世界大戦への仮想現実に騙される 2022年10月15日 田中 宇 ウクライナ戦争が激化して、米欧NATOとロシアとの直接の戦争に発展し、核戦争を含む米露の世界大戦になっていくのでないかという予測や懸念が喧伝されるようになった。世界大戦の危機が扇動されている。ロシアが国家動員を開始し、クリミア大橋爆破への報復として露軍がウクライナのエネルギーインフラなどに大規模な空爆を行うなど、ウクライナ戦争が激化している。米欧NATOがウクライナへの軍事支援を拡大・直接化しそうだと言われている。米欧との直接戦争になってロシアの国体が危うくなったら防衛のために核兵器も使いうるとプーチンやメドベージェフが示唆し、米国側のマスコミ権威筋はここぞとばかりに、プーチンは核兵器を使う気だ、核戦争になるぞと大騒ぎしている。 (Biden's Nuclear "Armageddon" Statements Not Based In Any Evidence: US Intelligence) (West and Russia already fighting WW3 – former US advisor)太平洋地域では米政府が、台湾への軍事支援を強め、ハイテクや金融分野などでの米中分離策も進めている。欧州だけでなく東アジアも戦争になったら世界大戦だ。米欧日では、米中が戦争になる、中露と米欧が世界大戦する、と騒がれている。米国は露中に対し、話し合うつもりがないだけでなく、全体的な戦略を欠いた無策の状態で敵視だけ強めている。プーチンが、G20サミットの傍らで会談しようと誘ったのにバイデンは断った。無策での敵視が世界大戦につながると懸念されている。 (Does The United States Have A Plan In Ukraine?) (UN Chief & Putin In Rare Moment Of Agreement: World Is "One Miscalculation Away" From Nuclear Annihilation) こうした最近の騒動に接して私は「これは新型コロナや地球温暖化、テロ戦争、冷戦などと同質の、脅威を針小棒大・闇夜の枯れすすき的に誇張して巨大な仮想現実を作り出す米諜報界の策略だろう」と感じている。マスコミ権威筋は、人々に次々と恐怖の仮想現実を見せ続け、間抜けなことにほとんどの人々がそれを軽信して洗脳されている。この策略の目的は、世界支配の強化、軍産による覇権乗っ取り、もしくはそれらを過激に稚拙にやって意図的に大失敗・破綻させる隠れ多極主義の策略と推測される。仮想現実を軽信し洗脳された人々が、世界大戦になるのに何やってんだと文句を言ってきたりする。 (ひどくなる大リセット系の嫌がらせ) (Serbian leader warns of imminent global war) 世界大戦、世界規模の戦争激化は、すでに資源類の不足や高騰、流通網の(意図的な)崩壊によって引き起こされている世界的なインフレと物不足、食糧危機、人々の生活状況・貧困をますます悪化させる。本当の戦争激化にならなくても、仮想現実の扇動だけで、金融筋が相場をつり上げ、インフレや物不足が悪化する。インフレ激化は米英の金利をさらにつり上げて金融破綻やドル崩壊、米金融覇権の喪失へとつながっていく。 (Can Europe Afford To Turn a Blind Eye to Evidence of a US Role in Pipeline Blasts?) (英国から始まった金融危機) 欧州ではすでに「ロシア敵視をやめて、ロシアからの石油ガス輸入を再開し、人々の暮らしを守るべきだ」という、右派ポピュリスト系の市民運動が拡大し、ドイツのAfDなど右派政党がエリート支配を押しのけて政治力を増している。イタリアやスウェーデンは右派政党が政権についた。少し前まで左派が言っていたスローガンを、今は右派が言っている。左派は間抜けになり、中露敵視や温暖化軽信、コロナ愚策扇動など、深奥国家の傀儡に成り下がっている。 (Conservative AfD Now Strongest Party In Eastern Germany, Rises To 15% Nationally) (Escobar: Giorgia (Meloni) On Our Mind) 世界大戦の仮想現実の肥大化は、欧州で戦後ずっと続いてきた対米従属のエリート支配を壊し、非米的なポピュリストが欧州を対米自立させていき、米国覇権やNATOの崩壊を引き起こす。ロシアは、こうした米覇権崩壊につながる展開を大歓迎しているので、プーチンらが「核兵器を使うかもしれないぞ(ウインク)」と世界大戦の仮想現実の扇動に協力している。世界大戦の仮想現実づくりは、米諜報界(かつての軍産、今は正体を露呈して隠れ多極派)とプーチンによる共同作業である。 (Russian official warns of World War Three if Ukraine joins NATO) (Right-wingers score wins in the EU, as Brussels hints at consequences) ▼世界大戦になる3つの方向性の誇張 世界大戦の仮想現実は「闇夜の枯れすすき」なので、枯れすすきとしての実体、誇張される前の現実が実在する。それは3つの方向性から成り立っている。一つは「ウクライナの戦争に米国やNATOが直接参戦して米露戦争になるかもしれないこと」だ。米露戦争は核戦争、世界大戦になりうる。だが米国と、その傘下にいるNATOは、2月末のウクライナ開戦以来、一貫して「米NATOはロシアとの戦争に参戦していない。ウクライナを支援している(代理戦争させている)だけだ」と言い続けている。今回、世界大戦になるとの予測が喧伝され出したことを受け、米国とNATOは改めて「参戦していない」と宣言した。米国は、世界大戦を起こさない方針をとり続けている。 (NATO won’t be ‘dragged into’ war: US defense secretary) (Trump Warns: "We're At The Most Dangerous Time... Maybe Ever") 米軍はウクライナ軍支援のため特殊部隊をウクライナに派兵している可能性が高いが、米政府は派兵などしていないという態度を続けている。ロシアもウクライナへの米軍派兵を無視している。万が一、米特殊部隊と露軍がウクライナで戦ったとしても、双方が隠匿するので米露戦争とみなされない。仮想現実は、今にも米国がロシアと直接戦争しそうな感じが醸成され続けるが、現実は違う。米露大戦にはならない。 (CIA, US Special Forces Presence Now "Far More Extensive" In Ukraine: Report) (No blob, we are not 'already fighting' World War III) 2つ目の方向性は、ウクライナ戦争が他の欧州諸国に拡大していく可能性だ。たとえば最近、ベラルーシとウクライナが国境地帯で交戦しそうな状態になり、強く親ロシアなベラルーシ政府は、ロシアとの軍事的な一体化を進めている。ベラルーシは、ウクライナだけでなくポーランドからも敵視されている。ポーランドはウクライナを強く軍事支援し、ウクライナが今の戦争に負けて国家解体される場合はウクライナ西部がポーランドに併合される見通しだ。ポーランドは今後ウクライナの敗北感が強まると、NATOを巻き込みたがるだろう。ポーランドとウクライナの合同軍が、ロシアとベラルーシの合同軍と戦争する展開になると、ポーランドはNATO加盟国なので、NATOとロシアとの戦争になり、NATO規約5条に沿って米露の世界戦争に発展しうる。 (Zelensky wants international observers on Belarus border) (自滅させられた欧州) だが、もしポーランドがNATOを巻き込もうとしても、米国や独仏は、ロシアとの戦争で世界や自国を潰したくないので、NATOの5条を履行せず、ポーランドのためにロシアやベラルーシと開戦しない可能性が高い。NATOの条約が不履行になり、条約機構としてのNATOが崩壊・信用失墜する。ポーランドとウクライナだけでなくNATOの敗北になる。NATOのトップが「NATOはロシアと戦争していないが、ウクライナがロシアとの戦争で負けると、それはNATOの敗北になる」と言っているが、その意味するところはこのあたりのことだろう。NATOは、欧州における米国覇権体制である。世界大戦になる前に米国覇権が崩れる。実際の世界大戦でなく、仮想現実の世界大戦が扇動されただけで、シミュレーション的にNATOと米覇権の崩壊が実演されてしまう。 (Russia’s victory will be NATO’s defeat - Stoltenberg) (Poland In Talks With US About Hosting Nuclear Weapons) 米国側のマスコミは、ウクライナ戦争でロシアが不利になる傾向が増していると喧伝し続けているが、これらは大嘘で、実際はロシアの優勢、ウクライナの不利が増すかたちで長期化していく。ウクライナの不利が増すほど、NATOは独仏などの加盟諸国に対し「自国の経済を破綻させ、自国を戦争に巻き込んでも、ウクライナを支援しろ」と加圧を強める。独仏の政府が嫌々ながらこれに応じるほど、自国内で反政府運動が強まり、対米従属のエリート支配が崩れ、非米親露的なポピュリストの政権に替わっていく。欧州への戦争拡大の仮想現実が喧伝されると、それだけで欧州のエリート支配も崩れていく。 (Ukraine has de facto joined NATO - defense minister) (As Democracy Dies In The EU, Von Der Leyen Reveals Its Sins) 欧州では最近、米諜報界がコソボのアルバニア系勢力を挑発してセルビア人(親露勢力)との紛争を激化したり、米軍がキプロス(ギリシャ系)への軍事支援を再開してギリシャ系の仇敵であるトルコとの戦争を扇動したりしている。冷戦後に始まったセルビアとコソボの対立の本質は、米国がコソボ(アルバニア系、KLA)を傀儡化してロシア側のセルビアと戦わせ、独仏など欧州に命じてコソボ支援・セルビア敵視をやらせたことだ。コソボはウクライナの構図と似ている。コソボ紛争は、米国にけしかけられてロシアとセルビアへの敵視をやらされ、人身売買や麻薬取引の国際犯罪組織であるKLAを支援させられた欧州を辟易させた。今回のウクライナは、それをさらに大きくした構図であり、欧州はとても疲弊している。そこでまたコソボの紛争を蒸し返され、欧州は米国に対して「いい加減にしてほしい」と思っている。この感情が強まり、そこにこれからの米国金融のリーマン危機以上の崩壊が加わると、欧州は対米従属する利点がなくなり、欧州の対米自立が加速される。 (Turkey Builds Up Troops In Northern Cyprus, Rages At "Inexplicable" US Decision) 米国がキプロスのギリシャ系をテコ入れするほど、エルドアンのトルコが激怒して、NATO加盟国としての中立をかなぐり捨ててロシアとくっつく傾向を強める。米国がコソボやキプロスへのテコ入れを強めることは、欧州やトルコを非米化の方向に押しやり、ロシアを有利にし、覇権を多極化する。ウクライナの戦争がコソボやキプロスの紛争再燃に飛び火して世界大戦的な仮想現実を掻き立てるほど、米覇権の崩壊と非米化、多極化が進む。 (Greece walking into a quagmire – Erdogan) (Beware of viewing Balkans as new front in Russian-NATO proxy war) 世界大戦の仮想現実の3つ目の方向性は、台湾をめぐる米中戦争が起きそうなことだ。米国が台湾への軍事支援を強め、中国(中共)が武力による台湾併合も辞さずという姿勢を強め、米国は、中国が武力で台湾の併合を試みたら台湾を防衛し中国との戦争も辞さないと言い出している。だがその一方で米政府は「台湾が中国の一部であると認識する一つの中国の原則は承認し続けている」と宣言している。一つの中国の原則を承認する限り、台湾と中国(中共)の対立(国共内戦)は中国の内政問題であり、米国から台湾への軍事支援は内政干渉になる。だから中共が怒って「武力による内戦の解決(台湾併合)も辞さず」と言っている。これに対して米国が「中共が武力を使うなら米国が台湾を守り、中共と戦争する」と言うと、それは一つの中国からのさらなる逸脱になる。 (Biden Commits US to War for Taiwan) (US Marine: "I Didn't Join The Military To Fight For Taiwan") 中国が武力による台湾併合を試みない限り米中戦争にならないが、それでも米国が台湾を軍事支援し続ける状況は変わらない。台湾は、米国から軍事支援を強められるほど軍事力を強め、中国からの軍事的な威嚇に対して迎撃や反撃などの軍事対抗術をうまくやるようになり、国共内戦が再燃していく。米国は中国の内戦を扇動している。これは、米国がウクライナを軍事支援してロシアとの戦争へと誘導した過程と本質的に同じである(ロシアとウクライナはもともと一つのソ連国内であり、今の戦争は準内戦)。米国は今後もずっと(共和党政権になっても)台湾への軍事支援を拡大し続けるだろうから、中国はいずれ何らかの方法で米国から台湾への軍事支援を止めねばならない。軍事的な手法でそれをやるなら米中戦争になる。 (US And China Are Now "Officially In An Economic War") (Biden's Taiwan Defense Vows: How US Using Salami Slicing Strategy to Dilute 'One-China' Principle) 米中戦争は不可避なのか?。そうではない。今の中国は、米国の脅威を除去するやり方として、戦争などの軍事戦略よりずっと有効な手段を持っている。それは「経済」である。米国は、軍事的にまだ中国より強いが、経済的にはすでに中国よりかなり脆弱だ。米国の経済は金融バブルまみれで、そのバブルはリーマン危機でいったん崩壊した後、米連銀のQEによって何とか延命し続けてきたが、すでに連銀はインフレ抑止策としてQEをやめて資金を巻き戻すQTをやっており、バブル崩壊による金融の悪化が進んでいる。そして今年2月からはウクライナ戦争で、ロシアが非米的な産油諸国を引き連れて欧米への石油ガス資源類の輸出を止め、石油ガス資源類は中国など非米諸国側だけで流通する傾向を強め、米国側はインフレと資源不足で経済と金融が破綻していく傾向だ。 (SCO states serious about switching to settlements in national currencies) (Chinese State Media Urges 'De-Dollarization' Amid Fed's "Financial Looting") 中国は、ロシアやサウジと結託して米国側のインフレや物不足を悪化させ、ドルや米国債との関係を切ってドル崩壊の誘発に加担することで、経済面から米国覇権を潰し、米国の脅威を除去できる。中国は、目立たないようにその道を進んでいる。米国の覇権崩壊が進むほど、日本や韓国は、米国の台湾介入や対中戦争への協力を渋るようになる。韓国政府はすでに、中国との経済関係が大事なので米国に頼まれても台湾への支援を強化できないと表明し、戦線離脱を図っている。 (Seoul reluctant to get dragged into Taiwan conflict) (US-China at a weaponized breaking point over Taiwan) 日本は、マスコミ権威筋が軍産傀儡なので自民党政府がそこまで露骨にやれないが、米国の言いなりになるふりをして中国とも親密さを維持する米中両属路線に隠然と固執している。安倍晋三の殺害以来、日本ではマスコミ権威筋が自民党政府を誹謗中傷・攻撃する傾向が強まったが、自民党が現実策として米中両属に固執しているので、米傀儡であるマスコミと左翼野党から敵視されている。左翼やマスコミが自民党を敵視するほど、自民党は保守系の日本人から支援されて政治的に強くなり、米傀儡の左翼やマスコミが先細りになるという、欧州と似た隠れ多極主義の構造もある。私を中傷しても、事態は何も変わらない。 (安倍元首相殺害の深層) 中国は、ロシアなど非米諸国と結託し、軍事でなく経済で米国覇権を潰していく。米国は、中露からの経済攻撃を受けなくても、バブル崩壊で自滅していく傾向だが、中露との対立は米覇権の崩壊を早める。米上層部の諜報界(を握る隠れ多極派)は、中国が米国覇権を経済面から潰すよう誘導するために、米国から台湾への軍事支援を「ウクライナ方式」で進め、できれば米国と対立せず共存共栄で儲けていきたいと考えていた中国共産党に、早く米覇権を倒さないと台湾がウクライナみたいになって大変なことになるぞと思わせている。このように、米中対立の要諦は経済なのだが、仮想現実に騙されている人々は、軍事の米中戦争が近いと妄想してしまっている。 (Vladimir Putin's Battle Cry Against The Deep State) https://tanakanews.com/221015worldwar.htm
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