岡田正彦 改造mRNAは遺伝子に組込まれる? ― 新事実あり全面改訂 ヒトの遺伝子(正確にはゲノム)は、細胞内で「核膜」と呼ばれる袋に包まれ、大切に保存されています。その本体であるDNAは、単に遺伝情報を子孫に伝えるだけでなく、日々の生命活動を支えるため、刻々と活躍しています。 たとえば、血液中のぶどう糖は大切なエネルギー源ですが、それが不足してくると、まず信号がゲノムに伝わります。すると、「ぶどう糖を細胞内に取り込むたんぱく質」を作るコードがゲノムからコピーされ、メッセンジャーRNAとなります。これは直ちに核膜を通り抜け、細胞内の「たんぱく合成工場」に運ばれていきます。 合成が無制限に続いてしまうのは困りますから、メッセンジャーRNAは「決して核の中にはもどらず」、「短時間で分解されてしまう」という運命をたどります。核膜は、mRNAがゲノムの近くに戻っていかないよう、一方通行の整理を行っているからです。一方、核の中では、ゲノムDNA→mRNA→DNAへ逆変換→別の場所に組込む、という出来事がまれに起こっています。理由はわかっていませんが、発がんなど病気の原因になっているとも言われています。 これらのことは、以前の本項でも説明し、「細胞内でmRNAがDNAへ逆変換されることはなく、組込みも起こらない」と書きました。 しかし、その後、スウェーデンの科学者が行ったある実験から、この話は全面的に書き改めなればならないことになりました。実験は、ファイザー社製ワクチンをがんの培養細胞に加えたところ、あってはならない出来事、つまり「改造メッセンジャーRNAがDNAに逆変換される」ことが確認されたのです。「生物の大原則」を覆したこの実験結果は、しかし、わかってみれば十分に納得できるものでした。 これを理解するポイントは2つあります。ひとつは、細胞が分裂する際、DNAも2つにわかれますが、そのとき核膜が消えDNAが露出するのです。実験に使ったのは、がん細胞でしたから、当然、分裂も盛んです。もうひとつのポイントは、核内でしか働かないはずの特殊な「RNA→DNA逆変換酵素」が、細胞分裂の際、核外にしみ出てしまうということです。 細胞分裂は(脳神経系を除く)すべての細胞で絶えず起こっていますから、この出来事は誰にでも、いつでも起こることになります。とくに次世代につながる精子にも起こりうるのです(卵子は細胞分裂しない)。 ただし、逆変換されたDNAがヒトのゲノムに組み込まれるかどうかは、まだわかっていません。人類のゲノムがワクチンによって侵されるかどうかという最重要課題ですから、研究の進展を注視していく必要があります。(情報をお知らせ下さった多くの方々に感謝します) 【参考文献】 1) Zhang L, et al., Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. PNAS 118, 21, 2021. 2) Sit THC, et al., Infection on dogs with SARS-CoV-2. Nature, Oct 20, 2020. 3) Cullen BR, Nuclear RNA expot. J Cell Sci 116: 587-597, 2003. 4) Vargas DY, et al., Mechanism of mRNA transport in the nucleus. PNAS 102: 17008-17013, 2005. 5) Nirenberg E, No, really, mRNA vaccines are not going to affect your DNA. on line, Nov 25, 2020. 6) Zhang L,et al., SARS-CoV-2 RNA reverse-transcribed and integrated into the human genome. bioRxiv, Dec 13, 2020 7) Sousa A, et al., mRNA, nanolipid particles and PEG: a triad never used in clinical vaccines is going to be tested on hundreds of people. Biomed J Sci & Tech Res, Feb 22, 2021. 8) Alden M et al., Intracellular reverse transcription of Pfizer BionNTech COVID-19 mRNA vaccine BNT162b2 in vitro in human liver cell line. Curr Issues Mol Biol, Feb 25, 2022. 9) Mita P, et al., LINE-1 protein localization and functional dynamics during the cell cycle. eLIFE, Jan 8, 2018. https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/#transcription
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