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ご立派な「負の遺産」を残した東京五輪 ウソを重ね招致した為政者たちは何を誇れるのか 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/295153
2021/09/25 日刊ゲンダイ
東京アクアティクスセンター(7月撮影)/(C)日刊ゲンダイ
東京オリンピックに次いで、パラリンピックも閉幕した。精いっぱいの成果を出された選手と運営スタッフの皆さんには敬意を表したいが、この大会が日本に何を残したのか。試合を楽しみ、選手たちの勇姿に励まされた人も多いかもしれない。しかし、国民に残されたもののほとんどは「負の遺産」ではないか? これから国が国民に課すであろう“コロナ増税”に加え、“オリンピック増税”の負担がさらに私たちの肩にのしかかってくることを考えると、気が重くなる。
東京都が今回のオリンピックとパラリンピックのために約1400億円かけて整備した恒久施設は「有明アリーナ」「東京アクアティクスセンター」「カヌー・スラロームセンター」「海の森水上競技場」「大井ホッケー競技場」「夢の島公園アーチェリー場」の6つだ。このうち大会後に年間収支で黒字が見込まれているのは有明アリーナのみ。他はすべて赤字だ。マイナスの額は1200万円から3億6000万円まで幅があるが、6施設の合計で年間7億3000万円もの赤字が出続けることになるそうだ。国や自治体の見通しは常に甘めに出ることを考えれば、赤字額はさらに膨らむと覚悟した方がいいだろう。
大会の予算を見ても、2013年の立候補当初は7340億円だったが、昨年12月時点では1兆6440億円と2倍以上になった。だが、実際には「3兆円を超す」という見方もある。1兆6440億円は大会組織委員会が公表した数字であり、それ以外に実態のよくわからない「関連経費」が膨大なのだ。その金額は東京都だけで7349億円。19年に会計検査院が調べた国の支出は1兆600億円に及ぶという。
しかも、これらの全体像を把握し、監査する機関が存在しないことも問題である。組織委員会の武藤事務総長は、取り壊しや原状回復に時間を要する施設もあり、「決算を行うのは来年4月以降にならざるを得ない」と話した。それまで実態はヤブの中だ。
関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、今回のオリンピックの赤字は約2兆3713億円におよび、東京都だけでも1兆4077億円になるという。これは1400万人の都民1人あたり10万円にもなるとんでもない負担だ。
組織委員会には損失を補填する経済力はなく、原則として東京都が負担することになるが、それも難しければ国の負担にもなる。
武藤事務総長は「開催都市が負担するのが基本だが、詳細は組織委員会と東京都と国が話し合って決まる」と言い、丸川五輪大臣は「都の財政規模を考えると、都が補填できない事態は想定しがたい」とのたまった。4月以降にどのような数字が出てくるにせよ、組織委員会と東京都と政府による三すくみの構造のなかで、責任の押しつけ合いになることは容易に想像がつく。
だいぶ以前から“ハコモノ行政”の弊害が叫ばれているが、オリンピックもその例に漏れなかったということか。「フクシマはアンダーコントロールだ」「夏の東京はスポーツに最適」「コンパクトな大会にする」とウソを重ねて招致した東京オリンピック・パラリンピック2020。2兆円だの3兆円だのを費やして、為政者たちが世界にアピールしたかったものは何なのか。確かに、とてつもなくご立派な「負の遺産」は残ることになった。
その後始末を国民に押しつけて涼しい顔を決め込んでいるリーダーたちが、政界引退後に自身の回想録を出すとしたら、2021年の日本に「負の遺産」を残したことも誇らしくつづるのだろうか。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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