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※2021年11月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クイック拡大
※紙面抜粋
※2021年11月13日 日刊ゲンダイ2面
【新自由主義からの転換のマヤカシ】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) November 14, 2021
まだ真ん中に居座っている竹中平蔵
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/au4wfxVxN4
※文字起こし
「デジタル田園都市国家構想は『新しい資本主義』の実現に向けた成長戦略の最も重要な柱だ。デジタル技術の活用により、地域の個性を生かしながら地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現していく」
先進的なデジタル技術によって地方活性化を目指す「デジタル田園都市構想」。その実現会議の初会合が11日午前、首相官邸で開かれた。岸田首相が冒頭のように意気込みを語る中、ある光景に驚いた。
NHKの昼のニュースが映し出したのは、14人の有識者メンバーの席で真ん中にドンと座っていた竹中平蔵氏。慶大名誉教授(経済学)であり、人材派遣会社のパソナグループ取締役会長だ。
小泉政権で構造改革や規制緩和、民営化の旗振り役を演じてきた。その結果、郵便局は民営化、国立大学は独法化、労働者は正規から非正規に置き換えられ、国家公務員(一般職)は2001年の81万人から17年には28万5000人と7割減。公共事業はアウトソーシング化が加速した。
コロナ禍で07年以降の10年間で半分に減った全国の保健所や、公立病院の補助金削減のしわ寄せをまざまざと見せつけられたが、竹中率いるパソナは新型コロナ対策と五輪関連の国の事業で焼け太り。
血税中抜きと批判を浴びた「持続化給付金」事業の“取り分”は約170億円とひときわ多く、今年5月期のパソナの純利益は前年比約1000%アップの衝撃だ。推進した当事者が公共事業のアウトソーシング化の恩恵を最大限に満喫とは、絵に描いたような我田引水である。
超低成長と超格差社会を招いた張本人
「時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」「日本の正社員は世界一守られている労働者になった。だから非正規が増えた」「正社員をなくせばいい」などなど、竹中は正社員憎しの言動でも知られる。
こんな人物を重要政策を担うキーパーソンに据えるとは、岸田は国民を敵に回したも同然だ。経済アナリストの菊池英博氏はこう言った。
「市場原理任せで弱肉強食の新自由主義をはびこらせ、この国に超低成長と超格差社会をもたらした張本人こそ竹中氏です。岸田首相は総裁選では『新自由主義からの転換』を力説しながら、新自由主義に基づくアベノミクスを継続。ましてや新自由主義の権化のような竹中氏を安倍・菅両政権に続き、重要会議のメンバーに選んでしまう。岸田首相は自分の信念がないとはいえ、新自由主義からの転換は早くも骨抜き、まるでマヤカシ。金看板の『分配』政策も抜本策は皆無に等しく、10万円相当の給付など一時的な施しで終わるのではないか。早くも、この政権の正体見たりで、弱肉強食の経済政策の根本は安倍・菅両政権から変わりそうにありません」
岸田はハト派の顔で国民に接し、「聞く力」の印象操作で「寄り添うふり」をする狡猾さ。安倍元首相や菅前首相よりもタチが悪く、危うさが漂う。デジタル田園都市構想にしても、なぜ「新しい資本主義」の「最も重要な柱」になるのか理解不能だが、初会合の配布資料には「スーパーシティ」や「スマートシティ」なる言葉がやたらと出てくる。
このスーパーシティを日本に紹介し、「スーパーシティ構想の実現に向けた有識者懇談会」の座長を務めたのも、また竹中なのだ。
田園都市とは名ばかりのディストピア構想 |
竹中たちはアッという間に「改正国家戦略特区法案(スーパーシティ法案)」をまとめ、国会に提出。昨年5月、検察庁の黒川問題のドサクサに紛れて、たった11時間の審議で成立した。
スーパーシティもスマートシティも交通、ビジネス、エネルギー、オフィス、医療、行政などを「5G」でつなぎ、あらゆる都市機能がデジタル化された街だ。大手銀行、石油会社、保険会社にコンサルティング企業、巨大製薬企業に加え、GAFAのような米系巨大IT企業や中国のファーウェイなどが官民連携で自治体のパートナーとなる。岸田政権のデジタル田園都市構想とは、まず地方からスーパーシティをつくり上げていく方針と受け止めればいい。
〈デジタル技術を活用して、仕事の場を確保、教育機会の充実、医療の充実など、地方が抱える様々な課題の解決を図り、地方と都市の差を縮める〉と、デジタル田園都市国家構想担当の若宮健嗣大臣が初会合に提出した資料には、バラ色の未来が描かれていた。本当か。
国際ジャーナリスト・堤未果氏は著書「デジタル・ファシズム」で、スーパーシティ法の落とし穴を指摘している。まず行政サービスを担う業者を決める際、住民と地方議会の手続きはすっ飛ばし、自治体の首長とパートナー企業、およびサービス提供事業者による「地域協議会」が決めればOK。スピード重視と効率優先でなし崩し的に住民主権は奪われる。
自治体の責任の所在もあいまいだ。例えば道交法の規制緩和によって導入が許されたロボットタクシー。事故にあった際、誰が責任を負うのかは不透明なまま。町全体がビジネスに有利な設計になっており、泣き寝入りとなる可能性もある。
最大のネックは個人情報の管理が緩いことだ。従来は自治体が個人情報を扱う際には本人の同意が必要となるが、スーパーシティでは町全体のサービス向上など「公益」目的なら、同意不要となるケースもある。
企業にとって個人情報は顧客の消費傾向分析と誘導で利益を生み出す喉から手が出るほど欲しい“カネのなる木”。スーパーシティ法の成立により、パートナー企業は堂々と国民の個人情報にアクセスできるようになったのだ。
自治体民営化はパソナを喜ばせるだけ
「『破壊せよ、そこに利権がある』が、新自由主義者の合言葉。竹中氏はとにかく目ざとい人ですから、スーパーシティを柱とするデジタル田園都市構想にうまみを嗅ぎ取ったのでしょう。大がかりな規制緩和で町全体をデジタル化し、大企業を優遇するスーパーシティは政府や役所に働きかけ、法や制度を自らに都合のいいように変え、利益を得る『レントシーカー』、竹中氏の仕事の総仕上げとなりかねません」(菊池英博氏=前出)
さらに政府はデジタル化に伴い、地方自治制度を解体する構想も練り上げている。総務省は18年に発表した「自治体戦略2040構想」で、2040年ごろには日本の総人口が毎年約90万人減っていくと予測。自治体行政を今の半数の公務員で回し、AI導入と公共サービスの民間委託拡大を提案した。
加えて中枢都市とその周辺自治体を地域ごとにまとめ、「圏域」という新たな自治体とし、そこに入れない小さな自治体は、都道府県の傘下とし、地方議会は介入できず上から運営。財源措置をはじめ、地方行政は国主導の中枢都市が運営し、有無を言わさずトップダウンであらゆる案件をトントン拍子で決めていく。
少子化をバネに公務員を大幅削減、公共サービスは民間任せ、地方から自治権を剥奪するとは、まさに新自由主義の極みのようなディストピア構想である。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)が言う。
「自治が確立し、市民文化が醸成され、人間らしい暮らしができる本来の『田園都市』とは名ばかりで、岸田政権の構想は『デジタル実験都市』にしか思えません。地方分権の流れから逆行し、地方都市を壮大な実験場にして将来的には切り捨て。効率優先で地方から自治と文化を奪い、デジタル支配で徹底的に住民を管理。公共サービスの民営化で、パソナが喜ぶだけの暗い未来のイメージが浮かびます」
重要会議の真ん中にまだ竹中が居座っている限り、日本の将来は暗い。
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