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あの不倫官僚が原因か?日本のコロナワクチン開発を遅れさせた“戦犯”
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2021.08.20 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース
国内では二度目の接種予約が取れない「2回目難民」なる言葉がクローズアップされるなど、依然として厳しいと言わざるを得ない新型コロナワクチン事情ですが、この先のさらなる状況悪化もありうるようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、欧米先進国で始まった「3回目接種」の動きにより、日本が必要分のワクチンを確保できない可能性を示唆。さらに頼みの綱の国産ワクチン開発がここまで遅れている理由を解説しています。
ブースター接種をめぐり再び激化するワクチン争奪戦
新型コロナの感染拡大が止まらない。人工呼吸器が必要な状態でも、満床で入院すらできず、急変の不安に慄きながら自宅待機させられる。そんな患者は増える一方だ。
自宅療養の命綱である酸素濃縮器も乏しくなってきた。かけつけた訪問医は「酸素濃縮器がなければ何もできない」と嘆息する。東京五輪・パラリンピック期間中の医療崩壊が現実のものとなっている。
菅首相はどうするつもりだろうか。死者が少ないから大丈夫とうそぶく周辺の識者に引きずられ、抜本策を怠っているうちに、事態は悪化の一途を辿った。
菅首相の頼みの綱はワクチン接種だが、ここへきて、いくつかの不安材料が浮かび上がっている。
たとえば、2回の接種で十分か、という問題だ。2回接種しても感染することがあり、なかには重症化したり、死亡する人もいる。
厚労省によると、今年6月に感染が判明した高齢者のうち、2回接種者の死亡率は0.89%である。未接種者の死亡率4.31%にくらべ、かなり低いことは確かだが、2回接種しても、感染したら1,000人に10人近くの高齢者が死亡する恐さを、同時に示している。
既存ワクチンは、デルタ株など変異種にどれだけ効力があるのだろうか。米国の医療機関メイヨー・クリニックなどのチームが、ミネソタ州のワクチン接種者と非接種者計約7万7,000人のデータを解析したところ、デルタ株の感染割合が70%に達した7月時点で、ファイザー製ワクチンの感染予防効果は42%、モデルナ製は76%だった。
従来株に対しては、どちらも90%以上の効果がみられたはずである。ファイザー製ワクチンを打った高齢者が多いだけに、気になるデータだ。
取り越し苦労をすればきりがないが、南米ペルーを中心に流行しているラムダ株の感染者も日本で見つかっている。今後、既存のワクチンが全く効かない変異株が現れないとも限らない。
英国政府の緊急時科学助言グループが発表した研究論文によると、今後も高い確率で変異株が出現し、ヘタをすると中東呼吸器症候群(MERS)の致死率35%に迫る可能性もあるという。
爆発的な感染が起きた地域では、変異株が出現しやすい。デルタ株の発生地、インドがそうだ。この先、アフリカなど医療事情の悪い国々での強毒化が心配される。
2回のワクチン接種で得た抗体も、日が経つにつれて弱まる。そのうえ、ウイルスの変異は絶えることがない。だから、今後も追加で、いわゆるブースター接種を続けていかなければならないようだ。
ブースター接種については、同じ種類のワクチンか、変異ウイルス用に改良されたワクチン、あるいは異なるワクチンの混合接種など、いくつかの方法が検討されている。
欧米先進国ではすでに3回目の接種へ向けた動きが始まった。イスラエルは60歳以上の市民を対象としてスタートしているし、英、独、スウェーデンも実施する方向だ。
アメリカのFDA(食品医薬品局)は、免疫力が低下した人たちへの3回目の接種を承認する方針を決めているが、いずれ対象を広げるつもりだろう。
ウイルスの活動が強まる冬場に備え、先進各国は目下、ワクチン確保に躍起になっているのだ。
低所得国ではワクチン入手がままならず、富める国に援助を求めているというのに、どこも自国のことしか頭にない。
今年6月のG7首脳会議で、途上国にワクチン10億回分の支援を行うと宣言したが、これではとても足りないし、実行されるかどうかも疑わしい。
ブースター用ワクチンを確保する先進各国の動きに、WHOのテドロス事務局長が「少なくとも9月末までの一時停止」を求めたが、米国のサキ大統領報道官は「自制は間違った選択だ」と反発してみせた。
高まる需要に供給が追いつかなければ、ワクチン獲得競争が激化して、ワクチン・ナショナリズムともいわれる国家エゴが蔓延する。
昨年来、輸出を渋る米国を横目に、ロシアや中国が自国製のワクチンを、アフリカ、中東、アジア、南米に売りさばき、ワクチン外交による影響力強化を図ったのは周知の通りだ。
しかし、ロシアは自国内の感染が深刻化してワクチン外交から脱落。中国製ワクチンも、二度接種した医師多数が次々と感染、死亡したインドネシアのケースもあり、効果が疑問視されている。
米中対立が深刻化する今、米国が世界にワクチンを分配するための指導力を発揮すべき局面だが、バイデン大統領にその気は毛頭ないようだ。
日本も3回目接種に向けて動き始めている。8月10日に、全国知事会の飯泉会長が3回目の接種について政府の方針を早期に示すよう要望。河野太郎規制改革担当相は同月16日、日本テレビのCS番組で「ブースター分の供給の合意はできている。近々内容を示す」と語った。
だが、合意といっても、大まかな合意か、詳細をつめた合意か、契約に至っているかどうかで、受け取り方も異なる。
これまでは、東京五輪の開催という大義名分もあって、日本向けの供給には特別な計らいがあった。
米ファイザーのワクチンはドイツのバイオンテックが開発し、ベルギーの工場で製造されている。EUは当初、域外輸出を厳しく規制していたため、日本ではスタートが遅れたが、4月から6月にかけ約1億回分が輸入され、接種が加速した。この時期に限れば、EUからのワクチン輸出は日本向けが最多だっただろう。
しかし、7月以降は輸入量が落ち込み、各自治体が希望する数量の供給ができなくなって、接種のスピードが急低下した。6月21日に本格的に始まった職域接種も、モデルナ製ワクチンの供給が予定より大幅に少なかったため、受付の一時休止に追い込まれた。
このようなもたつきを解消するため、菅首相は7月23日、ファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)を迎賓館に招き、10月以降に輸入されるワクチンの予定量のうち、約1,000回分の9月への前倒しを要請した。
だが、ブーラ氏は「その余裕はない」「日本は足りているはずだ」と答えたという。世界的に需要が高まる情勢を踏まえた発言だ。結局、ワクチン供給の前倒しはかなわなかった。今後のワクチン交渉の難しさを予感させる出来事だ。
本来なら、頼るべきは国産ワクチンである。開発の現状は一体どうなっているのだろうか。
バイオベンチャー企業「アンジェス」、塩野義製薬、第一三共、KMバイオロジクスの4社が開発した異なるタイプのワクチンがそれぞれ、臨床試験の段階にある。ただし、いつ実用化されるのか、そもそも実用化できるのかどうかも、判然としない。
先行するアンジェスは昨年6月に第一段階の治験を始め、今年春か夏の実用化をめざしていた。しかし、厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が数万規模の大規模治験を求めたため、壁にぶち当たった。
過去にワクチンをめぐる訴訟に何度も直面した日本の製薬メーカーは1980年代以降、新たなワクチン製造を行ってこなかったため、大規模臨床試験(治験)のノウハウが蓄積されていない。一方、海外では、2000年ごろから次々と流行したSARS、エボラ出血熱、MERSなどに対応し、ワクチン開発が急速に進んだ。かつてワクチン輸出国だった日本が輸入に頼らざるを得なくなったのには、そういう理由がある。
しかし、これから何年も先まで、新型コロナの変異に対応していかなくてはならないとすると、国産ワクチンの実用化は欠かせない。
そこで考え出されたのが「非劣性試験」という代替手法だ。開発中のワクチンを投与したグループを、偽薬投与のグループと比較する大規模臨床試験の代わりに、既存ワクチン投与グループと比較する。そうすれば、数千規模ですむという。
厚労省はこの手法を薬事規制当局の国際連携組織「ICMRA」に提案。その議論のなかでほぼ合意が得られたとして、今年7月、各社に「非劣性試験」の準備にとりかかるよう、ゴーサインを出したばかりだ。少なくとも、一歩先に進んだのは間違いないだろう。
ただ、悔やまれるのは安倍政権以来、国産ワクチン開発にむけての政府の取り組みが弱かったことだ。
和泉洋人首相補佐官(健康・医療戦略室長)を議長とする「医薬品開発協議会」の下部組織として国産ワクチン開発のタスクフォースが設けられたのは、欧米の先行例でワクチンの効果に気づいた今春になってからだ。
ワクチン政策を取り仕切る和泉首相補佐官が、総理の威を借りて霞が関を差配してきたことは、安倍前首相の加計学園問題などでよく知られている。菅首相が最も頼りにする官僚だが、ファイザーなど製薬企業との交渉には手間取り、ワクチン接種の開始時期が遅れる原因となった。和泉補佐官がせめて昨春にでも国産ワクチン開発のタスクフォースをつくっておけば、状況は違っていただろう。
そもそも、現時点で、日本のような国が国産ワクチンを持っていないのは、世界への貢献という面でも、寂しい限りだ。国産ワクチンが生まれ、輸入に頼らないですめば、その分、途上国に早くワクチンが行き渡り、外交や安全保障にも寄与するはずだ。
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