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※2021年11月29日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年11月29日 日刊ゲンダイ2面
【ただ首相になりたかっただけの男】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) November 29, 2021
岸田文雄 目に余る「空っぽ」の「危うさ」
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/t69IrvjGMM
※文字起こし
「いわゆる敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を排除せず検討する」--。
まるで安倍元首相が乗り移ったかのような発言だ。27日、就任後初めて自衛隊の観閲式に出席した岸田首相が、訓示で防衛力強化の方針を改めて示した。
最新の防衛装備品を視察し、機動戦闘車などにも試乗。「10式戦車」に乗って笑顔を見せる場面もあった。
「自民党の憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に改称したり、敵基地攻撃能力に意欲を燃やしたり、岸田首相は衆院選に勝った途端、タカ派的な政策にアクセルを踏み込んでいる。歴史的に『軽武装、経済重視』を掲げる護憲リベラルの牙城であった宏池会出身の首相とは思えない前のめりです。“被爆地出身”を売りにしてきたのに、日本の軍事力強化を求める米国の言いなりで、来年度以降、在日米軍駐留費の『思いやり予算』も過去最大水準に引き上げる方針だという。のっけから安倍政権をも上回るほどの米国隷従を見せつけられ、先が思いやられます。ただ総理大臣になりたかっただけで、信念も何もないことが露呈しました。広島出身が聞いて呆れます」(政治評論家・本澤二郎氏)
岸田の選挙区は、原爆ドームや平和記念公園がある広島1区。だが、本人は東京生まれ、東京育ちで政治家3世のボンボンだ。安倍と気が合うわけである。
26日に閣議決定した2021年度補正予算案でも、防衛費として補正では過去最大の7738億円を計上。それを新規の防衛装備品の購入に充てるのも異例で、P1哨戒機や迎撃ミサイルパトリオット(PAC3)改良型に機雷など爆買いだ。
ハト派のイメージを利用して牙をむく
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「本来、補正予算は本予算とは別に、緊急の手当てが必要な時に組むものです。今回は、新型コロナウイルス感染拡大防止と、コロナで傷んだ経済を立て直すための経済対策が目的のはず。米国から防衛装備品を買うことが経済対策になるのでしょうか。21年度当初予算の5兆3422億円と合わせて年度を通した防衛費が初めて6兆円を超える。補正予算に紛れ込ませてゴマカす手口で、衆院選公約で掲げた『防衛費のGDP比2%以上』に近づけようというのです。岸田首相はハト派のイメージを利用して、軍国化を加速させようとしているように見える。理念がないから、米国の言いなりで戦争にも参加しかねない。ソフトなイメージにだまされていたら大変なことになります」
補正予算の総額は35兆9895億円で、このうち経済対策に充てる分は31兆5627億円だが、規模を膨らませただけで、効果は期待薄。あちこちから言われるままにカネを無意味に使って「やってるフリ」だけなのだ。
公明党の要求にも「聞く力」を発揮して、18歳以下に10万円相当を給付するのだが、こんなバラマキは一時しのぎにもならない。それどころか、半分をクーポン支給にするため1200億円もの事務経費が発生することに批判が集中している。現金5万円給付の事務費は300億円なのに、クーポン5万円給付は印刷費などが余計にかかって900億円になるというのだ。アホらしくて、ため息も出ない。
だいたい、クーポンでは家賃や光熱費は払えないのだ。印刷会社にカネを落とすことが目的なら、国会議員の歳費をクーポンにしたらどうなのか。無駄に支出する900億円で本来なら救える人がたくさんいる。補正に計上された学生支援緊急給付金(675億円)も、住居確保給付金(100億円)も倍増できる。
新しい資本主義の内実は大企業優先の古い資本主義 |
岸田政権の経済対策は一事が万事、この調子で、ガソリン高騰への対応もまったく庶民生活が見えていない。レギュラーガソリンの全国平均が1リットル170円を超えた場合、国が元売り各社に1リットルあたり最大5円の補助金を出すというのだが、なぜ石油販売会社への支援なのか。
販売元への補助金が小売りに反映されるとはかぎらない。国民民主党の玉木代表が主張しているように、トリガー条項の凍結解除の方が断然効果的なのではないか。最大25.1円を減税できる。
米国の要請を受けて石油の国家備蓄を放出することも決めたが、国際相場はむしろ上昇。米国と大企業の言うことは聞くが、これから冬を迎えてガソリン価格高騰に苦しむ庶民生活のことを本気で案じてはいないとしか思えない。
税制にも規制緩和にも手をつけない
岸田は総裁選で「分配重視」や「新自由主義からの転換」を訴えて首相の座を手にした。それもすっかり忘れたかのようだ。いい加減なものである。
補正予算に計上された「分配戦略」を見ても、「看護、介護、保育、幼児教育などの現場で働く方々の収入の引き上げ」は2600億円。その一方で、マイナンバーカード保有者に最大2万円分のポイントを付与するマイナポイント事業には1兆8134億円もの予算を計上している。分配より、場当たりのバラマキ重視ということだ。
「岸田首相は『新しい資本主義』などと言っていますが、その中身は大企業優遇の古い資本主義そのものです。非正規社員の待遇などの格差問題を放置したまま、大企業に形ばかりの賃上げを要請するのは欺瞞と言うほかない。政界では“真面目でいい人”というのが岸田首相の人物評ですが、それは操りやすいということでもある。何でも言うことを“ハイ、ハイ”と聞き、財界の要望に押されて、むしろ新自由主義が加速していく危うさを感じます」(五十嵐仁氏=前出)
岸田は26日、経団連会長や連合会長らが出席する「新しい資本主義実現会議」で、経済界に来年の春闘で「3%超の賃上げ」を求めた。アベノミクスによる「成長と分配の好循環」を演出するため安倍が始めた官製春闘の猿真似だ。
安倍政権下でも賃上げ率が3%に達することはなかったが、岸田は賃上げに積極的な企業の税額控除率の引き上げをさらに進めようとしている。労働者への分配促進と見せかけて、その実は法人税減税で大企業の税負担を軽減することが主眼なのではないか。
新自由主義からの転換というのなら、金融資産課税や、大企業が貯めに貯め込んでいる内部留保に課税する議論があってもいいはずなのに、賃上げに応じた企業は税制で優遇するというおためごかし。与党の税制改正大綱の決定は来月上旬だから、衆院選があったために「時間がない」という理由で税制の抜本改正は見送られる。
新自由主義からの転換というなら骨太の哲学が必要なのに、税制には手をつけず、規制緩和の見直しもしない。これで一体、安倍・菅政権から何が変わるというのか。
中身「空っぽ」で、財界や米国の話を聞くことが特技の首相は危うい。言われるがまま何をしでかすか分からない。衆院選で絶対安定多数を与えた国民がそのツケを払わされる。米国や財界、政界重鎮から見て操りやすい「いい人」が、国民にとっても「いい首相」とはかぎらない。
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