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※2021年12月14日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年12月14日 日刊ゲンダイ2面
【今 必要なのは大型減税】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) December 14, 2021
たかが10万円での混乱に国民の怒り
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/rORdO2rPj7
※文字起こし
子育て世帯への10万円給付は現金とクーポンなのか、2回に分けるのか、現金で一括支給したらどうなのか--。
国会では13日から衆院予算委員会で今年度の補正予算案の審議が始まったが、10万円給付問題に多くの時間が割かれた。
政府はこれまで「年内に現金で5万円」「来春からクーポンで5万円」の形で支給する方針だったが、クーポン支給の事務費が巨額になる上、自治体の手続きが煩雑になる。
現金一括支給を希望する自治体が相次ぎ、国民からも批判の声が上がっていた。すると、岸田首相は予算委の質疑で突然、「地域の実情に応じ、年内からでも10万円の現金を一括で給付することも選択肢の一つに加えたい」と言い出したのだ。「特定の条件を付け、審査をすることはない」という。
これが、岸田ご自慢の「聞く力」ということか。方針転換したことは、国民の声を無視して布マスクを送りつけ、大量に余ったマスクの保管に6億円も使った政権に比べればマシなのかもしれないが、それができるなら最初から全額現金にすべきだったし、子育て世帯以外に新型コロナで困窮している世帯への目配りも欲しい。
国民目線に立てば、そもそも「クーポン」なんて発想は出てこないはずだ。
10万円の支給方法は自治体の判断に任せられることになりそうだが、一部の自治体がクーポン支給を選べば、そのためだけに事務費用が余計に発生する。多くの自治体が現金支給を希望している以上、一律現金に決めた方が効率的だ。
ところが、松野官房長官は13日の会見で、現金一括給付容認は「自治体の判断を尊重するとの方針」と言いつつ、来春からの給付は「クーポンによることが基本との考え方に変わりはない」と強調。かたくなにクーポンを取り下げないのは、政府が決めたことを覆せないというくだらないメンツのためだろう。
クーポンも現金支給も消費効果に差がない
政府が5万円分をクーポンで支給することにしたのは、確実に使うことで消費喚起につなげるためだと説明されてきた。しかし、麻生前財務相がよく言っていた「現金支給は貯蓄に回るだけ」という理屈もまやかしなのだ。たしかに、昨年配られた「一律10万円」の特別定額給付金は、約7割が貯蓄に回ったとされる。だが、クーポンで配っても同じことなのである。
1999年に小渕内閣が緊急経済対策で65歳以上の老齢福祉年金受給者と15歳以下の子どもを対象に一律2万円のクーポン「地域振興券」を配ったことがあった。その消費喚起効果について、13日の予算委で山際経済再生相は「交付総額約6000億円で、消費喚起約2000億円」と答弁。経済企画庁(現内閣府)の調査では、消費が喚起された割合は32%に過ぎず、現金給付と変わらないのだ。
「クーポンのおかげで使わずに済んだ分を貯蓄に回すだけのことです。1回きりの給付だから、そうなる。子育てには毎月お金がかかります。給付金は毎月少しずつ使おうと考えるのが自然で、消費喚起なら消費税などの減税の方が効果的でしょう。現金とクーポンで消費喚起効果に差がないのなら、国民民主党
が提案するように、まず現金で一律10万円を給付して、高所得者には課税時に逆還付を求める方法が簡素で早いのに、クーポンにこだわったのは財務省の言いなりになっているように見える。岸田首相は、国民生活の疲弊がどこまで分かっているのでしょうか。国民の声を書き留めてきたという『岸田ノート』には何が書いてあるのでしょう」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
1回こっきりの10万円ではまったく足りない国民の貧困化 |
実は、コロナ禍でも国の税収は増えている。13日の予算委で鈴木財務相が明らかにした。20年度は「巣ごもり需要などで」企業業績が好調で5.7兆円も上振れ。21年度も「課税実績と企業業績が回復」し6.4兆円の上振れを見込んでいるという。なんなのだ、これは。
子育て世帯に配る10万円をどうするかで与野党が丁々発止の国会がアホらしくなる。そんなさまつな議論をしている場合なのか。
庶民にたかが10万円の支給で混乱する一方、企業はコロナ禍でも儲けて、国は何兆円も税収増という現状。賃金が何十年も増えていないことが日本経済の停滞要因だということは、多くの国会議員も理解していて、代表質問や予算委でも言及がある。だからこそ、岸田も総裁選で「分配重視」を打ち出し、「新しい資本主義」とか言っているのではなかったのか?
経済アナリストの菊池英博氏による試算では、第2次安倍政権の発足以降のアベノミクスで実質賃金は年平均で15.8万円もダウンし続けた。そのうち8万円程度が消費税増税分だという。1回こっきり10万円、それも子育て世帯のみに年収制限を設けた支給では、とても穴埋めできる状況ではない。
「日本の実質賃金は1996年をピークに下がり続けている。OECDの調査でも、日本の平均賃金(年間)はこの20年間ほとんど上がらず、2020年は3万8514ドル(約423万円)と加盟35カ国中22位で、加盟国平均の4万9165ドル(約540万円)を大きく下回っています。しかも、富裕層が引き上げる平均値ではなく、中央値で見れば年収370万円くらいがボリュームゾーンになっています。国民の貧困化は著しく、何十万円単位で所得を押し上げないと間に合わない。本気で日本経済を立て直すには、大型減税など恒常的な施策が必要です。しかし、財務省は一時金の形で支給するなら容認するが、恒常的な減税はやりたくない。その壁を突き崩すだけの政治力も岸田首相にはないということが、補正予算の中身や国会答弁から分かります」(経済評論家・斎藤満氏)
大企業優遇で庶民に目線が向いていない
日本のGDPの約6割を占めるのが個人消費だが、賃金が上がらず負担ばかりが増えて可処分所得が減る一方では、シュリンクしていくだけだ。政府がやるべきことは個人への減税しかないだろう。税収が増えているのなら、なおさらだ。野党も、そういう大きな枠組みをもっと議題にして欲しい。
岸田は「企業に賃上げの努力を促す」と言うが、ボーナスなどで一時的に給与総額を上げれば法人減税する「賃上げ税制」はこれまでもやってきた。それで賃金は上がらなかったのに、控除の数字を大きくするだけでどれだけの効果があるのか。そもそも赤字企業には何のメリットもない。
「『分配重視』や『新しい資本主義』に当初は期待もあったが、結局は大企業に目線が向いていることが分かってきた。企業に増税して、定率減税のような形で庶民に分配するのであれば、アベノミクスからの転換も明確でした。ところが実際に岸田政権が進めようとしていることは安倍・菅政権の踏襲で、予算の組み替えなど小手先の対策に終始している。GoToキャンペーンも年明けの1月下旬から再開するというし、結局、何も変わっていない。岸田首相が唱える『新しい資本主義』も、教育業界やIT業界など特定の企業に利益を供給するだけで終わりかねません」(斎藤満氏=前出)
予算委で「新しい資本主義」について聞かれても、官僚原稿の読み上げで同じ答弁を繰り返すだけ。前任者より「読む」のは少しだけうまいかもしれないが、岸田の「思い」は伝わってこない。
新自由主義のどこが悪かったのか、何が格差を拡大させたのか。岸田は「市場任せにせず官民が役割を分担」と言うが、官民挙げれば成長と分配が実現するのか。それは岸田政権が推し進めるデジタル資本主義とは矛盾しないのか。
本気で新自由主義からの脱却を目指すのであれば、アベノミクスの誤りを認めることから始めるしかないのに、それもできないのだから、「新しい資本主義」はモラルも哲学も感じられない、中身空っぽの言葉遊びに過ぎないのだ。
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