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※週刊現代 2021年9月11・17日号 紙面クリック拡大
枝野幸男よ、このいちばん「大事なとき」に君は何をやっているのか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87380
2021.09.17 週刊現代 :現代ビジネス
甘えるんじゃない
「菅政権の失敗で風が吹き始めている。ここで一気に政権を取らないといけません。もう次の機会はないんですから、『良い負け方をして次につなげる』というような考えではダメです」(慶應義塾大学教授の井手英策氏)
「政策論議もいいけど、『俺がコロナ禍を何とかする』と、表に出て決意を示すべきです。菅政権がズタボロな状況で総選挙に勝てなければ、彼の政治生命は終わりますよ」(法政大学教授の山口二郎氏)
これまで政策立案などで様々な助言をしてきた2人が発破をかけるのは、立憲民主党の枝野幸男代表(57歳)である。
10月までに行われる見込みの解散総選挙では、自民党がどの程度議席を減らし、野党第1党の立憲民主党がどれほど議席を伸ばすかが注目される。
菅政権の支持率は26%と最低を更新した(毎日・8月28日付)。第2次安倍政権で最も低かった'17年7月の支持率と並んだという。
枝野が「十分に政権が代わる可能性があるという結果が手元にある」と息巻いたように、解散総選挙へと進めば、政権交代も見えてくる—。
残念ながら、そう簡単にはいかない。立憲民主党の支持率も、相変わらず低調だからだ。
最新の産経・FNN合同世論調査(8月21〜22日)によれば、立憲民主党はわずか6・6%と、約7%の支持しか得られていない。読売新聞の8月の世論調査を見ても、支持率は5%にすぎない。
つまりそれは、党代表である枝野が期待されていないということでもある。こんな最大のチャンスに、彼はなぜボケッとしているのか。
まず枝野には、発信力が欠けている。
実際、今年5月に刊行された著書『枝野ビジョン』で、枝野は〈立憲民主党や私自身が訴えてきた「自民党政権にかわる新しい社会のかたち」が、有権者の皆さんになかなかうまく伝わらないもどかしさを感じてきた〉と明かしている。
だがそれは甘えではないか。政治学者の白井聡氏が語る。
「メディアが野党のことをあまり取り上げてくれないと嘆いていても仕方ありません。そう思うなら、自らどんどん発信していかないといけない。Youtube用のスタジオをこの夏に新設したようですが、いつ見ても代わり映えしない議員が登場して政策を話すだけなら、支持拡大にはつながりません。
政権を取ったとしたら、具体的にどんな体制を整えるか、専門家を呼んでとことん討論するような、積極的な姿をもっと見せるべきです」
枝野は、「地道に、愚直に、ぶれないこと」が国民に伝わりさえすれば、支持率は上がると語っている。だがいまだ上がらないのだから、それでは足りないのだ。
記者会見の場では、表情を大きく崩すことも、感情を剥き出しにすることもあまりなく、必要なことを滔々と話すのみ。それゆえに存在感は薄く、国民の記憶に強く残る人物とはいいがたい。
ちなみに、中学・高校時代は合唱部に所属し、趣味はカラオケ。アイドルグループ・欅坂46の『不協和音』が持ち歌の一つという。
そんな枝野の人気や支持がなかなか広がらない理由は、ここぞというときの決断力の乏しさにもある。
「まっとうな政治、まっとうな暮らしを取り戻すために新しい受け皿が必要だ」と声を張り上げて、枝野率いる立憲民主党が野党第1党となったのは'17年のことだ。前出の山口氏が語る。
「立憲民主党立ち上げは優れた政治的決断だったので、決して勝負できない人ではない。ただ、あまりに慎重すぎて、勢いや調子に乗ることができない面がある。
私が『もうそろそろ、新しい政権を担う”次の内閣”も提示して、闘う態勢をつくりましょう』と言っても、『いや、'17年のようなブームは簡単には起きないから……』と状況分析してなかなか動かない。ギリギリまで状況を見極めるのは彼の短所にもなる。それではせっかくのチャンスは生かせません」
'12年、枝野が官房長官などを務めた民主党は、自民、公明両党に政権を奪われて下野した。そのことを反省した枝野は、「遠からず期待に応えられる政権をつくりたい」と、2年前に語っている。
今こそ、'09年に民主党が政権交代をしたときのように、「次の内閣」を組織して発表すればよいではないか。そのうえで、「私を首相に選んでください。私はこんなふうに国民を幸せにします」というビジョンをはっきり示す。
そうすれば、現政権に失望している人々は、枝野の声に耳を傾けるのではないだろうか。
「優等生」はもういらない
決断と同時に覚悟も必要だ。前出の山口氏は、「『俺が救国政権をつくるんだからどうか手伝ってくれ。それがイヤというなら、あなたたちは自民党を応援するというのか』と国民に迫る覚悟が求められる」とも語る。
たとえば、立憲民主党の全議員が、議員歳費を全額返上してコロナ対策に供する—最低でもこれくらいの覚悟を見せなければ、国民はついてこないだろう。ただ首相を目指すと言っても、「また口先だけのポーズか」と、誰も信じてくれない。
一方で、「民主」という割には、何でも自分ひとりで進める性格も、支持が広がらない足枷となっているという。前出の井手氏が語る。
「枝野さんの勉強会にいた時期もあったので、応援の気持ちをこめて敢えて言いますが、彼の一番の欠点は孤高を守る”一匹狼”だということです。枝野さんは頭がいいから、現実を自分の力で変えようとする。人を使いこなすのではなく、自分の才能を信じて、自分の力で動くタイプなんです。
ですから、党の内外に枝野さんを支える仲間が少なく、地方や現場の声もうまく吸い上げられていません。草の根で地域の課題と向き合っている人たちの思いが、届いていないんです」
この国を何とか変えてほしいという人々の声を十分に聞かぬまま、真面目な優等生がひとりで正しいことを言っているだけでは、チャンスは掴めない。
「高齢者から若い人に至るまで多数の支持を集めたいなら、枝野さん自身が多様な意見を受け止めて、多面的になるしかありません。この大事な局面では、理想論のみに走らず、清濁あわせ呑むような懐の深さ、人間力が求められているんです」(哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人氏)
いま立ち上がらずに、いつ立つのか。何もしなければ、そのまま消えていくだけだ。
(文中一部敬称略)
『週刊現代』2021年9月11・17日号より
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