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※2021年10月1日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年10月1日 日刊ゲンダイ2面
【たった一日で馬脚】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) October 1, 2021
もう消えた 新政権の新鮮味
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/038sj00OdK
※文字起こし
「岸田文雄の特技は、人の話をしっかり聞く、ということであります」
自民党総裁選に勝利した直後の挨拶で、岸田新総裁が改めてこう発言したのにはズッコケた。道徳の授業じゃあるまいし、一国のトップリーダーの政治的アピールとしては、あまりに平板で当たり前すぎるからだが、1日正式に発足した党執行部人事で、その意味がよーく分かった。「人の話を聞く」とは、安倍前首相と麻生財務相の話を聞く、唯々諾々と従う、ということだったのだ。
人事では、安倍の出身派閥である党内最大派閥の細田派と第2派閥の麻生派への、これでもか、という配慮が鮮明だ。
30日昼、岸田は都内のホテルで麻生と会談。その後、幹事長に麻生派の甘利明・元経済再生相の起用が内定した。甘利は、安倍・麻生とともに「3A」と呼ばれる両者の盟友で、総裁選期間中から「岸田政権なら甘利幹事長」と下馬評に上がっていた。まさか本当に甘利を選ぶとは。
甘利は第2次安倍政権の「屋台骨」の閣僚のひとりだったが、大臣室で現金50万円をもらうという、あり得ないスキャンダルで辞任した人物である。この人事だけを見ても、岸田には「政治とカネ」の問題が相次いだ安倍・菅政権の反省ゼロということだ。
安倍は安倍で、高市早苗前総務相の幹事長就任を猛プッシュしていたらしい。岸田勝利の直後から細田派の幹部連中にしつこく電話をして、「幹事長に高市を推せ!」と大号令。「高市は無派閥なのに」と幹部らが頭を抱えていたというが、当然、岸田にも「アベフォン」でポストを求めただろうことは想像に難くない。その結果、高市は政調会長に起用された。
人事権を手放した総裁
官房長官人事では、一時、萩生田光一文科相が浮上したものの、結局、松野博一・元文科相に。いずれにしても細田派である。つまり、党の要の幹事長と内閣の要の官房長官を、麻生派と細田派にしっかり振り分けた、ということだ。
総務会長に党内若手グループ「党風一新の会」の福田達夫代表世話人を大抜擢して、わずかながら「岸田カラー」を出したように見えるが、「福田氏の党三役起用は、次世代リーダーのライバルである小泉進次郎氏への当てつけ」(中堅議員)とも。それに、「当選3回で、党の意思決定機関である総務会をまとめられるわけがない」(ベテラン議員)という冷ややかな見方が大勢だ。
総裁選で対決した河野太郎ワクチン担当相は広報本部長で、事実上、重要ポストから外された。これも“河野嫌い”の安倍の意向を「しっかり聞いた」結果なのか。この後の衆院選で「広報担当」として岸田総裁を宣伝する役回りで、河野にとっては屈辱的な人事である。
まさに露骨な論功行賞人事。NHKですら「細田派や安倍氏に気をつかった人事」と解説していた。そのうえ、驚くしかないのは、30日までに内定したポストに、岸田派議員の名前が1人もないこと。安倍・麻生に耳を貸していたら、案の定の股裂き状態なのだろう。一体誰の政権なのか。政治ジャーナリストの角谷浩一氏が言う。
「総裁として本格始動した初日から大失敗でしたね。安倍氏と麻生氏から押し込まれた人事を受け入れた瞬間にアウト。ここで突っぱねなければ、この先ずっと、『安倍麻生傀儡政権』と呼ばれます。党三役どころか官房長官にすら、自派閥の仲間を就けることができなかった。甘利幹事長に至っては、メディアから『政治とカネ』についての質問攻勢となるでしょう。衆院選を目前にして、これらが国民にどう映るのか、考えているのでしょうか」
岸田官邸の官僚も安倍政権からの“お下がり組”が復活しそう。岸田は、しょっぱなから自らの人事権を手放してしまった。
中間層に再分配なら、まずはアベノミクスをぶち壊せ |
とにかく、「人の話」を聞きすぎて、訳が分からなくなったデタラメ人事の典型なのだが、特に、高市政調会長は酷すぎる。
高市が今後、自民党の選挙公約をまとめることになる。総裁選期間中の討論では、岸田と高市の経済政策は明らかに異なっていたのに、党の政策責任者を高市に任せるのはどう考えてもおかしい。
「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」「分配なくして次の成長はない」――。岸田はこう言って、宏池会(岸田派)を立ち上げた池田勇人の看板政策になぞらえた「令和版所得倍増」をブチ上げた。政治による再分配で格差を是正し、中間層に手厚い支援をする、というものだ。
一方の高市の経済政策「サナエノミクス」は、アベノミクスのコピー。“3本の矢”は金融緩和、財政出動、「危機管理投資」と呼ぶ怪しげな成長戦略。これでは新自由主義の転換どころか、加速だ。個人ではなく企業が潤い、格差是正の再分配とはほど遠い。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「森友問題の再調査で、安倍氏に睨まれたらすぐに日和ったように、岸田氏には信念が感じられません。再分配の経済政策については、当初、期待できるかもしれないと思いましたが、今は、初志貫徹は無理だろうと諦めています。アベノミクスの焼き直しでは、結局、竹中平蔵氏が会長のパソナや電通など、一部の企業が潤うだけでしょう。安倍氏の影に潰されて、宏池会の本来の力を発揮できそうにありません」
世論は安倍・菅政権の継承を望んでいない
「所得倍増」というのなら、まずはアベノミクスの否定が先だろう。この30年、OECD諸国で日本だけ、個人の所得がほとんど増えていない。特に、安倍政権だった期間に賃金はダダ下がりだ。2015年を100とした実質賃金指数は、昨年98・6にまで低下し、日本の平均給与は、OECD35カ国中22位に沈んでいる。
国税庁が29日に発表した昨年の民間平均給与は433万1000円と2年連続の減少。これでどうやって「所得倍増」など実現できるのか。
「単に財政出動するだけでは、アベノミクスと同じで個人の所得はますます減るばかり。アベノミクスをぶち壊さなければ、問題解決の緒にもつけません。岸田氏が本気ならば、労働者に適正に還元してもらえるよう、経団連を説得して交渉したらいい。もしくは、税制に手をつけて、強制的に中間層の所得を増やすよう政治が介入すべきです。要は本気度の問題。安倍氏に怯えて岸田色が見えない人事を見ていると、経済政策においても期待が持てず、落胆しかありません。これでは衆院選も来夏の参院選も、自民党は負けるんじゃないですか」(斎藤満氏=前出)
たった1日で馬脚を現し、新政権の新鮮味はすっかり消えた。
週明け4日の首班指名と閣僚人事の後、報道各社が世論調査を実施するが、6割が安倍・菅政権の継承を望んでいなかった世論は、さて、どう判断するか。「選挙の顔」を求めて菅首相切りで右往左往した自民党議員が、再び真っ青になるかもしれない。
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