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※2021年12月22日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年12月22日 日刊ゲンダイ2面
【来年は火だるま 景気もコロナも外交も】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) December 22, 2021
岸田政権 支持率微増は泡沫の夢
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/jjObaRbnSL
※文字起こし
つくづく前任者に恵まれた男だ。先週末に実施した主要メディアによる世論調査の結果が出そろったが、岸田内閣の支持率は前回11月調査から軒並み上昇。“ご祝儀相場”が反映される10月の政権発足直後よりも、微増ながら伸びていた。
支持率を押し上げたのは新型コロナウイルス対策への好評価だ。毎日新聞の調査だと「評価する」との回答は46%で、「評価しない」の26%を大きく上回った。安倍・菅両政権時代を含めて「評価する」が4割を超えたのは初めてだ。
11月24日に南アフリカから新たな変異株「オミクロン」の感染例が最初に世界保健機関(WHO)に報告されて以降、岸田政権は外国人の新規入国の一時停止やワクチン
追加接種の前倒しなど矢継ぎ早に対処した。スピード感にこだわり、朝令暮改もあったが、後手後手の連続だった安倍・菅両政権よりも“はるかにマシ”と国民は感じたのだろう。
岸田首相も「批判はすべて私が負う」と宣言し、記者団や野党の質問にも前任の2人のように木で鼻をくくったような受け答えをしない。よくよく聞けば「中身ゼロ」でも、誠実そうに伝わってくるから不思議だ。
思えば過去9年が異常だった。安倍元首相は「桜を見る会」疑惑を巡り、虚偽答弁を実に118回も繰り返した。菅前首相も日本学術会議の任命拒否問題に始まり、総務省の過剰接待、東京五輪、コロナ対策などもロクに説明せず、ひたすら官僚原稿を棒読みするだけだった。
首相が平気でウソをつき、気に入らない質問には逆ギレ。隠蔽・改ざんの連続で都合が悪くなると他の話題で国民の目をそらす。そんな不誠実な強権政治にウンザリしていた国民にすれば、岸田の優柔不断も新鮮にみえる。ごく普通な対応をしているだけで評価されるのだから、楽チンだ。
不況下に物価高の最悪の一年が待ち受ける |
新型コロナが一瞬収まり、新規感染者数も低く抑えられている。18歳以下への10万円給付も紆余曲折の末、現金給付に落ち着きそうだ――。支持率微増は、そんな国民のホッとした気持ちも反映されたに違いない。だが、その安堵感も恐らく束の間だろう。
最も懸念すべきは、オミクロン株の流入と感染拡大による「第6波」の到来だ。WHOによると、オミクロン株は世界89カ国に広がり、市中感染が起きている場所では感染者数が1.5〜3日ごとに倍増している。
米疾病対策センター(CDC)は20日、オミクロン株が主流だったデルタ株を逆転したとの推定を発表。18日までの1週間の感染者に占める割合は73%と、前週の6倍近くになったというから、まさに「ネズミ算式」の感染拡大ペースだ。
日本国内で確認されたオミクロン株の感染者は21日時点で累計85人。濃厚接触者は4000人を軽く超える。直近の海外渡航歴がない感染者も現れ、「市中感染」の現実味は増すばかりだ。
沖縄の米軍キャンプ・ハンセン内では約200人のクラスターが発生。直近で海外渡航歴のない日本人の勤務者と、その濃厚接触者のオミクロン株感染が確認されたが、厚労省は感染経路を追えているので「市中感染には当たらない」との立場だ。
海外では通常、院内感染以外を市中感染として扱うのに、日本独自の「ガラパゴス基準」を適用している場合なのか。
水際対策にも抜け穴がある。空港検疫で陰性でも数日後に発症するケースが相次ぎ、自宅待機中に他人と接触しないルールも徹底されていない。14日間の待機中に発症した都内女性に接触した男性も感染。この男性は感染判明前に川崎市内でサッカー天皇杯準決勝を観戦していた。
都などはスタジアムで男性の周囲にいた約80人や職場同僚らの健康状態の確認を急ぐが、周囲の観客全員と連絡がつくのかは不透明である。
3回目接種も供給ペースに不安要素
オミクロン株は重症化リスクが低いとの報告もある。しかし、こうも感染拡大スピードが速いと、分母の感染者の増大で死者や重症者の数字も跳ね上がる恐れもある。検査・医療体制は逼迫し、多くの患者が入院できなかった「第5波」の悪夢が再来しかねない。
岸田は「この夏に比べ3割増、約3万7000人の入院体制を確保した」と胸を張るが、第5波のピーク時に自宅療養者は13万人、療養先調整中は2万7000人に達していた。増床は追いつかず、オミクロン株への効果に期待が集まる3回目接種も世界から周回遅れ。
岸田が表明した「2カ月前倒し接種」の対象は、医療従事者や高齢者施設の入所者や職員、基礎疾患を持つ高齢者ら。他の多くの国民への接種は「原則8カ月後」の間隔を維持したままだ。
しかも、米ファイザー社から来年の詳細な供給日程が示されておらず、一時的にワクチンが不足する可能性もある。おかげで政府は副反応が強いとされる米モデルナ社製の在庫を活用しようと、慌てて「交互接種」を進める方針だ。
オミクロン株はいったん広がり出すと手に負えないのに、政権の対策は実に頼りない。経済評論家の斎藤満氏が言う。
「オミクロン・ショック前には米国もユーロ圏もコロナ前水準に景気が回復しつつありましたが、日本経済は独り負け。来年は株価上昇の要素もなく、政府の賃上げ要請に応じる企業も一部にとどまるでしょう。その上、第6波が現実となり、再び自粛ムードが広がれば、もう目も当てられない。来年は米国が世界的インフレ退治に乗り出し、利上げに踏み切る。日米の金利差拡大でドル買い円売りが進み、円安は加速。輸入コストが膨らみ、値上げラッシュも到来しそうです。さらに欧米の感染拡大により、在庫積み増しや緊急輸送の影響で物流コストも確実に増す。『分配』のマヤカシが露呈する頃には円安地獄に拍車がかかり、庶民生活は不況下の物価高という最悪のスタグフレーションに直面しかねません」
反中世論に勢いづく党内右派のプレッシャー
外交面でも岸田は来年2月の北京五輪前には早くも決断を迫られる。岸田自身は国会答弁などで「今のところ、参加を予定していない」と表明。米バイデン政権に端を発する外交的ボイコットへの同調スタンスを醸しながら、「五輪や外交にとっての意義などを総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断する」とも語り、結論を先送りだ。
政府代表としての閣僚参加見送りでは米国に同調しつつも、室伏広治スポーツ庁長官らを派遣して中国の顔を立てる方策を思案しているようだが、そんな玉虫色の弥縫策に米中両国とも納得するのか。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「米中に挟まれた日本を取り巻く地政学リスクと貿易上の関係を考慮すれば、米国に右へ倣えや中国に媚びるわけにもいかない微妙な問題です。アジアの一員として中国を突き放さず、人権問題など忠告すべきは忠告し、米国には対話の仲介役を担うことを条件に外交的ボイコットに同調できないと毅然と説得する。それがベターな選択でしょう。ただ、首相が余りに煮え切らないと、世論の反発は必至。携帯電話のショートメッセージを使った毎日の世論調査では『ボイコットをすべきだ』が52%で、『必要はない』の29%と大差がつきました。恐らく若年層ほど反中感情が強く、その勢いに乗って安倍元首相ら党内右派が首相に圧力をかけ、政局を仕掛けてきそうです」
21日の会見で岸田は「今年より来年が良くなる。未来に対する希望を持てる日本をつくるため、来年も挑戦し続ける」と言ったが、来年は景気もコロナも外交も火だるま。今年より良くなりそうもない。
内閣支持率の微増は泡沫の夢。覚めた後の現実が恐ろしい。
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