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外国人労働者に見放された「貧乏国」になった日本のヤバイ現実
https://friday.kodansha.co.jp/article/222691
2022年01月03日 FRIDAYデジタル
外国人労働者の「日本離れ」が始まっている…
新型コロナウイルスの影響で、外国人技能実習生が来日できずにいる。受け入れ側の日本では、解雇や失踪、帰国が困難などの理由で行き場を失う在留実習生が増えている。
一方、外国人労働者の「日本離れ」が始まっているとの見方もある。
出入国管理法改正で2019年に就労目的の在留資格「特定技能」が新設され、政府は5年間で34.5万人の外国人を日本に呼び込む方針を打ち出した。しかし、日本は働く場所として外国人を引き付けられる国なのか?
2020年に上梓した著書『アンダークラス』(小学館)で外国人技能実習生の問題に迫った作家の相場英雄さんは、外国人労働者の日本離れをどう見ているのだろう。
「危機感を共有している人は国民の3割いないんじゃないかという気がしています」と話す相場英雄さん(写真:共同通信)
食品偽装、粉飾決算、非正規労働など一貫して社会問題を題材にしてきた相場さんが『アンダークラス』のキーパーソンの一人に据えたのは、ベトナム人技能実習生の女性だ。作中に次の一文がある。
――圧倒的な労働力不足を補うため、実習制度という耳ざわりの良い言葉を使い、彼らを酷使する日本のやり方は理不尽だ――
相場さんはどのような動機から技能実習生の問題を取り上げたのか。
「僕は新宿のど真ん中に住んで20年になりますが、この7、8年で外国人の労働者が急激に増えました。飲食チェーン店をはじめうちの近所にある新聞販売所も、従業員の半分以上は外国人です。なぜこれほど増えたのか。背後には何があるんだろう。素朴な疑問が生まれたわけです。
この国がなぜこのような状況になったのか取材していくと、労働力を補うためという名目で技能実習制度や入管法の改正がなされ、海外から人を募ったのだろうと気づきました。構造上の根深い問題が徐々に見えてきたんです」
技能実習制度ができたのは1993年。以降、日本で習得した技能や知識を帰国後に母国の経済発展に生かしてもらう「技術移転による国際貢献」を名目に、アジアの国々から実習生を受け入れてきた。だが実態はどうか。実習生は国内の人手不足を補うための働き手としか見なされていないとの指摘や人権面の批判も少なくない。
「今はだいぶ改善されたとはいえ、主に東南アジアの送り出す側の国に悪徳ブローカーがいるんです。その上前をハネるような日本人のブローカーもいます。
日本はいい国で相当稼げると、ほとんど詐欺のような情報をブローカーに吹き込まれて技能実習生は来ているわけですよ。日本は、手数料や渡航費用を借金してまで来る価値のある国なのか。そこが僕は一番、問題意識としてあります」
来日前に背負った借金を返済するだけの賃金を日本の受け入れ企業で得られず、劣悪な労働条件で働かされ、実習生が失踪するケースが増えている。コロナ禍で実習生の解雇や雇い止めも相次いでいる。
「その上、本国にも帰れない。本来なら、国がセーフティネットやサポート体制を整えなければいけないですよね。でも、何の対策も講じられていません」
技能実習制度を廃止し、外国人を正式な労働者として受け入れるシステムを整備するなど、政策の抜本的な見直しが必要だという声もある。
「総務省統計局が労働力調査の結果を公表していますが、日本の労働人口は急激に減っています。今後も減少し続けるこの国で、一体、誰が働くのか。日本という国が成り立たなくなる前に、思い切って移民政策を取るべきだと僕は思います」
しかし日本政府はこれまで、移民の受け入れには慎重な姿勢を取ってきた。
「移民という言葉を使いたがらないですよね。移民政策をやりますと言うと票につながりませんから。日本は島国なのでアレルギーも強いはずですし。政府が一番ずるいんじゃないでしょうか」
技能実習生にとって日本は働きに来る価値のある国なのか?(写真はイメージ:アフロ)
日本で悪事するより、本国・中国でまともに働いたほうが儲かる…
厚生労働省発表の『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によると、日本で働いている外国人は2020年10月時点で約172万4000人。外国人労働者数はベトナムが中国を抜いて最も多く、全体の25.7%となっている。かつては最多だった中国人実習生は、10年をピークに減少。中国国内の賃金が上昇したことが背景にあるようだ。
「例としては悪いですが、10年前には歌舞伎町にかなりいた中国人の犯罪グループが、今は少なくなっています。リスクを取って日本で悪事をするより、本国でまともな職業に就いたほうが儲かる、だから帰っているという話を聞きました。
ベトナムも都市部での仕事が安定的に増えてくると、農村部の人たちは国内の都市に出て働くようになるでしょう。もしくは地方にも成長のパイが広がっていけば、わざわざ日本に働きに来なくていいわけです。
コロナが収まって各国の経済が正常に戻った時に、それぞれの国の中で労働力が絶対に必要になります。借金をして嫌な思いまでして日本で働く意義がどこにあるのかと考えるのが普通だと思うんです。そうなると日本の労働市場は空洞化します」
『アンダークラス』に登場するベトナム人技能実習生の女性はこう言っている。「日本はずっと給料が下がり続けている」「日本は貧乏人ばかりの国だよ」と。
「日本から帰国したシンガポール人の友人から、奥さんと近くのホテルでランチをすると一人1万5000円ほどになると聞きました。日本企業のシンガポール駐在員が昔はメイドさんを雇えていたのが、今は若い社員が赴任すると実家から仕送りしてもらわないといけないくらい物価が高いそうです。
ニューヨークだと、ラーメン1杯が2500円。ラーメンを特盛にしてビールを1杯飲んだら、下手すると5000円超えますよ。それが世界の物価水準です。要するに、国全体の経済が成長しているので給料も上がっている。アメリカの平均賃金は20年、30年でほぼ倍増しています。
日本はほとんど変わっていません。むしろ、日本人の給料は減っています。貧しくなっているんです」
“ベトナム人の駆け込み寺”として知られる浄土宗の寺院・日新窟(にっしんくつ)には日本で亡くなったベトナム人 が埋葬されている(写真:アフロ)
「危機感を共有している人は国民の3割いないんじゃないかという気がしています」
しかし当の日本人が「日本は貧乏な国になっている」と自覚しているかどうか……。
「早朝に犬の散歩をするとウーバーイーツの配達バッグを背負った若い子が突っ伏して寝ている姿をよく目にしますが、彼らもアマゾンの配達を請け負う個人ドライバーも、いわゆる日雇いです。配達が1件もなければ、その日の収入がないという生活を送っている。
今は正社員が減って4割が非正規です。飲食業や旅客サービス業では、非正規から先に解雇や雇止めにあっている。その人たちが今度は、単発の仕事を請け負う日雇いのギグワーカーになっているわけです。
相当まずいと思いますよ、この国は。『そろそろやばいよね』と気づいている人ももちろんいるでしょう。でも僕の感触だと、危機感を共有している人は国民の3割いないんじゃないかという気がしています」
この状況を抜け出す方法は果たしてあるのだろうか。
「たとえば本田宗一郎的な人物がいて、全世界が飛びつくような商品を開発するとか。そんなイノベーションが起きない限りは、ちょっと無理だと思います。僕は通信社の記者だった時に経済部にいたので統計を読む力はあるんですが、数々の経済統計のデータを見ていると、この国はもう先行きがないということが如実にわかるんですよ。
これまで、大不況が何回かありました。でも結局は企業が我慢し、国民にも我慢を強いて、30年間じわじわと景気が悪いだけで給料が半分になることもなかった。変わらない賃金で同じような経済社会が30年続いたために、人々の感覚は麻痺しているんだと思います。給料が10分の1にならなかったのがかえってよくなかったんです。
僕は悲観的な人間ではないですが、冷静に公のデータを見ていくと、もうこの国は限界に近づいている。それが『アンダークラス』に込めたメッセージです」
『アンダークラス』が連載されたのはコロナが流行する前の2018年から19年だ。そのときのタイトルは「2025」。つまり、2025年の日本社会をテーマにした作品だったのだ。
「僕はいつも5年、10年先を描こうと意識して作品を書くんです。ところが書いている間に現実が追い付いて、単行本が出る頃には現実が追い越しているという状況が、ここ何作か続いています。それだけこの国が傷んでいるということでしょう。
カナダに留学しているせがれには、日本は成長しない国だし賃金も安いから帰ってくるなと言っています」
目の覚めるようなイノベーションは起こらないまでも、2022年は少しでも明るい兆しが見えてくることを期待したい。
アメリカの平均賃金は30年でほぼ倍増。日本の現状は4割が非正規で、コロナ禍で解雇や雇止めにあった人たちは単発の仕事を請け負う日雇いのギグワーカーに…
相場英雄(あいば ひでお)作家。1967年、新潟県生まれ。1989年にキーパンチャーとして時事通信社に入社し、1995年から経済部記者として外為や金利、デリバティブ問題などを担当。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞し、作家デビュー。翌年、時事通信社を退社し執筆活動に。ドラマ化された『震える牛』『血の轍』『不発弾』をはじめ『ガラパゴス』『血の雫』『Exit イグジット』『レッドネック』など著書多数。最新刊はアフターコロナの介護業界を描いた『マンモスの抜け殻』。
取材・文:斉藤さゆり
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