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岸田首相よ、正気か?「新しい資本主義」を謳う新政権の危険な経済オンチ
https://www.mag2.com/p/news/513696
2021.10.06 冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 まぐまぐニュース
日の臨時国会で第100代内閣総理大臣に選出され、同日夜に就任会見に臨んだ岸田文雄氏。その席上でも「中間層の所得拡大」に言及した首相ですが、実現は可能なのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、日本が貧しい理由を明らかにした上で、岸田政権が「取るしかない」4つの経済成長政策を提示。その上で、バラマキでは日本経済は復活しないと強く警告しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年10月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
中間層の所得倍増? 岸田新政権の経済感覚を疑う
岸田政権が発足しました。当面は、自民党内の中道左派、つまり全政界の中ではほぼ完全に中道というポジションでの政策が進められそうです。清和会支配が途切れることで、ロシア人脈、中国人脈、北朝鮮人脈などに不連続性が生まれるのが少々懸念されますが、外務大臣を長くやっていた岸田氏ですから、省内の表もウラも感覚をつかんでいるのであれば、当面は心配はないと思います。
安倍政権のように、本籍は日本会議的な右派に置いておいて、だからこそ右派に足を引っ張られずに譲位改元、日韓合意、日米相互献花外交などの中道政策を進めたり、非知識人的なキャラをフル活用してトランプの暴虐を凌いだ「ウルトラC」は期待できないかもしれません。
ですが、反対に、岸田さんが原稿を読んでいる姿には、少なくとも内容の行政的な意味と政治的な意味について、中の人なりに理解して読んでいるという安心感はあります。これは貴重であり、少なくとも森、小泉、安倍1、福田康、麻生、鳩山、菅直、のだ、安倍2、スガといった「全ての案件を把握できていない」宰相と比較すると、明らかに「まし」という感じもあります。
とりあえず、電光石火で解散総選挙に向かうという作戦も、合理的と言えば合理的であり、グズグズしていて政局を混乱させるよりは評価したいと思います。
心配なのは経済政策です。5つ指摘したいと思います。
1.分厚い中間層を復権させて、所得を倍増すると称しています。方針としては大いに結構です。今や、日本の一人当たりGDPは3万ドルを割り込もうとしています。そんな中で、中間層を持ち上げて、これを4万ドル台に戻すことができれば経済としては希望が出てくるのは間違いありません。
問題はその方法です。どうして日本が貧しいのかというと、生産していないからです。どういうことかというと、とにかく生産性の低い「日本語」「紙とハンコ」「対面コミュニケーション」に依存した事務仕事、つまり日本式オフィスワークが、全く何も生み出していないからです。つまり、コストを発生させるだけで、経済の足を引っ張っているのです。
よく、ITとかサービスについて「中抜き」が横行していると言われます。事実だと思います。本当にヒドいです。ですが、中抜きをしているのは反社でもないし、強欲な経営層でもありません。そうではなくて、中抜きしたカネは、肥大化した「本社事務部門」の経費として消えていくのです。
大手派遣会社の中抜きも、ITベンダーの中抜きも、小売店やコンビニの本部経費も全部そうです。何も産まない「本社事務部門」の経費として消えていくし、その結果として、同じ売上に対して薄く広く人件費がバラマかれて、全体が貧しくなっていくのです。
この構造を打破して、大卒50%という超高度教育国家の人材が、しっかり稼いでくる仕掛けにしなくてはなりません。具体的には、英語とコンピュータはマストで、これにプラスして、世界に通用する感性や文明のレベルでの提案力、構想力、コミュニケーション力、要するに21世紀の稼げる高付加価値型の知的労働に転換しなくてはならないのです。
そのことを岸田氏が分かっているのか、これは大きな分岐点になります。このことを分からないで、保守的な財界の言いなりに金をバラまいても、乾いた砂浜に水をやるように、アッという間に金は消えてしまいます。そして所得倍増などというのは夢のまた夢、結果的にドル建てのGDPは一人あたり2万前後をウロウロするだけの二流国家になってしまいます。
一つの試金石は、25年の大阪万博です。現状の延長で考えると、この時点で日本で万博をやって大成功を収めるには、日本の財界のパワーでは無理です。日本の財界は最終的に崩壊はしていませんが、既に国外が中心のビジネスであり、日本国内のマーケティグのために巨額の予算を用意してパビリオンを運営する余裕などはないでしょう。
そうではなくて、大阪万博は英語を公用語にして、オールアジアから出展企業を集めて、ヒト、モノ、カネが思い切り元気に飛び交うようにしなくてはなりません。そのような判断を内閣としてできるか注目したいと思います。
2.これに関連して、現在の日本を貧乏国に貶めているのは、日経新聞の購読者やテレ東さんの「WBS」の視聴者などがそうだと思いますが、
「日本経済」=「日本発の多国籍企業の連結決算の合計」
だという誤解です。
例えば、トヨタの北米での業績がいいとか、川崎重工や日立が某国で鉄道車両の大量受注をしたとかいうニュースを見ると、「まだまだ日本経済は元気」だなどと勘違いする人が多いわけです。
例えばトヨタの北米市場向けの製品の場合は、北米産がほとんどとなっています。部品は日本が多いですが、日本で協力会社が作る部品を中国製と合わせて北米で完成車に組み上げているのです。ですから、北米で車が売れると、北米での売り上げ利益になります。
そして、その利益はほとんど日本国内には還元されません。現地で再投資され、そして今は外国人の方が多い株主に配当されて終わりです。確かに日本企業が世界一になったりするのは誇らしいですが、それで日本が豊かになるわけではないのです。
問題なのは、各企業が技術的に最先端の部分をドンドン国外に出していることです。ITの多くはシリコンバレーで研究開発を行い、自動車メーカーなどのAIがらみの研究開発も国外です。デザインやマーケティングもそうです。
結果的に日本発の多国籍企業は儲かっても、日本国内への還流はほとんどありません。こうした「日本型空洞化」というのは「日本病」の深刻な原因となっているのですが、総理にその危機意識があるのかを問いたいと思います。
3.更に心配なのがバラマキです。中間層を救うということになれば、現役世代の、つまり子育て家庭になると思います。これに対して、減税かあるいは直接給付ということを考えているのだと思います。となると、給付の目的は具体的には教育費ということになります。
これが問題で、例えば現在の教育には3つの大きな問題があります。
1つは、特に大都市圏の場合に中学校の公教育が崩壊していて、塾通いをして中高一貫校に入れるし、更に大学受験のために中高でも塾通いを続けるという「二重負担」があることです。中国や昔の韓国が強行した方法がいいとは思いませんが、公教育だけでは上の教育機関に進学できないというのは異常です。
2つ目は数学、英語、コンピュータを中心に学習内容を世界で通用するレベルにしないといけないという問題です。これに失敗すると、子育て家庭は公教育と受験塾と、グローバル対応の塾と3つに通わせるという過酷な負担に苦しむことになります。3つ目は、そうした新時代への対応に地域間格差があることです。
こうした問題を解決せずに、旧態然とした公教育+塾というバカバカしい二重負担が残る中で、金だけバラまいても、その結果のリターンは限られます。教育に投資するというのは、マクロで見ても国家の将来に対する健全で正攻法の投資になるはずですが、改革が伴わず、ポンコツなままの教育体制を放置して金をバラまいても、これもまた乾いた砂に水が吸い込まれるように消えるだけです。
4.心配なエネルギー問題は、今回の総裁選で立派に争点となって、限定的再稼働の機運が出てきたのは良いことだと思います。ですが、それで排出ガス問題がクリアできるわけではありません。安心して気が緩んではダメということです。というのは、本格的な再稼働には世論はまだまだ納得していないし、反原発のムードを集票に使おうとしている政党がウジャウジャあるのは変わりません。
もっと責任を持って再稼働と、その期限をしっかり切り、日本のエネルギー政策の中長期ビジョンを打ち立てるべきです。当面は、原発再稼働で火力発電を停止に持っていき、その中で自動車や製鉄などの重工業の空洞化を防いで、何とかGDPを確保、そこで時間を稼いでいるうちに、もっと省エネ型の知的産業に転換する、そのような時間軸を明確に打ち立てるべきと思います。
5.問題は、年金改革やこれに伴うベーシックインカム論議などの、出口を早く決めて安心したいという動きです。河野太郎氏は、安易にこちらに走って失速したわけですが、そこには一種の必然があると思います。
とにかく、上記の1.から4.という経済成長政策をやって、日本のGDPを先進国から滑り落ちないところで踏ん張るしかありません。年金の支払い能力や、健保の維持をするだけの国力は、そこからしか来ないのです。今回指摘した4つの点は、改革ではないと思います。現状維持のために実務から発想すると、このような変更が、つまり高い教育水準を「英語とコンピュータ」で時代に追いつかせ、日本型空洞化を止め、教育をこれに適合させて、とにかく稼ぐことは、日本の生存戦略としてマストです。
この種の変更を改革というのはもう止めたいと思います。これが実現可能な狭いゾーンであり、これを外れたら破滅しかない、従ってこうした時間軸からの発想は、唯一の現実であると思います。そうした現状認識があるのかどうか、岸田氏の能力について、とにかく見極めて参りたいと思います。
新自由主義を止めて、新しい資本主義を目指すというのは、それを岸田氏が額面通りに考えているのなら問題です。そうではなくて、流行に乗って「今風にやります」という以上でも以下でもないと思います。日本経済はバラマキでは復活しないし、日本語と紙と対面の仕事を続ける限り中間層は復活しないからです。
ただし、岸田氏がマーガレット・サッチャーや、河野太郎のように敵を作って撃破するのでは、この成熟国家の進路を変えるのは難しいでしょう。そうでは「ない」、喧嘩腰ではない形で、この時代遅れの国家を進むべき方向に軌道修正するのであれば、活路はあると思います。そうではあるのですが、本当に進路を変えるつもりがないのなら、この先には座礁か沈没しかないと心得るべきでしょう。
(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
image by: 首相官邸
冷泉彰彦 この著者の記事一覧
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1〜第4火曜日配信。
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