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世界の流れに逆らう先進国は日本と韓国…?化石賞受賞のヤバイ背景
https://friday.kodansha.co.jp/article/215295
2021年11月17日 FRIDAYデジタル
原発が止まっているから石炭火力が増えたわけではない
COP26で昨年に続き、化石賞を受賞してしまった日本。2020年のデータによると、化石燃料による火力発電の年間発電電力量の割合が約75%。そのうち約28%が石炭を燃料としていること、将来廃止することを明言しないことを考えれば、これも仕方ないかと思える。
東日本大震災発生前、日本には54基の原発があり、電力の30%前後をまかなっていた。今、稼働している原発は定期点検中のものを含めて9基。全体の約4%だ。やっぱり原発を動かさないと石炭火力に頼ざるをえないのか。
「多くの人は、そう思ってますよね。でも、実際は少し異なります」
というのは、京都大学特任教授の安田陽氏。
「30年間の統計データを見ると、日本は原発事故以前の90年代から石炭火力を徐々に増やしてきたのです。
90年代以前の日本は石油火力がまだ主力電源でした。90年代以降になって石油依存を減らすということで石炭をオーストラリアから輸入することになった。産油国の中東は政情が安定しませんでしたし、中東から石油を運ぶには、ホルムズ海峡やマラッカ海峡という国際情勢が不安定な場所を通らなければならなかった。オーストラリアは友好国だし、危険なところも通らない。というわけで、オーストラリアからの石炭の輸入を増やしたんです」(安田陽氏 以下同)
90年代は、世界各国も石炭火力が主流だった時代。イギリスやドイツは石炭火力が70%を占め、デンマークなどは石炭火力で作った電力を他国に輸出していたほどだ。
しかし、世界は変わった。1997年の京都議定書以降、世界は徐々に方向転換。今やデンマークは1年間に使う電力量の約70%を再生可能エネルギー(再エネ)でまかなうようになった。ドイツ、アイルランド、イタリアなども電力量の半分ほどを再生可能エネルギーでまかなっている。
対して日本は90年代からずっと石炭火力に頼り続け、天然ガス火力大きくが増えたのはようやく原発事故以降にすぎない。今も再生可能エネルギーの割合は20%程度。これはアメリカや中国よりも低い割合だ。しかも将来、石炭火力をゼロにするという約束を明言しない。これでは化石賞をもらっても仕方がない。
「私が行った分析によると、OECD(経済協力開発機構)の加盟国のほとんどは石炭を減らし再エネに舵をきっている。この流れに逆行しているのは、先進国では日本と韓国くらいなんです」
再生可能エネルギーが不安定というのは20年前の知識だった!?(写真:アフロ)
再生可能エネルギーは不安定というのは20年前の知識
再生可能エネルギーといえば、太陽光や地熱、風や水など自然界に存在する環境や資源を利用するエネルギーのこと。
でも、天候に左右されたり、不安定だと言われているが……。
「それは欧州では20年前に言われた話ですね…」
一刀両断。え、でも、曇りの日もあるし、風が吹かない日もあるけど……。
「確かに変動はあります。けれど、それを電力システム全体で管理するさまざまな方法がある。しかも再エネの導入のレベルに合わせて段階的な方法論があります。変動しているから電源として使えないというのは20世紀の話。20年もたてば、技術も進化する。それなのに情報が20年前で止まっているのが、今の日本です」
さまざまなやり方って、たとえば蓄電池とか?
「IEA(国際エネルギー機関)など国際的な議論では、実は蓄電池は、今の日本の再エネ導入のレベルではほとんど必要ないんですよ。たとえばコージェネレーションシステム。電気と熱の2つのエネルギーを同時に生産するシステムですが、デンマークでは風が吹きすぎて風力発電で余った電気でお湯をわかし、それを貯めて風の少ない時に利用しています。お湯を貯めるのは超ローテクなんですけど、蓄電池より何倍も安くできる。
日本は技術的に確立したローテク技術をほとんど使わないで、蓄電池、蓄電池と騒いでいる。しかも、蓄電池は高いから再生可能エネルギーは高い、高いから増やせないと言う。どうしてでしょうね…」
原稿に目を落とす時間が多かった岸田首相の演説。日本が真剣に脱炭素を考えていることが世界に通じただろうか…(写真:アフロ)
大切なのは“フレキシビリティ(柔軟性)”…IEAの提案が浸透しない日本
2011年、IEAは、再生可能エネルギーを大量導入するためにはどうしたらいいか指標を出している。キーワードは“フレキシビリティ(柔軟性)”。再生可能エネルギーは変動があるけれど、それを柔軟に管理していこうということで、まず今ある既存の設備でなんとかする。風力や太陽光が増えてきたら、さまざまなタイプの柔軟性を考えてコストの安い順に入れていくというものだ。
「日本は世界で二番目に多い揚水発電所を持っている。これをもっと利用すればいい。揚水は水力ですから、再生可能エネルギーなんです。
ヨーロッパでは農産廃棄物からバイオガスを回収して、発電と熱を供給するバイオコジェネも行われています。料金が安い時間帯に電気を使ったりお湯として貯めておいて、電力需要のピークを抑える形で、デマンドレスポンス(需要応答)が既に市場取引を通じて普及しています。変動する再生可能エネルギーを別の再生可能エネルギーで調整することもできるんです。
10年も前にこういうことが提唱されて、国際的にも実用化が進んでいるのに、日本ではこの考え方が浸透していない。日本語に翻訳されていないせいか、産業界でも知らない人が多いんです。そのせいか、”不安定な”風力や太陽光を調整するのは、火力だ、蓄電池しかないという話になってしまう」
洋上風力・太陽光で発電可能量は現状の使用量の、ともに約3倍! 環境省がこのような試算を出しているのに、なぜ実現に向かわないのか……。政府が石炭火力に固執する理由は?
このままでは世界中から相手にされなくなる!?
IEAでは、パリ協定の1.5℃目標を達成するために2050年に再生可能エネルギーで電力の9割をまかなうシナリオを立てている。果たして日本でそのようなことが可能なのだろうか。
「環境省の試算によると、航路や漁場などさまざまな制約要因を除いた、設置可能な洋上に風力発電の風車を立てた場合、1年間で約3200 TWhの電力量が得られるという試算を出しています。日本で1年間に使う電力量は約1000 TWh。洋上風力発電だけで3倍以上の電力がまかなえる計算で、それだけの資源が日本に眠っていることになります」
洋上風力だけで3倍以上。太陽光や地熱、小さな河川を利用した中小水力などを含めると、約7300 TWhもの潜在量(ポテンシャル)があると言う。それなのに、なぜそちらに進まないのか。
「世界中がそう思っていると思います。夢のような技術に頼らなくても、今ある再生可能エネルギーの技術でも十分できますと世界中で言われているのに、蓄電池や水素など新しいモノばかり手を出す傾向が日本にはあります。高額な費用がかかるものから先に手を出している。
もちろん将来的には蓄電池や水素が必要になる時期もくるでしょうが、日本の今の再生可能エネルギーの将来見通しは低すぎて、本来その威力が発揮できるレベルにない。順番が間違っているのに、それに気がつかない。そんな状況だと思います」
日本独自の技術と言われながら、これまでガラパゴス製品を生み出してきた。エネルギー問題もそれでいいと思っているのかもしれない。けれど、ガラパゴス化はもう許されない状況になっている。
アップルは2030年までにカーボンニュートラルを目指すとして、サプライヤーに対しても再生可能エネルギー100%に移行することを求めている。
「今、国際世論では、石炭は銃や麻薬、タバコと同じ扱いです。投資家たちも再生可能エネルギーに積極的でない企業には投資しなくなるでしょう。しかし、それに気がつかない産業界の人たちが日本に多すぎる」
そのうち日本製品の不買運動や「ジャパンパッシング」も起こる可能性もあると言う。
「地球温暖化にしても、気候変動にしても、もはや迫りくる危機で、リスクマネジメントの問題。今まで通りではダメなんです。産業界も国民も早くそのことに気づくべきです」
英語に堪能な小泉元環境大臣は、世界各国から浴びせられる批判をダイレクトに感じ、脱炭素に力を入れていたというが、今や無役。「これからが不安」という声も
※1:「No.15 OECD諸国はどのように石炭を削減し再生可能エネルギーを導入してきたか?−石炭=再エネ指標の提案と分析−」(京都大学大学院 経済学研究科・再生可能エネルギー経済学講座)はコチラ
※2_フレキシビリティ(柔軟性):IEAのファクトシート「変動性電源大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用」はコチラ
安田陽 京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。博士(工学)。専門は風力発電の耐雷設計と系統連系問題。技術と経済・政策の間を繋ぐ仕事を担っている。また、エネルギー関連の書籍も多数執筆。著書に『世界の再生可能エネルギーと電力システム全集』(インプレスR&D)など。小中学生向けの『再生可能エネルギーをもっと知ろう』シリーズ全3巻(岩崎書店)を監修。
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