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何が新総裁だ。世の中、どん詰まってるぞ! 何もかも解体してゼロからやり直せ 井筒和幸の「怒怒哀楽」劇場
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/295461
2021/10/02 日刊ゲンダイ
ここ何年か、冒頭に「これは実話に基づいている」と出る洋画が増えている。世界中、安直なフィクションにつき合う暇はないし、作り話は飽きられてるようだ。1日に公開される「007」の映画にしろ、「これは本当にあった世界転覆計画の実話です。ボンド以外は」とでも謳わないと、見てられないかもだ。でも、邦画は相も変わらず作り話ばかり。宣伝用のDVDでしか見ないが、ホラ話がほとんど。日本軍の南京虐殺の実相はこうだとか、あの政治家は田中角栄より悪党だったとか、そんな踏み込んだものがあってよさそうなのに一つもない。愛と正義の押し売りばっかり。「虚構の中にこそ真実が」なんてそんな時代はもう終わってるぞ。ウソ話でも号泣したとか、そんな映画や小説ほどアホらしいものはない。号泣とか、よく言えるもんだ。「癒やされた」とか、幼稚な言い草がはびこっている。
先日、タクシーに乗るなり、70歳前の運転手のオヤジさんがまくし立ててきた。これは実話。「カントク、まさか自民党と違うやろ? あんなカッコだけの総裁なんか“アベの桜見る会”も“森友の改ざん忖度”も絶対に手ぇつけよらんし、ゴマかすやろけど、立憲民主の枝野のおっさんはええこと言うてたで」と。「はぁ、何ですの? っていうより先輩は大阪でんのんか」と聞くや、「そうやねん。岸和田、カントクの映画みたいに若い時、ワシもボウ振り回しとったんよ」「えー、ボウて何の棒でんの?」「いや、それより枝野が税金を……次の選挙で自民党いわっしょったら(政権を取ったら)」と。
久しぶりに聞く“河内弁”が心地よかった。「悪名」シリーズの田宮二郎の清次の言い回しだ。「で、立憲民主が政権取れば、年収が1000万円の者までは、所得税を1年間払わんでええようにして消費税も減らしまっさ、と本気で言うとったよ。金持ちや株で儲けとるブルジョアから税金取ったるって。キャピタリズムちゅうのんは必ず崩壊するんやけど」と。感心しながら「オレも1000万以下やし、助かるわ」と返すと、「皆そうや。今、人口の9割5分は1000万以下。ワシみたいな貧民は3000万人はおるし。絶対、立憲民主か野党に入れたら税金タダや」と。「よう知ってまんな。おっちゃんは前から反自民?」と聞くと、「ワシは直接民主主義者やから代議制はナンセンス、選挙は行ったことなし」「ワシ、京大の全共闘やっとったんよ、69年の10.21国際反戦デモでもマルキにモロトフ投げまくったし」とその横顔が青年に戻っていた。
モロトフは火炎瓶、マルキは機動隊だ。この日は心が弾んで、69年の東大安田講堂攻防戦の本など読み直した。ユーミンの歌じゃないが、あの日に帰るなら、日本人はあの頃のラジカル(根本を見つめる)思考に返って、何もかも解体してゼロからやり直したらどうだ。何が新総裁だ。世の中、どん詰まってるぞ。
井筒和幸 映画監督
1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。
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