻訳家であり、科学評論家、サイエンスライターでもある。
『科学という考え方』(晶文社)、『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、『空中鬼を討て』『複雑系の選択』(以上、ダイヤモンド社刊)などの著書がある。
おもな訳書には、『複雑系』(M・M・ワールドロップ、共訳・新潮社)、『スピリチュアル・マシーン』(R・カーツワイル、翔泳社)、『デカルトの誤り』(A・R・ダマシオ、ちくま学芸文庫)、『無意識の脳 自己意識の脳』(同、講談社)、『感じる脳』(同、ダイヤモンド社)、『たまたま』(L・ムロディナウ、ダイヤモンド社)などがある。
田中 日本で基本的に動いている沸騰水型原子力発電所、加圧水型原子力発電所というのは、米国のエネルギー省の分類に従えば、「第2世代」と呼ばれている機体に属しています。
現在は、その機体の事故やトラブルの経験を経て、「第3世代」の原子力発電所をつくるという時代になっています。
そんなときに老朽原発も再稼働させてやろうという「親心」が原子力規制委員会にあるわけです。
それが適合審査の基本的な精神です。
だから、彼らが世界最高の規制基準なんてつくるわけがない。まともな基準をつくると、大改造が必要になって、再稼働にトテツモナイ大金と時間がかかり、結局運転できなくなります。
広瀬 原子力規制委員会は、本来、安全性を第一に考えて安易な再稼働にストップをかけなくてはならない組織ですが、その正反対のことしかしていないのは、それが原因なのですね。原発推進派だけを集めた委員会ですからね。
危機対策「未着手」オンパレードの日本
田中 世界的には、放射能大量放出を防ぐフィルターベントや、溶けてしまった炉心を受け止める「コア・キャッチャー」をつけることも義務づけられています。
コア・キャッチャーは、耐熱性の材料で格納容器の下部のコンクリートをカバーし、コア・コンクリート反応を防ぐのが目的です。三菱重工も東芝も日立も、輸出用の原発にはコア・キャッチャーをつけるはずです。
広瀬 えっ、輸出用には設置されるのですか?
田中 海外仕様はこれがないと建設できなくなりつつある。中国で建設中の最新の原発にもコア・キャッチャーがついています。
日本でコア・キャッチャーの設置が問題にならなかったのは、過酷事故対策を軽視して規制対象から外してきたからです。既設の原発にいまからコア・キャッチャーを追加設置することは、簡単ではないが、時間と金をかければ、たぶんできなくはない。それをしないのは、大改造のため長期間運転が止まるからです。
広瀬 米国では福島事故以前に対応済みだったが、日本では現在も「未対応」の事項を雑誌『科学』(2015年7月号/岩波書店)に、元GEのエンジニアだった佐藤暁《さとし》さんがリストアップしています。
これを読むとビックリします。
たとえば、「緊急時の自衛消防隊」は、米国では当初から設置されていますが、日本ではいまだに未着手。「プラント個別の内部事象、外部事象に対するリスク評価」や「SBO(全電源喪失)に対する専用の恒設バックアップ電源」は、米国では1990年代に完了していますが、これも日本では未着手です。
「敷地内地下の地質構造の把握。土壌、地下水汚染を監視するサンプリングの強化」については、米国では2000年代に完了していますが、日本ではこれも……。ほんとうに日本の原発は、今日にも大事故を起こしそうだ。そんな状況なのに規制委員会の審査はクリアされてゆく。
田中 どうクリアしたのかわからない。「世界一だ」なんてウソも100回言えば本当になってしまう。
テロ対策もまったくできていない現実
広瀬 ヒットラーの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスが「何度でもウソをつけば、それがやがて真実として受け入れられるようになる。ウソは大きければ大きいほど、真実として受け入れられやすい」と、ドイツ人を欺いた手法と同じですね。世界的には、テロ対策は常識ですよ。
たとえば、複数箇所からテロリストに同時進入される、高度な武器や戦術をもったテロリストに攻撃される、原子力施設がテロリストに制圧される、職員がプラントの管制室に入ってテロ行為を行う危険性などへの対応も進んでいます。
ところが日本では、まったく対応していません。
田中 10年計画で優秀な職員を送り込み、ある日突然、一番脆弱な部分で機関銃を乱射するというようなことも考えられます。
広瀬 海外では、航空機テロへの対応も進んでいます。米国では航空機テロなどによる敷地内での大規模火災・爆発に対する対応指針もできています。
日本では航空機がつっこんできても、プラントの外で爆発するから大丈夫などと言う“自称”専門家もいますが、ミサイルで狙われたら簡単に外壁を吹き飛ばされ、内部を破壊されます。
欧米では航空機事故の衝突対策として、二重格納容器が一般的になっていますが、電力会社は、航空機の激突はほとんどあり得ないとして切り捨てています。
田中「新規制基準」の要求に従い、事故対応を強化しているといっても、消防車を並べた、仮設の発電機を設置したというレベルなのです。そんなものが、大地震で、一体どうなりますか。
それを、世界一厳しい基準ということ自体、噴飯ものです。
(おわり)
なぜ、『東京が壊滅する日』を緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ
このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。
現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。
2011年3〜6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。
東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951〜57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。
1951〜57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発〜東京駅、福島第一原発〜釜石と同じ距離だ。
核実験と原発事故は違うのでは?と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。
3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。
不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。
最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?
同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。
51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。
「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!
よろしければご一読いただけると幸いです。
<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
田中三彦(Mitsuhiko Tanaka)
1943年、栃木県生まれ。1968年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。同年バブコック日立入社。福島第一原子力発電所4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。1977年退社。2012年、東京電力福島原子力発電所国会事故調査委員会委員。翻訳家であり、科学評論家、サイエンスライターでもある。
『科学という考え方』(晶文社)、『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、『空中鬼を討て』『複雑系の選択』(以上、ダイヤモンド社刊)などの著書がある。
おもな訳書には、『複雑系』(M・M・ワールドロップ、共訳・新潮社)、『スピリチュアル・マシーン』(R・カーツワイル、翔泳社)、『デカルトの誤り』(A・R・ダマシオ、ちくま学芸文庫)、『無意識の脳 自己意識の脳』(同、講談社)、『感じる脳』(同、ダイヤモンド社)、『たまたま』(L・ムロディナウ、ダイヤモンド社)などがある。
https://diamond.jp/articles/-/77754
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