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またも潜り込む竹中平蔵。岸田政権「新しい資本主義」の大ウソを暴く
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2021.12.01 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
岸田首相が成長戦略の1つとして掲げる「デジタル田園都市国家構想」。内閣官房HPによれば、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく」とのことですが、疲弊しきった地方をデジタルで救い起こすことは可能なのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、岸田首相が「引用元」とした大平正芳内閣の「田園都市国家構想」の概要を紹介するとともに、優れた思想性を高く評価。さらにその構想に「デジタル」の文字を冠しただけの現政権の姿勢を軽佻浮薄と切り捨てています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年11月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
日本政界を覆う「哲学の貧困」の深刻/例えば「デジタル田園都市構想」の浅薄極まりなさ
岸田文雄首相の旗印は「新しい資本主義」で、その中核をなすのは「デジタル田園都市国家構想」であるらしい。
「新しい資本主義」は、これまでの岸田の発言を見る限り「成長と分配の好循環」を実現することで、そうだとすると「古い資本主義」とは、日本では、中曽根康弘の国鉄・電電公社の民営化で始まって小泉純一郎=竹中平蔵コンビの郵政民営化などによって全開させられ、そしてアベノミクスにも引き継がれた、何でもかんでも規制緩和、民営化、対外自由化で資本のやりたい放題を招いた「新自由主義」ということになるだろう。
「新自由主義」によって荒廃した経済社会を修復するのが「新資本主義」だと言われても、何のイメージも湧かない。前者によっても一向に経済は成長せず、むしろ経済の格差と社会の分裂が深まったのを反省して、今後はもっと「分配」を重視するという程度のニュアンスしか伝わってこない。
しかも、その「新資本主義」を実現する中核が「デジタル田園都市国家構想」だと言うのだが、これがまた、大平正芳首相が1980年に打ち出した「田園都市国家構想」とは似ても似つかない浅薄極まりないもので、それを象徴するのが「デジタル田園都市国家構想実現会議」のメンバーに「新自由主義」の張本人である竹中平蔵=慶應大学名誉教授がちゃっかり潜り込んでいるという事実である。
「成長と分配の好循環」とは?
成長と分配の好循環では、「分配の原資を稼ぎ出す『成長』と次の成長につながる『分配』を同時に進めることが新しい資本主義を実現するためのカギ」だと、10月26日の「新しい資本主義実現会議」第1回会合に経産省が提出した資料が述べ、それを詳しく説明した図を提示している(図1)。
成長の牽引力は科学技術とりわけデジタル新技術で、地方の活性化もこれで行うことから「デジタル田園都市国家構想」とも繋がる。これで投資や消費が増え、企業の収益増、個人の所得増、国・自治体の歳入増になれば「分厚い中間層の(再?)構築」が可能となり、次への成長力が生まれる――と、まあ、都合のいいことだらけの机上の空論で、問題の焦点である「どうしたらこの好循環が動き出すのか」についてはこの図からは見えてこない。
先の総選挙では、野党は「分配なくして成長なし」と言い、それに対して与党は「成長なくして分配なし」と言ったが、これだけでは水掛け論のようなもので、だから経産官僚は「成長と分配を同時に進めることがカギ」と引き取って収めたのだろう。しかし結局、与党も野党も経産官僚も「日本経済は成長すべきである」という大前提の下でニュアンスの違いを競っているだけではないのか。
いずれにせよ、岸田の言う「新しい資本主義」の新しさとは何なのか定義が不明である。
「資本主義の終焉」をこそ語るべき
水野和夫が言うように、本質的な問題は「資本主義の死期が近づいているのではないか。……資本主義は『中心』と『周辺』から構成され、『周辺』つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって『中心』が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進しているシステム」であり、にもかかわらず「もう地理的なフロンティアは残っていない」ということである(『資本主義の終焉と歴史の危機』集英社新書、2014年刊)。
資本主義は武力を背景に「周辺」から搾取し掠奪した富の一部を本国の労働者にも分配し、そこそこの豊かさを享受させてなだめすかし、その懐柔策が効いている限りは彼らに普通選挙権を与えても支配体制を転覆されることはないだろうと高をくくってきた。それが「中間層」というものである。
ところがフロンティアの拡張を望めなくなった資本主義は、にもかかわらず飽くなき利潤を求めるその貪欲な本性ゆえに、今まで飼いならしてきた本国の中間層を食い荒らし始める。いま先進各国で一様に起きている格差や差別や憎悪の問題とは、もはや中間層を飼い殺しておくだけの余裕を失った資本主義が、恥も外聞もなく、タコが自分の足を食うかのような凶暴性を発揮しつつあるという凄惨な事態を意味している。
その時に、日本でだけは「分厚い中間層の(再?)構築」が可能であるなどと、岸田も経産省も、もしかしたら野党も、どうして考えるのか。ノーテンキに過ぎないか。
中国の「資本主義」も研究対象であるべき
上述の経産省資料「新しい資本主義」が、「世界各国で『新しい時代の資本主義経済』が模索されている背景」として、「権威主義・国家管理経済と民主主義・資本主義経済の競争が激化する中、民主主義・資本主義の体制が、様々な社会課題を解決できることを示さなければ、こうした体制への信任が失われ、戦後の国際秩序が崩壊する」などと、「体制間」のイデオロギー対立があるかに言うのは、全くの間違いで、それは冷戦時代の「体制間対立」感覚へのノスタルジアにすぎない。
今や中国やロシアでさえも経済システムの基調は「市場経済」である。しかし、市場を野放しにすれば全てが巧く行くという米欧の単純な「新自由主義」の失敗の後では、市場に任せていいのはどこまでで、それが行き過ぎた時に政府が介入するのはどのような手法によるべきなのかという「市場と政府介入」の兼ね合いこそが世界共通の最大関心事である。
例えばの話、中国の共産党一党支配という政治システムを残したままの改革開放路線というのも、初期的には「開発独裁」の一形態として一定の意味があり、そこから脱して世界第2の経済大国にまでのし上がってくる過程では、それを「政府によって適度に管理された市場経済」の巨大な実験として試行錯誤を続けていて、そこから学ぶべきことは西側にとっても沢山あるのではないか。
「成長しない」という選択の新しさ
とはいえ、中国にはまだまだ伸び代があって、それは国内市場の大きさと「一帯一路」路線を通じた海外需要の取り込みの可能性による。それを日本が真似しようとしても無理で、成熟どころか爛熟に達し、急速な「人口減少社会」に突き進んでいるメガトレンドに素直に従って、むしろ「成長しない」ことを積極的に選択することこそ、本当の意味で「新しい資本主義」なのではないか。
ところが資本主義は成長しないと、すなわち利潤率を上げないと、生きていけないところに本質があるので、「成長しない資本主義」というのは形容矛盾で成り立たない。ということは「成長しない」新しい経済システムは「資本主義」ではありえない。それでは「社会主義」なのかと言えば、これは資本主義以上に激しい成長追求理念なので、モデルとして役に立たない。そうするとやっぱり、市場経済の利点は大いに活かしながらも一定の公的コントロールを施すのは当然という「第3の道」路線となるのだろうか。
何々主義と、何事もそれ一本槍の「主義」を名乗ることさえももう止めにして、成長を第一としない経済のあり方を何と呼べばいいのか。問われているのはその議論だと思うが、いまの政界ではなかなかそこに行き着かない。
「近代の超克」を目指した大平研究会
さて、この岸田流「新しい資本主義」実現の大きな柱と位置付けられているのが「デジタル田園都市国家構想」である。
「田園都市国家構想」は、岸田にとって宏池会の大先輩に当たる大平正芳首相が1979年〜80年に、当時の錚々たる学者・文化人・官僚など200人余りを結集して政策研究会を作り、以下の9つのテーマで「21世紀へ向けての提言」として報告書をまとめさせた内の1つである(〔 〕内は座長)。
1.文化の時代〔山本七平〕
2.田園都市構想〔梅棹忠夫〕
3.家庭基盤充実〔伊藤善市〕
4.環太平洋連帯〔大来佐武郎〕
5.総合安全保障〔猪木正道〕
6.対外経済政策〔内田忠夫〕
7.文化の時代の経済運営〔館龍一郎〕
8.科学技術の史的展開〔佐々學〕
9.多元化社会の生活関心〔林知己夫〕
提言の「総説」が述べているように、9報告書を貫く基本的な問題意識あるいは時代観は、「近代を超える」というところにあった。総説は言う。
▼過去には西欧化、近代化、工業化による経済成長が強く要請される時代があった。そこではそれぞれの要請の内容が明らかで、目標とすべきモデルがあった。……明治以来のこのような状態は、主として対外的劣等感から生まれ、時にはそれを裏返した異常な独善的優越感ともなった。そこからの脱却をめざすのが、大平総理の「文化の時代」の提唱である。
▼日本で過度の中央集権化に偏った制度が採られたのは隋唐文化を大いに摂取した「律令化の時代」と、欧米文化を大いに摂取した明治以降の「近代化の時代」だけであった。
▼アメリカの明白な優越が、軍事面でも、経済面でも終了した。「アメリカによる平和」時代は終わり「責任分担による平和」時代へ。
ここには明らかに、明治以来(当時で)100年余りの、ひたすら領土拡張と経済成長を求めて行け行けドンドンで走り抜けてきた「発展途上国ぶり」をきっぱりと卒業して、文化の香り高い成熟先進国へと踏み込んでいくのだという歴史的な大転換の意識が溢れていた。
その上に立って、2.の「田園都市構想」では、梅棹(国立民族学博物館長=当時、以下同じ)の下で香山健一(学習院大学教授)と山崎正和(大阪大学教授)の2人が実際に報告書の起草に当たり、他にも飽戸弘、浅利慶太、石井威望、井出久登、黒川紀章、小林登、竹内宏なども研究員として参加して、「脱工業文明」の決め手となるべき国家・社会像として「物質的豊かさと便利さとともに、精神的・文化的豊かさを享受し、人間と自然の調和、人と人との心の触れ合いのある、総数200〜300前後の個性豊かな『田園都市圏』のネットワーク」の形成を提唱したのだった。
デジタルで「田園都市国家」ができるのか?
これに対して岸田の「デジタル田園都市国家構想」は、何の哲学、文明論、時代観にも裏付けられていない。はっきり言って、大平研究会からその言葉だけを借用して「デジタル」を貼り付けて現代っぽく見せかけただけの似て非なるものである。
その浅薄さは、11月11日の「デジタル田園都市国家構想実現会議」第1回会合に牧島かれんデジタル大臣から提出された「イメージ」図を見れば一目瞭然だろう(図2)。
まず何よりも、英語、英字頭文字、カタカナが多すぎる。例えばこの宇宙船のようなコミュニティを下から支えるのがデジタル・インフラであるらしいのだが、その接点となるのは「API GW」である。この頭文字を見て「アプリケーション・プログラミング・インターフェース ゲートウェイ」と読むことができ、その意味を理解できる日本人が一体何人いると言うのだろうか。「Sustainability」とか「Well-being」とか「MaaS」などの英語・英字がなぜ必要なのか。「Well-beingの向上とKPIの設定による改善で輝く暮らしを」と言うが、これって、「幸福度が向上し、さらにキー・パフォーマンス・インディケーターすなわち重要業績評価指標を設定して幸福度を改善すれば輝く暮らしを」と日本語で言われても何のことやら分からないものを英語・英字混じりで言われたのではますます分からない。あ、「MaaS」を知ってますか?「モビリティ・アズ・ア・サービス」の頭文字で、例えば自宅から公共交通機関で都心に出てこの映画を観たいとスマホに入力すると、AI(あ、人工知能ですね)が道順や時間を教えてくれ、必要な予約や料金決済まで全部済ませてくれる仕組みで、北欧の大都市ですでに実験が進んでいるという。
深刻な地方の衰弱も、デジタルという魔法のスパイスを振りかければほらたちまちwell-beingというような軽佻浮薄な話に誰が付いていくだろうか。
余談:ドイツの新しい首相に決まったオラフ・ショルツ副首相の友人にフンボルト大学の哲学教授フォルカー・ゲアハルトがいる。2人が知り合ったきっかけは、2007年にベルリンからハンブルクに向かう電車の中でショルツがゲアハルトに「あなたは、私が読んでいるこの本の著者ではありませんか」と声をかけたことによる。「彼のような実務家が、照学の理論に興味を持っていたことに驚き」、以後2人は哲学や人生を語り合う仲となった(11月26日付毎日)。ショルツは労働法専門の弁護士の出身で、日本語に翻訳されたゲアハルトの数少ない論文の1つは『人権への権利』と題した論集に収められた「人権とレトリック」なので、その辺りに接点があったのかもしれない。いずれにせよ、電車の中で哲学書を読むような人に総理になってもらいたいものだ。大平正芳は熱心なキリスト教徒で、渾名の1つが「哲学者」だった。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年11月29日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)
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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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