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東京五輪の“学芸会”開閉会式は日本のダサさと思考停止ぶりを世界に知らしめた 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/293310
2021/08/14 日刊ゲンダイ
閉会式で表示された「ARIGATO」の文字 (C)真野慎也/JMPA
すったもんだのオリンピックが終わった。コロナ禍で精いっぱいの健闘をされた選手の皆さんには敬意を表したい。しかしながら開閉会式の中継を見て覚えたのは、「オリンピックはすっかり広告代理店が仕掛ける学芸会になってしまった」という諦念である。
オリンピックが商業主義化したのは1984年のロサンゼルス大会からだ。以来、開催に伴い動くカネはどんどん大きくなっている。今回の経費は7340億円から3兆円に膨れ上がり、史上最高額となった。
当初に掲げていた“コンパクトなオリンピック”はどこ吹く風。「オリンピックは儲かる」というイメージとともに、経費は肥大化を続けてきたのだ。
そこで乗り出したのが広告代理店で、スポンサーと組織委員会の間を取り持ち、メディアへの出稿を管理しマージンを取ってきた。4年に1度の数千億円の商機ともなれば、気合も入るだろう。インターネットの普及で一般消費者の新聞離れ、テレビ離れが加速して広告が儲からなくなるにつけ、余計にオリンピック関連の稼ぎが売り上げの大きな割合を占めるようになった。その仕事を取るためなら、政府や組織委員会が表立ってできない裏での交渉や“汚れ仕事”も喜んで引き受けるというわけだ。
1つの国や都市が自弁でやろうとするから無理が出るし、広告代理店が業務を仲介することでどんどん焦点がぼやける。“知”と“芸術”の薫りのないショーとなり、スポーツの祭典たるオリンピックの本質からずれていくのだ。
そもそも大会のためにいちいちスタジアムを建設していたら、億単位のカネが簡単に消えてしまう。ならばいっそのこと開催地をオリンピック発祥の地であるギリシャのアテネに固定してはどうか。“幹事役”は持ち回りとしてもカネはIOC加盟各国が同等に負担し共催にすればいい。それなら負担が1国に集中せず、無駄な経費もかからない。
出場するアスリートも、場所が一定ならコンディションを整えやすいだろう。アテネで共催と決めることで近代オリンピズムの精神に回帰できるし、おのずと“コンパクトなオリンピック”が実現すると思う。
五輪その国の“芸術力”のショーウインドーでもある
今回は閉会式で「天皇も参加する〇×クイズ」の演出案があったという週刊文春の記事には心底あきれたが、それがなくてもあの支離滅裂な学芸会は日本のダサさと思考停止ぶりを世界に知らしめてしまった。
案内役の女性たちのマタニティーウエアのような衣装も意味不明である。日本は三宅一生さんや山本耀司さんら気鋭のデザイナーが画期的なセンスで世界を驚かせたファッション先進国ではなかったのか? このダサさはもうどうしようもないと思った。
自衛隊が毎年行う「音楽まつり」には、礼服姿の防衛大学の学生たちが出演する。これが実に格好いい。閉会式の国旗掲揚には選りすぐりの防大の学生や自衛隊の儀仗隊を出せばよかったのにと思う。世界へのとっておきのプレゼンにこそ見目麗しい人材を投じ、日本人の凛とした美しさを見せるべきだった。それに比べてパリの次回大会のアピールは素晴らしかった。完全に日本は負けていた。
かつての日本人には、あえて崇高で難しいテーマに取り組み、わからないことを理解しようとする気概があった。そのための努力をいとわなかった。それがこの国を発展させてきた一因のはずなのに、いつのまにか私たちの中から抜け落ちた。代わりにはびこっているのは、流行やウケのよさや実利ばかりを優先し、安直な方向に流れる広告代理店的で商業主義的な発想だ。
オリンピックはスポーツだけではなく、その国の“芸術力”のショーウインドーでもある。今回の開会式と閉会式で、もはや日本が尊敬に値する国ではないことを、私たちははからずも世界にアピールする結果となった。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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