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横浜市長選の結果が示す自民党基盤の瓦解 コロナが炙り出した統治の腐敗 衆院選の大荒れは必至
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21629
2021年8月26日 長周新聞
首相・菅義偉のお膝元でもある横浜市長選で、首相官邸が全面支援した小此木八郎(元国家公安委員長)や、菅に見捨てられた現職の林文子が惨敗し、野党が担ぎ上げた山中竹春(元横浜市立大学医学部教授)が大差をつけて当選した。8人も立候補した今回の市長選では、かねてから市民の反対世論も強かったIR(カジノ含む総合リゾート)誘致の是非が問われ、その他にもコロナ禍において他より遅れていたワクチン接種等の行政対応、旧市庁舎の売却や将来的な水道民営化など、310万人もの有権者を抱える都市の運営を巡って、その舵取りを誰に委ねるのかが問われた。政府あげて推進してきたIRは、選挙の結果を受けて名実ともに白紙撤回に追い込まれ、なおかつ衆院選を控える自民党にとっては肝いりで担ぎ上げた小此木八郎がまるで歯がたたず、すさまじい逆風に晒されていることを突きつける結果となった。
横浜市へのIR誘致については地元でも反対世論が根強く、2017年の前回選挙において林市長は「白紙」を掲げて3選を果たしていた。ところがその後、横浜市に影響力を持つ菅官房長官(安倍政府当時)とのつながりのもとで推進する動きを見せ、2019年8月に正式に誘致を表明していた。今年6月には2グループが事業計画を提出し、市長選後の9月には第5回事業者選定委員会が開かれ、来年春には事業者を決定するスケジュールとなっていたが、土壇場で選挙によって覆された。
IRとは、カジノを含む総合型リゾートで、安倍政権においてアベノミクスの成長戦略の一つとして位置づけられ、それまで刑法の賭博罪などで禁止されていたカジノを合法化するために、2016年12月にIR推進法が、2018年7月にはIR整備法が成立。大阪、長崎、和歌山、横浜が名乗りを上げていた。東日本唯一の立候補となった横浜・山下埠頭への誘致については、安倍政府のもとで官房長官をつとめていた菅義偉の肝いり事業と見られ、地元家老だった林文子市長が立場を変節させながらというか、世論を欺きながら推進し、いわば強行突破をはかってきたものだった。
これに対して、地元で絶大な影響力を持つ“ハマのドン”こと横浜港ハーバーリゾート協会会長の藤木幸夫氏(91歳)らがIR誘致には猛烈に反対し、今回の選挙ではかねてよりバックアップしてきた菅、小此木といった地元横浜を地盤とする自民党代議士たちと袂を分かち、恩を仇で返した「嘘付き」こと林文子についても灸を据え、立憲民主党や社民党、共産党、連合が推したIR誘致反対を掲げる山中竹春陣営の応援に加わるなど、これまでにない共闘体制も見られた。選挙では、菅からも切り捨てられた林文子と、泡沫に終わった元衆院議員のみがIR誘致賛成を掲げ、菅義偉が全面支援した小此木自身も苦し紛れにIR反対を叫びつつ選挙をたたかうという奇妙な構図となった。
IRを巡っては、約20万人の署名を集め、住民投票の実施を求める市民運動も起こっていたが、自民党多数の議会で否決されるなどしていた。
しかし、最終的には今回のコロナ禍における有権者の自民党嫌悪が渦巻く選挙一発でケリがついた。街の未来を博打に委ね、民意に背く政治家たちの暴走は、結果として手痛いしっぺ返しを食らうこととなった。
菅首相のお膝元で 自民支持層の自民離れ
山中竹春(左)、小此木八郎
市長選には与野党ともに乱立にも見える8人が立候補した。自民党系では現職の林文子、首相官邸の大本命・小此木八郎。それに対して野党系や自民批判の受け皿となったのは、当選した山中竹春のほかに、元長野県知事の田中康夫、元神奈川県知事で民主党や維新などの政党を転々としてきた松沢成文で、その政策や訴えによって得票は大いに割れたが、IR誘致の是非もさることながら、大きくはコロナ禍における自民党菅政府に対する審判が問われる選挙となった。そして、首相のお膝元であり、小此木、菅という代議士たちにとって鉄板だったはずの地盤・牙城が想像以上に突き崩される結果となった。
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菅義偉の選挙区である神奈川2区を構成する西区、南区、港南区の開票結果【表参照】を見てみると、山中竹春の合計得票が6万811四票だったのに対して、小此木八郎が4万8653票、林文子が3万634票、田中康夫が2万5952票、松沢成文が2万1176票となっている。これまでの衆院選において同選挙区で12〜14万票を積み重ねてきた菅義偉だが、いわゆる自民党支持層の得票が顕著に崩れていることが出口調査からも浮き彫りになった。この流れが秋の衆院選につながり、野党候補が一本化されて二択の争いになった場合、現役首相の落選も現実味を帯びてくる極めてシビアな数字といえる。
鶴見区、神奈川区で構成する神奈川3区(小此木八郎の地盤)やその他の衆院選挙区も傾向は同じで、小此木、林のいわゆる分裂した自民党系の得票を足しても批判票の合計値には敵わないという特徴があらわれている。市長選としては前回よりも11ポイント近く投票率が伸び、有権者のなかで一定の関心の高まりを物語ったが、それでも50%前後(衆院選と同レベル)と相変わらず伸び悩んだ。これは無党派層といわれる日頃から選挙や政治に背を向けてきた層はさほど動いていないことをあらわした。
こうして、いわば定番となった選挙に行く半数の人たち(無党派層含む)のなかだけで争われる形となったが、そのなかで保守票が割れただけでなく、従来の保守層のなかから自民党を見限り、あえて勝機があるであろうと見なした野党候補に投票する行動をとっている層がいることが選挙結果から伺える。コロナ対応について発言してきた医学部教授の山中にコロナ禍ならではの優位な力が働いた側面もあるものの、野党候補がとくに強いわけでもないのに、それ以上に自民党離れが加速度的に進行しており、しかもそれらの自民党支持層が棄権ではなく対抗馬に投票していることが結果を劇的に変化させている。いわゆる選挙に行かない五割の無党派層が覚醒してひっくり返したものではなく、従来から選挙に行く五割の人々のなかでの変化をあらわしているのである。IR利権の暴走を巡って地元ボスの逆鱗に触れ、その影響力によって動いた力もさることながら、そうはいっても自民党に入れてきた層すら見離している状況が、改めて顕在化したといえる。
これは広島における先の参議院再選挙でも同じで、自民支持層のおよそ2〜3割が野党候補に投票し、8年にもわたった安倍私物化政治やその象徴にもなった河井案里事件に辟易として見切りを付け、コロナ禍における政府対応への批判世論とも合わさって保守地盤を揺るがした。そうして、河井案里が当選した参議院選挙よりも投票率は下がり、無党派層はそっぽを向くという状況のなかで、同じように「自民離れ」によって野党候補が当選することとなった。
こうした「自民党支持層の自民党離れ」が秋の衆院選でも各地で共通現象となってあらわれるのは必至といえる。保守にもさまざまあるなかで、例えば山口県内を見ても昔ながらの保守を豪語する人やとりわけ年配の自民党支持者たちのなかで、安倍政府以来続く私物化にケジメのない自民党の在り方や腐敗堕落した状況に眉をひそめ、国の未来を憂う人は少なくない。そうした人たちが事ここまできて見限り始めていることが、全有権者のなかでの支持率が17%、公明党との野合でかつがつ25%だった自民党をさらに凋落に誘っているといえる。
総裁選は「泥船」化 無党派動かす新勢力待望
横浜市長選の結果を受けて自民党には衝撃が走り、権威失墜で菅政府の足下が揺らいでいる。
自民党総裁選を巡る水面下の攻防や解散時期とも重ねた様々な憶測や見立てが飛び交い、「泥船の船頭争い」ならぬコロナ禍のババ抜きにも見える自民党総裁、総理大臣ポスト争いが衆院選(解散)ともリンクする形で動きはじめた。
ただ、自民党総裁すなわち総理大臣ポストについては、安倍晋三がコロナ禍で慌てて敵前逃亡した時から貧乏くじ(とはいえ権力だけは握れる)以外の何物でもなく、菅義偉では選挙の顔にならないからといって岸田その他に変わろうが、いまや劇的に自民党政府への評価が変わるような代物でもない。
コロナ禍で渦巻く有権者の鬱積した怒りが投票行動の変化につながっており、来る衆院選は大荒れになることが予想される。とはいえ、現状では野党のなかにも自民党の支持率17%をこえる政党など存在せず、単独で選挙区で張り合う政党組織は乏しい。政党政治が体を為していない状況、対抗勢力とおぼしき存在がとくになく、有権者が個々バラバラに孤立分散させられた状況のなかで、大企業や財界の組織票によって支えられた自民党の独り勝ちが続いてきた。このなかで「自民党支持者の自民党離れ」という現象にくわえて、政治に背を向ける5割の有権者のうちの1〜2割の期待を背負う存在が出現するだけでも、日本の政治風景はガラッと変わることを教えている。
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