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※AERA 2021年9月13日号 紙面クリック拡大
退任表明の菅首相、官房長官時代からの強権人事の成功体験が裏目に トドメを刺した横浜市長選
https://dot.asahi.com/aera/2021090700037.html
2021.9.8 11:00 中原一歩,福井しほ AERA dot.
総裁選の出馬断念を表明した菅首相。記者の質問が続くなか、無視するように立ち去った/9月3日、首相官邸で (c)朝日新聞社
政界に激震が走った。菅義偉首相が、自民党総裁選に出馬しない意向を突然表明した。安倍政権から続く官邸「1強」が終わりを告げるのか。AERA2021年9月13日号の記事を紹介する。
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官房長官時代から強権人事を駆使して政界と官界を支配してきた首魁(しゅかい)が、今度は身内から見事に足をすくわれた。
1年前、菅義偉首相は「派閥を持たない、たたき上げの庶民派」という看板をひっさげてデビューした。発足直後の内閣支持率は65%(朝日新聞調べ)あったが、その実態は派閥の長におんぶに抱っこ。自民党に隠然と続く派閥政治の“神輿(みこし)”に担がれて手に入れた椅子だった。
凋落(ちょうらく)にトドメを刺したのは、今年8月の横浜市長選挙だ。菅氏は元国家公安委員長の小此木八郎氏を支援するも、立憲民主党が推薦する山中竹春氏に大敗を喫した。しかも、首相の選挙区である衆院神奈川2区でも、小此木氏の得票が山中氏を下回った。小此木氏の父・彦三郎氏は神奈川県選出の大物国会議員。その秘書として仕えていたのが若き日の菅氏だった。
「菅さんは恩人の息子を敗北に追いやっただけでなく、政治生命を絶った。しかも、政権の延命を優先し、情勢調査で不利と分かるや否や、表立った支援を拒否した。恩を(あだ)で返す、自民党では絶対に許されないことを菅さんはやってのけたのです」(自民党神奈川県連関係者)
市長選直後、いま衆議院を解散したら「最大60議席を失う」という衝撃の内部調査が党内を揺るがした。その後、菅氏は求心力を急速に失ってゆく。
神奈川県連の土井隆典幹事長は本誌の取材に対し、市長選での大敗が政権崩壊につながったとの見方について、「直結しているとは思わない」としながらも、こう述べた。
「あの勝敗を見たなかで、次の総選挙が心配だと思っている方たちの不安が増大して、それが不満に変わっていくことも考えられます。総裁選になると、党員からいろんな連絡や電話がきます。それぞれの議員が地元で受け止めた声を聞いて(神奈川県連は)やっていきたい」
■市長選大敗で不安増大
土井氏は菅氏の総裁選不出馬をニュース速報で知ったという。「もっと頑張ってほしかった。でも退陣するというより、任期を全うした勇退です。そういう受け止め方をしています」
さて、菅氏に引導を渡したのは誰か。関係者によると、菅氏が8月31日に二階俊博幹事長と会談し、総裁選前の解散も選択肢にあるとの考えを伝えた。その晩、安倍晋三前首相が「自民党を道連れにする気か。絶対に許さない」と激高したという。麻生太郎財務大臣も続いた。
そもそも菅政権の誕生のきっかけは、安倍氏が任期途中で退陣したことだった。総理の神輿に担ぎ上げた2人によって、菅氏は「解散権」を封じられた。
再選に執着する菅氏は、ならばと「人事権」を駆使する。
総裁選の対抗馬と目される岸田文雄氏は、公約に「党役員の任期を1期1年、連続3期まで」と掲げた。それを打ち消すため、5年にわたり幹事長を務める二階氏の交代を決断。続けて、総裁選前に党役員人事にも手をつける算段だった。だが誰も引き受け手が現れず、万策が尽きる。最後に幹事長を打診したのは、同じ神奈川県出身で32歳下の小泉進次郎氏だった。
杉田敦・法政大学教授(政治理論)は、「権力があれば何でも言うことをきかせられる」という菅流のやり方の頓挫だと分析する。「結局、役人は人事を握れば何でも言うことをきかせられる。その成功体験が、落ち目になった途端に、通用しなくなっただけのことです」
まさに策士、策に溺れるという、あっけない幕引きだった。(編集部・中原一歩、福井しほ)
※AERA 2021年9月13日号
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