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岸田総理の「優柔不断」は柔軟さの表れ…安倍・菅時代が異常だった 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/298894
2021/12/18 日刊ゲンダイ
岸田首相(C)JMPA
私個人は、岸田さんはなかなかいい総理大臣だと思っている。国会中継を見ていても、野党の質問に対して、安倍さんや菅さん時代のような木で鼻をくくったような受け答えをせず、一生懸命に誠実に答えようという姿勢が感じられて好ましい。
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コロナの3回目のワクチン接種を公的負担とすることを決め、11月30日から年末まで外国人の新規入国を一時停止し、「批判はすべて私が負う」と宣言した。新たに13兆円規模の財政資金投入を決め、病床の確保も3万7000床。飲める治療薬もすでに160万回を確保し、年内の薬事承認を目指すという。
価格高騰が続く原油の問題では史上初めて政府の備蓄分の石油を放出することを決めた。さらに売り上げを減らした事業者に250万円を上限とした給付を行い、18歳以下の人を対象に、年内に現金10万円一括も選択肢に入れて給付を行うという。「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」とした財政支出の総額は55兆円で、いままでで最大規模だそうだ。
そのほか介護や保育の仕事に従事する人たちの給与を年間で11万円程度引き上げることも、岸田総理は所信表明演説で発言した。実際に思い描いたとおりにできるかは別の問題だが、新政権スタートの立案として、いまのところは評価できるのではないか。
岸田総理は時に「優柔不断」とやゆされることもあるが、臨機応変な対応ができる柔軟な考えの人だと解釈することもできる。
日本に向かう国際線の新規予約を一時停止する措置を決めたのはつい先日だが、「日本人の帰国も難しくなる」との批判を受けて撤回し、「在外邦人の帰国需要に十分配慮するように」と訂正し、航空各社に通知した。“朝令暮改”と言われて陳謝したものの、自らの考えに固執せず、誤りがあればすぐに正すことのできる政治家であるともいえるだろう。
公平な目で見て不利益を被る人たちがいるなら、自身の考えを改めることができるのは、貴重な資質だと私は思う。マスコミの囲み取材を受ける様子を見ても、質問に正直に対応しようとする姿勢が感じられる。
だが、よく考えれば当たり前の話だ。岸田総理はごく普通の対応をしているにすぎない。それが国民の目にとても新鮮に映り、岸田内閣の好感度を上げることに貢献しているとすれば、まったく皮肉な話だ。
思えば岸田政権に先立つ安倍政権と菅政権においては、「普通の対応」がどこかへ忘れ去られていた。
約9年ものあいだ、それを見せられてきた私たち国民の側も、政府の持つ根深い隠蔽体質にすっかり慣れてしまっていたともいえる。平気でウソをつき、あったものを「なかった」、なかったものを「あった」と言い張り、都合が悪くなると逆ギレし、強権を振りかざして無理やり火消しにかかろうとするか、他の話題に国民の目をそらそうとする。
安倍・菅政権で大きくマイナスに振れていた振り子が、ようやくゼロ地点まで戻ってきたということだ。
安倍総理の言葉が自己弁護や自慢にしか聞こえず、菅総理の言葉がカンペ棒読みの空疎なものに聞こえていた9年間を、国民もマスコミもいやというほど経験済みだ。「ウソも方便」ということも、もちろんある。政治家は、ときにウソをつかなければいけないときもあることはわかっている。しかし、国民の誰もが「ウソをつく政治家」にうんざりしていたことも事実だ。そんなときだからこそ、岸田さんのような正直な政治家が総理に選ばれたのだろう。
岸田さんはこれから先もその正直で柔軟な姿勢を保ち続けられるか? やっとゼロまで戻した振り子が、再びマイナスに傾かぬようにしていただきたい。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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