. 「電気が灯り、平和が帰ってきた」 ドラ・ウィグライザー(マリウポリ在住)の手記より
マリウポルに静かな日が帰ってきた。最初の兆候は、4月に入った頃、街に商人やルーブルとの両替商がやってきたことだった。すでに人道的な支援は届いていたが、人々は身の回りの不必要なものを売って、足りないもの、必要なものを補った。それが今ではマーケットが開かれ、とても十分とは言えないが輸入品も手に入る
リラの花が咲いた。まるで戦争など知らなかったように、甘い香りを放っている。若い男たちが手の届く限りの枝を折って花束をこしらえた。その花束を受け取る彼女たちは、笑顔で腕を組んで男たちを迎える。そんなカップルが日に日に増え、廃墟と化したビルの間を闊歩する風景は希望に満ちている。水が使えるようになると、それまで帽子の下に隠していた髪を洗い風になびかせている。服も綺麗になり、おしゃれになった。 4月まで、マリウポルの街を歩く人は皆、5リットルの水筒を積んだカートを引いたり、人道支援物資を入れるリュックを背負って列に並ぼうといつも忙しく、人々は何かに追われていた。その頃の通行人は、いつも夢中で何かに集中していた。ウクライナ軍の最後の砦であるアゾフスタルでは砲兵隊や航空隊が行き交い、工場周辺ではまだ戦闘が行われていた。戦闘や火災から飛んでくる粉塵は、灰色がかった黒色で、それが皮膚や衣服に付着し、煤の臭いが染みついた。それが、5月に入ってから、だんだん消えていった。 毎年恒例の第二次世界大戦の戦勝記念日(5月9日)は、無邪気な子どもたちにとってはお祭り行事で、事情を知らない子供らが今年も街にあふれた。親しげに兵士にしゃべり、走り回り、軍用車両に手を振り、クラクションを鳴らされるとうれしそうに声を上げる。子供たちには、今年のパレードの特別な意味なんかはどうでもいい、平和のヒーローなのだ。 ついこの間まで、夕暮れ時に街の明かりが消え暗くなると、空の星明りが皮肉にも、世界で一番明るい空に見えた。「天の川」がシャンデリアのようにきらめいていた。その暗闇の街の一部で、1週間余り前に家の電気がつくと、星空はたちまち窓の明かりに隠れて見えなくなった。人工の灯りが人間の生活を照らしたのは何か月ぶりだろう。この停電の闇の中で人々は不便な暮らしを耐えてきた。 4日前、アゾフスタルに立てこもった最後のウクライナ人が武器を捨てて降伏した。街は静かになり、普通の都市生活が出現した。通りかかった車の開いた窓からロック「もっと良い時代が来る」を聴いた。最近、私が訪れた病院の医師や看護婦は仕事中にバスの時刻表を話題にしたり、喫煙室で牛乳の値段について噂話をしたりと、会話はますます日常的なものになっている。通行人はおしゃべりをし、子犬を追いかけている。ほぼ無傷で残った高層アパートでは、食器をガラガラ鳴らす音がした。電話で笑い声をあげている。ガラスの壊れた窓枠の向こうで、誰かがピアノで「白いアカシアの房の香り」を弾いていた。近くにアカシアの花が咲いている。その隣には、ピケットフェンスで作った十字架が2つ、浅い墓を示すように立っている。 この街で、戦争は終わった。 。
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