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5年で1000億の異常。政府「すべて丸投げ体質」が招いた五輪開会式の大混乱
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2021.07.30 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース
先日掲載の「無駄で無謀。東京五輪の開会式はNYタイムズ記者の目にどう映ったか」等の記事でもお伝えしているように、賛否両論が入り乱れる東京五輪の開会式。批判意見の中には「演出の脈絡のなさ」を指摘する声が多く聞かれましたが、何がこのような事態を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、日本政府の五輪開会式に関する「丸投げ体質」の裏側を紹介しています。
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電通利権が招いた五輪開会式直前の演出陣ドタバタ解任劇
午後8時から始まって、終わったのが12時前。光の絵巻物をながめるうち、途中で眠くなり、終盤は二人の会長の挨拶が長くてイライラ…。東京オリンピックの開会式を見た筆者の感想である。
当然、評判はさまざまで、海外メディアでは絶賛もあれば酷評もある。日本の識者にも、「金返せ」(北野武氏)だの「開会式は金メダル」(木村太郎氏)だのと、極端な言い方をする人がいる。
ただ、あえて不足をあげるなら、“統一感”の無さだろう。個々には見ごたえのあるショーがあり、感激するシーンもあったのだが、全体を貫く“美学”のようなものが感じられなかった。
お家芸となったサブカルチャーを多用すれば重厚感に欠け、伝統にこだわれば渋みが強すぎる。しかし、日本を表現するにはどちらも必要だ。そこに、総合的な演出力を発揮すべき余地がある。
もう亡くなってしまったが、長野五輪を演出した劇団四季の浅利慶太氏や、国際的な評価の高かった演出家、蜷川幸雄氏のような存在が全体を見渡し、混然一体とした美しさに昇華できれば、よかったかもしれない。
新型コロナ緊急事態宣言下の東京で幕が開いた東京五輪。周知の通り、開会式直前にいたって、演出や音楽にかかわる重要なスタッフが辞めたり解任されたりするドタバタ劇があった。
開会式の楽曲を担当していた小山田圭吾氏は、若いころ、障害者に“いじめ”をしていたのを自慢するかのように話していたことが表ざたになり、辞任した。総合演出の小林賢太郎氏は、お笑い芸人時代にユダヤ人虐殺をネタにしていたカドで解任された。
小山田氏や小林氏を式典演出の重要なポストに起用したことで、サブカルチャー色を強める狙いがうかがえた。小山田氏の実験的なロックミュージックといい、一風変わった小林氏のコントといい、現代的、かつ個性的だ。
彼らがいなくなったことで開会式の演出が変わったのか、あるいは変わらなかったのか、よくはわからない。しかし、何の影響もないのなら、彼らはいったいどんな存在だったのか、ということになる。
パナソニックが東京五輪用に開発したプロジェクションマッピング。1,824台のドローンが国立競技場の夜空に浮かび上がらせた“地球”の輝き。荒事の演目「暫(しばらく)」の衣装をまとった市川海老蔵さんの豪快な見得と、上原ひろみさん奏でるジャズピアノのコラボ…それぞれ見事だった。王貞治氏、松井秀喜氏とともに元気な姿を見せた長嶋茂雄氏や、大坂なおみ選手の聖火点灯シーンも感動モノだった。
それで十分と思う老ジャーナリストにすれば「開会式は金メダル」。いや、もっと凄いものができたはずと思う世界的映画監督にすれば「金返せ」になるのだろう。
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筆者が思うには、いくら才能があるといっても、小山田氏や小林氏でなければならない理由など、ほとんどなかったのではないか。他に人材はいたはずだ。彼らの過去の言動は、調べたらすぐ分かることだし、実際には分かっていただろう。
二人を演出スタッフに引き入れたのは、広告界のガリバー、電通である。電通の人選ミスが今回の騒動を招いたといえる。さらに言うなら、政府や大会組織委員会の、電通丸投げ体質がなせるわざである。
演出の総合統括は当初、狂言師の野村萬斎氏だった。そのままだったら、開会式はまた違った趣向に仕上がったかもしれない。が、なぜか、野村氏や椎名林檎氏ら7人のチームは昨年12月に解散、チームの一員で電通出身のクリエーティブディレクター、佐々木宏氏が総合統括を担うことになった。佐々木氏ら電通側と野村氏との間で、演出方針をめぐる意見がかみ合わなかったとみるのが常識的だろう。
佐々木氏は1977年に電通に入社し、ソフトバンク「白戸家シリーズ」、サントリー「BOSS」など有名CMを手がけてきた。電通から100%子会社のシンガタに移り、安倍前首相がマリオに扮して登場したリオ五輪閉会式のフラッグ・ハンドオーバー・セレモニー(五輪旗引き継ぎ式)の演出チームにも加わっていた。
寄り合い所帯である大会組織委員会から企画、マーケティング、スポンサー獲得、五輪本番の進行まで一切合切を引き受けている電通が、OBとはいえ不可分の関係にある佐々木氏を、五輪演出の中心に据えたがるのは自然なことかもしれない。
しかし、それも行き過ぎると、おかしなことになる。野村萬斎氏という異分子を排除してからというもの、電通支配がますます目立ってきたようだ。
昨年3月、佐々木氏が、タレントの渡辺直美氏を豚になぞらえるアイデアを出した。これに反対した演出振付家、MIKIKO氏は責任者を外された。その仕打ちの裏に、電通ナンバー2、高田佳夫代表取締役の意思が働いていた。MIKIKO氏は高田氏や佐々木氏にとって扱いにくい存在だったのだ。
この事実が週刊誌報道で発覚。佐々木氏はそれを認めて今年3月に辞任したが、東京五輪の開閉会式演出は「総合統括」という柱を失うことになった。いわば、司令塔不在のまま五輪本番に向けた演出の詰めの作業を進めていたのだ。
小山田氏や小林氏にかかわる問題の背景には、そのような組織的欠陥があった。そして、その遠因には、政府が政策遂行やイベント開催の実務を安易に電通に丸投げする体質がある。
2015年から19年にわたる5年間で、政府からのその種の支出額は電通本社だけで1,000億円(約560件)をこえる。最も額が多いのは、一定の性能を有する住宅の新築やリフォームに、様々な商品等と交換できるポイントを発行する事業の約80億円である。しかし、トンネル会社を通じて巨額の税金を中抜きするなど、見えない政府関連の収入があるのは持続化給付金支援事業でも明らかであり、当然のことながら1,000億円にはそういう類の金額は含まれていない。
各省庁や東京都などからの出向者が多い大会組織委員会事務局も、下請けに再委託、再再委託するやり方を承知で電通に頼りきっている実態がある。
むろん、国際的なスポーツイベントやそのマーケティングにおいて、電通が世界トップクラスの企業であることは間違いない。だが、金儲け主義をスポーツ界にはびこらせた元凶もまた、電通である。
「最初の商業五輪」といわれる1984年のロス五輪は電通の企業史のなかでも大きな転換点だった。
その2年前に、スポーツ用品大手「アディダス」創業家のホルスト・ダスラー氏と折半出資で設立していたスポーツマーケティング会社「ISL」がロス五輪で、電通に大きな利益をもたらしたのだ。
その後、電通はISL社を使って、IOCや国際陸上競技連盟などをとりまくスポーツビジネスの世界に食い込んでいったのだが、ISL社は2015年にスイスの司法当局が摘発したFIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件で、FIFAの幹部たちにカネを貢いでいたことが発覚し、その後、破綻する。電通はISL社を通じて取得したワールドカップの諸権利を日本のメディアに売りさばいてぼろ儲けしていた。
FIFA汚職事件の裁判では、電通からISL社へ提供された資金の一部が当時の電通専務、高橋治之氏あてに、キックバックされていたことが判明したが、これについて電通は何も語らず、高橋氏は現在、東京五輪組織委員会の理事におさまっている。
東京五輪の招致もまた、IOCのマーケティングパートナーだった電通の主導でおこなわれ、多額のカネが動いた。
2016年5月、日本から振り込まれた買収資金でアフリカ票の獲得工作が行われた疑いが英紙の報道で浮上。これを受け、東京五輪招致委員会は、元国際陸上連盟会長の息子が関係する「ブラック・タイディングズ社」の口座に、コンサルタント料として2億3,000万円を送金したと発表した。ブラック社の代表は電通の系列会社の関係者だった。
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また、電通が招致委員会の口座に寄付として6億7,000万円を振り込み、招致委員会から高橋治之氏の会社に9億円の送金があったことが分かっている。
こうした不透明なカネの流れについては、昨年11月26日の参院文教科学委員会で取り上げられ、「高橋さんはアフリカ票を確保できたのは自分のおかげと威張っているが、まずい発言だ。招致委と組んでロビー活動をしていたと疑われても仕方がない」(松沢成文議員)との発言があった。
東京開催が決まった後、当時の電通トップはオリンピックで1兆円の売上をめざすと宣言したという。それはそうだろう。五輪でいちばん利益を得るのは電通だ。
五輪のスポンサーは約80社に達していて、電通一社が契約業務を独占している。五輪マークがつく一切のCMやグッズの制作、流通に電通がからんで利益を享受している。五輪放映権は、米国分をNBC、日本分をNHK・民放の企業連合が獲得したが、アジア分は電通が入手しアジア各国に販売した。
それでも、電通の経営は安泰とはいえない。電通グループは20年12月期、過去最大1,595億円の赤字を出した。コロナ禍で企業の広告出稿が激減し、テレビや新聞の業績が悪化したのが響いたのだ。本社ビル売却で穴埋めするようだが、このうえ東京五輪が中止になって、見込んでいた収益が吹っ飛んだら大変な事態に陥るところだった。無観客でも開催できただけ、マシだろう。
探査報道に特化したジャーナリズム組織「Tansa」が入手した資料によると、今年6月30日、大会組織委員会とパートナー(スポンサー)企業との会議が、非公開で開かれたさい、電通出身の坂牧政彦・組織委マーケティング局長は以下のように五輪開催の意義を強調したという。
「日本でなければ、とっくの昔に中止になっていたと思います…やはりここでやめるのはもったいないです」「(五輪を開催することで)日本という国の評価、東京という街の評価を世界に示していけるのかなと。それがコロナ後の新しい社会の中での東京・日本の価値を高めていくと信じています」
電通としては、組織委員会や政府、そしてスポンサー企業の尻をたたき、ようやくこぎつけた東京五輪開会式だった。いまや、テレビ各局は、高い放映権料の元を取ろうと、どのチャンネルも五輪中継ばかりで、人々の関心を、メダル獲得ラッシュにひきつけている。
新型コロナの新規感染者がこれまでで最多となり、デルタ株の脅威が一段と高まるなか、電通のメディア支配はとどまるところを知らない。
image by: A.RICARDO / Shutterstock.com
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