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消えた“小池総理”と「与野党大連立」の急浮上。政局の山場は8月22日か
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2021.08.18 冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 まぐまぐニュース
先日掲載の「小池知事“二階派乗っ取り”で自民総裁就任か。盆明け政局の有力シナリオ」では、小池百合子氏が首相の座を奪う可能性について言及した米国在住作家の冷泉彰彦さんですが、事態は刻一刻と変化しているようです。冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、今後の日本の政局について考えうる2つのシナリオを挙げ、詳細に解説。さらに8月22日に行われる横浜市長選の結果如何では、日本にとって最悪となる「第3のシナリオ」もありうると記しています。
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日本の政局、秋の陣にシナリオはあるのか?
実務型内閣と見られていた菅政権ですが、ここへ来て各種調査の支持率は30%ラインを割り込み既に危険水域に入ったと言えます。かなり厳しい状況ですが、衆議院の任期切れが10月21日に迫る中で、菅総理は9月の自民党総裁選に勝利して選挙に打って出る構えを崩していません。ですが、盆明けの政局は不透明であり、何が起きるか分からないのが実情です。
コロナ対策、自然災害への対処など日本社会は喫緊の課題に直面しており、本来であれば永田町の政局談義などをしている暇は全くないはずです。私も強くそう思う一方で、既に現政権が求心力を失いつつある中では、政局を回すことがかえって社会の前進に資することになる、そんな感覚もあります。既にその臨界点は過ぎたのかもしれません。ですから、ここは、可能性のある選択肢を広げながら検討をしてみることにします。
まず、具体的な政治家の名前を取り上げる前に、前提となるファクターを検討してみたいと思います。菅総理の人気急落の背景には、新型コロナ感染拡大に関する疲労感と先行きの不透明感があるわけです。何はともあれ、これが大きな前提です。
更に、西村康稔大臣の「銀行に告げ口するぞ」とか、丸川珠代大臣の「観光は自己責任」などの度重なる失言が自民党への不信感をかき立てているわけです。極め付けは、菅総理の対話力欠如です。まるで「私には有権者に対して本当のことを言う権利も義務も能力もありません」と言う顔で喋る、そして、いつどんな時も同じように喋るというのは問題だと思います。誰だって怒るのは当たり前です。
私は加藤勝信氏のような「組織防衛の大喜利」が嫌いで、菅さんはもう少し「まし」に喋れると思っていました。東京新聞の望月記者との「ボケとツッコミ」を見ていた頃は、アドリブも行けると思っていたのですが、総理になってみると全くダメでした。とにかく、あのトークではダメです。それに対する有権者のここまでの怒りというのは歴史上珍しく、このトレンドは簡単には逆転しないでしょう。
こうした有権者の反発感情は、実は菅総理と自民党に向かっているだけではないようです。例えば国政に転じて総理総裁にという待望論のある小池百合子東京都知事は、ここへ来て東京の感染爆発と医療崩壊の中で支持を下げつつあると思います。数字で出ているのではないのですが、かなり厳しい状況だと思います。コロナ禍に関するトークということでは、小池氏の切れ味も鈍くなってきました。
小池知事にはコロナ禍に加えて、五輪チケット代金の返金問題を含む五輪の負債も重くのしかかっています。これは行くも地獄、帰るも地獄という感じです。つまり、コロナと五輪で傷んだ都の財政を更に悪化させるような格好で返金しても、また返金を断念しても、国に負担を押し付けても批判は免れないでしょう。とにかく、900億円(推定)というキャッシュをどこかから引っ張って来なくてはならない、しかも後ろ向きの債務というのはキツい話です。
そんな中で、野党第一党の立憲民主党の人気も低迷しているようです。ワクチン接種に積極的でなく、行動変容で「ゼロコロナ」をなどと抽象論を掲げていたツケは余りにも大きいと言えます。また、共産との接近も意味不明です。一方で、今春大阪で医療崩壊を起こして批判を浴びた維新は、東京がより深刻な事態に陥ったことで政治的にやや息を吹き返したとも言えます。ただ、大阪も今度の波で再び厳しくなっているので、ドッコイドッコイでしょうか。
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もう1つ大きな要素としては、解散にしても任期満了にしても、数ヶ月内に衆議院選挙があるということです。こうなると全ての衆議院議員は石に齧りついても議席を守りたいわけで、彼らにとってはこれが最優先事項になります。特に自民党の議員の場合は、磐石の組織を持っているのでなければ、自民党の人気が自分の当落に直結する中で、危機感は大きいに違いありません。
この解散のタイミングですが、菅総理が自力で解散できれば多少の求心力になるという説がありますが、日々その可能性は消えつつあります。反対に、ここへ来て、コロナ禍で緊急事態宣言を拡大するかどうかという中では、9月の解散は不可能という説もあります。
いずれにしても、こうしたファクターを総合すると、次の2つのシナリオが指摘できると思います。1つは、自民党を中心とした大連立、つまり自公政権を中心に足りない分を野党から補う作戦で、いわば1994年の村山内閣の再現ということになります。つまり自公だけでは過半数が取れないという場合に、野党の一部を取り込む、その場合に野党の顔を立てて首班は野党から出すという方法です。
もう1つは、野党が主体となって自民党を分断させて新政権を樹立する作戦、つまり1993年の細川内閣の再現ということになります。つまり自民から大量の離党者を出して政界再編をするという方法です。ちなみに、2009年に鳩山政権を誕生させたような、自民党を一気に下野させるような受け皿を野党が用意する可能性は少ないと思います。
まず、政局の山場は9月の自民党総裁選の「前」にやって来そうです。具体的には、8月22日投開票となる横浜市長選挙が気になります。ここでは、菅総理が若い時期から仕えていた小此木彦三郎(中曽根派から渡辺派の大物)という政治家の長男、八郎氏が立候補しています。
この小此木八郎氏の立候補ですが、何から何までが異例です。争点はIR(統合リゾート)つまりカジノを横浜の山下埠頭に誘致する案の是非となっているのですが、この案件は、総理と小此木氏が長年誘致の旗を振っていたわけです。ところが、このIRについて、小此木氏は「反対」を掲げるために閣僚の座を投げ打って立候補しています。つまり衆議院議員も、国家公安委員長のポストも捨てて、自分たちが推進していた「IR計画」を自分たちで潰すために立候補しているわけです。
しかも、市長選のレベルの選挙に対して、総理大臣が特定候補の支持をするというのも異例です。この問題では、菅総理の子息が大手ゼネコンに就職してカジノ推進に関与していることがスキャンダル化するのを防止するには「反対を掲げて市長選に勝利する」ことが必要という解説があります。
これはややニュースマニア向けの説明ですが、問題は、八郎氏が落選した場合、これを契機に菅総理の求心力が消滅する可能性で、こちらは全く洒落になりません。そうなると、衆議院の自民党議員団が、自分が10月に落選する恐怖から一斉に「菅以外の旗印」を求めて走り出すわけで、その勢いが政権を吹っ飛ばすエネルギーになる可能性が否定できません。
そうした場合に、想定できるのは小池百合子氏が自民党に復帰して二階派から総裁に名乗りを上げるストーリーでした。散々取り沙汰されてきた案ですが、都の感染爆発、そして五輪の後始末という問題を考えるとタイミングは「今ではない」と考えられます。
とにかく、小池氏というのは「希望の党」で1回失敗していますから、こうした世論の「空気」には敏感なはずです。反面、コロナ禍の中でここまで菅総理と奇妙な意地の張り合いをして、しかもそれに一時期は勝利しており、存在感は抜群ですから、国政復帰のタイミングとしては先送りできないとも思っているでしょう。
その場合は、小池氏は自民党に復帰するにしても、二階派の一議員として黒子にまわり、誰かを担ぐということになります。もっと大胆な予想をするのであれば、二階派を丸ごと承継して小池派に衣替えして、仮に90年代からの小池氏の「腐れ縁」、つまり日本新党系とか、小沢系とかをフル稼働してキングメーカーになるという可能性はあります。
例えばですが、総裁を茂木外相にして二階派(小池派)がこれを支えて、選挙に臨み、やや敗北した場合には国民民主と維新を取り込んで連立。その場合の首班は、玉木雄一郎氏などが想定されると思います。その上で、国民から待望論が出たら自分が登場するという流れです。
もう1つのシナリオは、自民党の党内力学として、9月に岸田文雄、下村博文、高市早苗などのクラシックな自民党政治家を総裁にしてしまうとか、または、同じように自民党の党内力学から、菅=二階体制が壊れずに、解散もしくは任期満了となる可能性です。その結果として、自民党が総選挙で大敗北を喫したとすると、どうなるでしょうか?
その場合、仮に小池氏が自民党復帰を敬遠していた場合は、選挙後に「元希望の党」グループを中心に野党主導での大連立という可能性も出てきます。つまり、細川方式で、そうなると小沢一郎という「昔の名前」が暗躍するかもしれません。その場合は、共産との関係を深めている立憲については前回同様に「排除」が続くと思われるので、過半数まで持っていくのには駒は足りないでしょう。
そこで、1993年と全く同じように、自民党の中に「手を突っ込んで」二階派やアンチ清和会のグループをゴッソリ引っこ抜くことになると思います。その場合は、茂木氏または河野氏などを総理に据えて、その政権がコケた時点で「国民から改めて推戴を受けて」小池首相の登場ということを考えているのかもしれません。
小池氏の政策ですが、とにかく政治的な判断が100%で、手なりの打ち方で状況に反応していくということになりそうです。但し、小泉純一郎氏の影響が強いので、脱原発ということは言いそうですし、既に「都民ファ」でも宣言しています。この点に関しては、15年とか20年とかの期限を切って、産業構造を知的な省エネ型に転換するまでの猶予は設けてほしいところです。一方で、本当の意味での改革に関しては、あんまり期待はできそうもありません。軍事外交は中道やや右ですが、安倍晋三のように憲法改正に強いこだわりはないようです。
小池氏を中心にお話をしてきましたが、コロナ禍に加えて豪雨禍が重なる中で、地方重視ということから石破茂氏の存在を「大穴」として見ておきたいと思います。
石破氏については、改革への問題意識が希薄であり、地方政策に関してもバラマキの域を出ず旧態依然としており心配な点が多いのですが、全く官僚の言いなりになるわけでもなさそうだし、状況に対して対応するにしても、考え方のベースはありそうです。極めて頼りなさそうですが、ベースが絶無ということではないと思います。その上で、とりあえず自分で必死に語ろうという姿勢はあります。
勿論、コロナ禍とその影響としての急速な地方衰退について、どんな対処シナリオを持っているのか、怪しい感じもするのですが、とにかく、ダークホースであるとは思います。
河野太郎氏については、破壊を伴う改革(教育、安保、産業)をするのなら、この人ぐらいしかいないので、コロナ禍で消耗する可能性のある現時点のタイミングではないように思います。ただ、小池氏の政治的勢いが強くなった場合に、あまり静観しているとお父様の二の舞になるので、勝負どころは外せないとも思いますが。
いずれにしても、22日の横浜市長選に注目したいと思います。最悪のケースとしては、誰も25%が取れずに再選挙となり、そこで合従連衡工作がされる中で、IRと菅総理の関係がスキャンダルとして炸裂、政権が崩壊して9月にはクラシックな自民党総裁選となる…というシナリオが考えられますが、そうならないことを祈るばかりです。コロナ禍の中でそんなことをしている暇はないと思うからです。
(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
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冷泉彰彦 この著者の記事一覧
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1〜第4火曜日配信。
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